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▼異国溺泉海賊編03

 船室へと入った名前と良牙は、そこで金髪の男・サンジが用意してくれたスープを飲んで冷えた体を温める。

「良牙くん、スープ被っちゃ駄目よ」
「ぶき!」

 名前の囁きに良牙も小さく頷く。ここで元の姿に戻りでもしたら長ったらしい説明をしなくてはいけなくなる。面倒という理由だけで、それだけは避けたい名前。
 もっとも、彼も水を被ると黒豚になってしまう変態体質を見ず知らずの他人に知られたくはないだろう。何より、彼らは別に知る必要のないことだ。
 それにしてもサンジという男の作ったスープはかすみに引けを取らぬ程美味かった。純粋な日本人として生まれ育った二人はどちらかと言えば和食が好みだったが、それを抜きにしても彼の料理の腕は一流だ。
 特に良牙は豚の姿とはいえ恋人と肩を並べて食事を取っているのだ。美味く感じぬはずがない。

「助けてくれてありがとうございます。私の名前は早乙女名前。この子は響良牙ですが、Pちゃんとかシャルロットでも……」
「ぶきーっ!」
「うそうそ、冗談だよ、ごめんね」
「えっと、名前にリョーガね」

 名前たちの自己紹介が終わると今度は彼らの自己紹介が始まった。船長のモンキー・D・ルフィ、剣士のロロノア・ゾロ、航海士のナミ、狙撃手のウソップ、コックのサンジ。

「それで、どうして海に流されてたの?」

 ナミの質問に名前は必死に頭を回転させこの場を誤魔化す方法を考えた。異世界から、ましてや変身する人間なんて、まず説明しても信じてもらえやしない。怪しさ満点だ。

「私たち、異国溺泉という泉に落ちて、気づいたら皆さんに助けられていました」
「ピンインニーチュアン? 聞いたことねえな……」

 一応、簡潔に事情を繕ったが嘘は言っていない。聞き慣れる言葉にウソップが唸る。元の世界へ帰るためにはこの世界にも存在するであろう異国溺泉を探さなくてはならないため、肝心な部分はしっかりと伝える。

「その他に……どこに住んでたとか分かる? 島の名前とか」
「分かりません」

 下手に嘘を吐くならば大きな嘘を。記憶喪失を装えばこの世界のことを聞き出しやすいと考えた末の良案だ。
 泉に落ちる以前のことは全て覚えているが日本だ東京だとこちらに無いであろう地名を言っても世迷い言や子供の妄想と思われるに違いない。それに二人はまだ彼らを信用している訳ではないのだ。
 聞き流してはいたが海賊船と言っていたのを覚えている。名前らの知っている海賊と彼らが同類ならばここにいるのは危険である。
 しかし、助けてもらったとも含め彼らに悪意や邪気の類はなく、現状で頼れるのは彼らしかいない。暫くは彼らの世話になると推測されるが信頼の置ける人物等か分からぬ内は、全てを話すには時期尚早。
 全然思い出せないという演技をしているとナミが眉間にしわを寄せる。わざとらしすぎて怪しまれただろうか、名前が心配しているとナミが小さくため息を吐く。

「そう……記憶喪失かしら。これだけ小さい子だから仕方ないのかも」
「ふーん。じゃあお前ら俺の仲間になれよ」
「ってお前は何言ってんだよ!!」

 ルフィの唐突な提案にウソップが全力でツッコミを入れる。それもそうだ、こんな子供と黒仔豚を仲間に引き入れて何の特がある。と言うよりいずれ親御の元へ返してやらねばならないのは明白。
 故郷へ帰した後に海賊と関わっていたなどと海軍に知れたらこの子がどうなることか分かったものではない。最悪海賊の仲間とみなされ処刑される。
 そんなことも分からないのかと、ウソップだけではなくナミとサンジまでもが怒鳴り散らす。ルフィは至極つまらなそうに唇を尖らせている。

「いいじゃねえかよー。帰る場所分かんねぇんだろ」
「よくねえ!」
「よくない!」

「……くすくす」

 気付けば名前は笑っていた。彼らの掛け合いが遠い場所にいる家族たちのやり取りのようでつい笑ってしまったのだ。
 名前の顔が綻ぶのを見て良牙も、ルフィたちも笑う。彼らは思ったほど悪い人間ではないらしい。
 名前はテーブルの上に座っていた良牙を抱き上げ、再び口を開く。

「しばらくの間お世話になります」
「おう!」


「……和んでるとこ悪いが何か島が見えるぞ?」
「見えたか……。あの島が見えたってことはいよいよグランドラインに近づいてきたってことよ!」

 外を眺めていたゾロの言葉に全員が船室から出る。名前も良牙を抱えたまま後に続くと水平線に島が見えた。
 ナミの言葉に知らない単語が出てきたが、それはまあ後々この世界について聞くことにして、今はあの島についての説明に集中する。
 あの島にはローグタウンという有名な町があり、別名『始まりと終わりの町』と言われている。かつての海賊王ゴールド・ロジャーが生まれた場所であり、処刑された場所でもある。
 その話を聞いたルフィは俄然立ち寄る気満々となっている。名前たちも、島に着くまでにこの世界のことを少しでも聞いておくことにした。

「ぶきき?」
「うん、良牙くんが居るから大丈夫」
「ぶき!」

 黒豚姿の良牙の言葉は名前に通じている訳ないのだが、彼が何を言いたいかは伝わっているようで、彼女は優しく微笑んだ。彼も、照れたように笑い返す。

 兎にも角にも、名前と良牙が行き着いた先はやはり異世界であったが、面白い人たちに出会い、助けられた。
 元の世界へ帰れる保証もないければ楽に進んで行ける訳もない、彼女らには様々な苦難が訪れるであろう。
 けれども、どんな困難も二人ならば乗り越えられる。二人ならば大丈夫。


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