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▼彼らなりの大団円

 マーベリックの撃った銃弾は予想に反し、名前の肩を貫通していた。
 何がどうなったのか、今の彼女に考えるだけの余裕はなく、ただ一つ解ることを挙げるならば、腹に回っている腕が助けてくれたという事実だけ。

「名前、後は任せろ」

「こ、て……」

 死んでしまったと思っていた親友の声に、名前はゆっくりと意識を手放した。



 名前の意識が浮上したのはそれから数時間後と、意外に早く。

「ん……」

 目を覚ませば知らない天井、なんてのはよくある話で。名前は病院にいた。

 彼女の目覚めにいち早く気付いたのは言わずもがなバーナビー、その次に楓だ。
 バーナビーは決壊したダムの如く涙を溢れさせ、彼の向かい側で楓も涙を流し喜ぶ。

「名前ッ……!」
「名前! 生きてて良かったぁ〜!」

 それはたちまち病室内にいたヒーローたち全員に広がってゆく。

「名前さん……!」
「もう、心配したのよ〜」
「名前良かった、意識が戻ったんだね……!」
「良かった! 本当に良かった!」
「どっか痛むとこあったら言えよ」
「ほんと、心配したんだから!」

 皆口々に彼女の生還を喜んだ。
 当の本人は少し大袈裟すぎると感じたが、ちっとも大袈裟なんかではない。
 あの時の名前は楓を守ることで頭がいっぱいで気付いていないかもしれないが、下手をすれば殺されていたのだ。

 それに、それだけ心配してくれていたのだと思うと、名前の心は温かさで満たされていった。

「楓、バーナビー、みんな……!」

 中でも楓を泣かせてしまったことに罪悪感を感じ、彼女に触れようと腕を動かそうとしたが上手くいかない。

「あれ、腕が……?」
「当然です! あなっ、貴女は、肩を撃たれて、るんですよ!」

 嗚咽混じりに、呆れた様子で答えるバーナビー。しかしその表情は今までにない程柔らかい。

 そう言われれば右肩と左の太ももに熱を感じる。

「そうだっけ……あっ、虎徹! 虎徹はどうなったの!?」

「名前、お父さんなら大丈夫だから安心して」
「隣のベッド、見てご覧なさい」

 指で示したネイサンに言われた通り首を動かしてみれば隣のベッドで横になりピースしている虎徹。

「こいつは打撲とアバラ三本折れて全治三週間だとよ」
「因みに名前は全治一カ月ね」

 優しく笑うアントニオとパオリン。
 涙を拭い、可愛らしい笑顔を向ける楓に今度は名前が泣く番だ。

「楓が、みんなが無事で良かった……!」

 これにて一件落着、大団円だ。……とは、上手くいかないのが人生である。

「良くありません!!」

 大声を出したのは未だに涙を流しているバーナビーだ。
 あまりに必死な形相なので名前の涙も引っ込んでしまい、虎徹も思わず顔が引きつる。

「オールドヒーローの間では自己犠牲が流行っているんですか!?」
「自己犠牲ってオレたちゃそんなつもりは……」
「あれのどこが自己犠牲じゃないって言うんですか!」
「わ、私は楓を守りたいが一心で……」
「私のために名前が死ぬなんて許さないんだから!」
「えーっ、楓もそっち側!?」
「大体! 虎徹さんも名前も、感情的になったら後先考えず行動する癖を直して下さい!」
「もっと言ってやってバーナビー!」
「うう、誰か助けて〜」
「バニー、俺たち怪我人!」
「関係ありません!」

 それから、バーナビーと楓の説教はしばらく続き、他のヒーローたちはその光景を微笑ましく眺めていたのだった。


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