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▼バスターコール

『よりによって、バスターコール掛けちまった〜!!』

『建物も人も、島そのものも!』

『全員島を離れて! エニエス・ロビーにバスターコールがかかった。島にいたら助からないわ!!』



「バスターコール……バーナビー!」
「貴女の事だから負傷して動けない海兵たちを助けたいと言い出すんでしょうね」

 そう言って眼鏡のブリッジを押し上げる彼の顔は呆れというよりは慈愛に満ちている。
 彼の相方と一緒でお人よしな名前は、エニエス・ロビーにいる動けない人たちを全員救いたいと願うのだ。
 人一人の手で救える人数なんてたかが知れている。それでも、自分の体を犠牲にしてでも、零れ落ちる人間を必死になって拾おうとする。
 バーナビーはそんなヒーロー然としている名前に惹かれたのだ。他人の喜びを自分の事のように喜び、他人の悲しみを分かち合ってやれる、純粋な心に惚れたのだ。

「手伝ってくれる?
「勿論。僕もヒーローですからね」

 そこにいるのは異世界で迷子になった男女ではなく、人々の平和を守る二人のヒーロー。

 NEXTを発動させ蔓を撚り合わせ司法の島から半分ほど架けられている橋までの道を作りだす。
 バーナビーは名前の負担を少しでも減らそうと彼女を抱き上げ緑の橋を駆ける。強靭な植物で造られたその橋は、二人分の体重が乗ってもビクともしない。

 ちらりと司法の塔を見やれば壁が崩れ、角の生えた怪物が海へと落ちてゆくのが見えた。その怪物の正体はチョッパーなのだが、二人は気付かない。
 しかし大丈夫だろう、クルーは皆手練れだ。何が起ころうと彼らはロビンを解放してくれる。

 より多くの人を救うため、島全体を見渡せる裁判所の屋上まで駆け上がると名前は再び体を青く光らせた。
 彼女のNEXTはエニエス・ロビーに生息している植物のほとんどを操る。大量の植物は土から根を出し一斉に動き回り、近くにいる負傷者を運び出した。

「うわぁ何なんだァ〜!?」

「お願い、大人しくしてて! あなた達を外の軍艦まで運ぶから!」

 暴れようにも身体が動かせず声を張り上げることしかできない海兵たちに、優しい声が響く。
 運ばれながら裁判所の上を見上げるとそこにいたのは赤いライダージャケットの男性と、彼に抱き上げられている女性。
 声の主は美しい金髪の美女の方で、二人とも世界政府を敵に回した麦わらのクルーであった。

「敵に情けを掛けられるのは海兵の恥だ!」
「そうだ! 今すぐ降ろせ!」

 敵に助けられることを恥じている者が大半。それを見たバーナビーが口を開いた。

「僕たちはヒーローです。あなた方を見捨てるわけにはいきません」
「あなたが死んだから悲しむ人は必ずいる。だから、まずは生きて」
「その上で生き恥を晒したくないと言うのなら、僕らの知らない所で死ねばいい」

 敵に情けを掛けられようと、醜態を晒そうと、死にたくないというのが本音だ。それに彼女の言うとおり死ねば悲しむ人がいる、中には妻子ある者だっている。

「っ、すまない……!」

 海兵の一人がその言葉を口にするとそれを皮切りに他の海兵たちも口々に礼を言い出す。

「いいの。困ってるときはお互い様よ」

 体が動かずただ死を待つだけだった彼らには、にこりと微笑む彼女が女神に見えた。
 全ての罪を受容し、全ての人間に手を差し伸べる。まさに女神。この出来事は後に“エニエス・ロビーに舞い降りた女神”という見出しで世に出回る事となる。

 近くまで行けば彼らの仲間が引き上げてくれるだろうと、一通り送ったのを確認しバーナビーは踵を返す。
 蔓を使い司法の塔に戻ろうとしたその時、砲弾が司法の塔上部に直撃する。そのまま塔上部は滝壺へと落ちようとしていた。

「……向こうまでジャンプして戻ります。しっかり掴まってて下さい」
「でも時間は……」
「先ほど一時間経ちましたから大丈夫」

 CP9のバカップルと戦ってからもうそんな時間が経ったのかと、名前は正義の門を見やった。
 バーナビーの体が青く光り、落下する司法の塔へ飛び移る。そのまま塔を駆けて再び跳ぼうとしたその時だった。

「! バーナビー、そげキングが!」
「ったく世話の焼ける! 名前、僕の首にしっかり掴まってて!」

 落ちてゆく足場を駆けながら片手で名前を支え、もう片方の手でそげキングのマントを掴む。彼の両手はもう一杯いっぱいだ。
 力一杯に足場を蹴りつけ司法の塔へと飛び移ればちょうどゾロとサンジがいて、手元のそげキングを見るなり胸をなで下ろしていた。

「名前ちゅわん! 無事で良かったぁ〜! あと眼鏡も」
「僕はついでですか。別に構いませんが」
「……バーナビー、ウソップを助けてくれてありがとな」
「礼は要りません。仲間ですからね」

 穏やかな笑みを浮かべるバーナビーにサンジとゾロは、そうだったな、と口元に弧を描く。
 そのやりとりを見ていた名前も何だか嬉しくなってバーナビーの胸に顔を埋めた。

「ん? ウソップ? そげキングじゃないの?」
「はぁ……ややこしくなるからお前はちょっと黙ってろ」
「? うん、わかった」


・エニエル・ロビーから脱出

 名前もバーナビーも例外なくボロボロで、まさに満身創痍だった。
 脱出を手伝ったロビンにお礼を言おうとしたルフィの口を彼女の手が塞ぐ。

「みんな! ありがとう」

 ロビンの言葉に、みんな心から笑顔になった。


「さぁみんな、とっととずらかるわよ!」

 しかし海軍からの攻撃が止むわけではなく、容赦なく撃ち込まれる砲弾をゾロとサンジはルフィの体を使い、名前は植物を使い弾き返す。



「このケンカ、おれ達の勝ちだぁー!!」


・メリー号を弔う

「長年船大工をしていたがこんな凄い船は見たことねぇ。見事な生き様だった」

 ルフィはメリーを寝かせてやる決意をした。今まで


「みんな、これ……」

 名前がクルーたちに差し出したのは急拵えではあるが能力で作り出した満開の花たち。それぞれ受け取り、各々の思いと共にメリーに手向ける。
 一番新入りのバーナビーはメリーに対する思い入れこそ薄いが、その僅かな思い出を紫苑の花に乗せた。

「……じゃ、いいか、みんな」

 ルフィの言葉にクルーたちは静かに頷く。

「メリー、海底は真っ暗で寂しいからな。俺たちがしっかり見届けてやる」

 松明の炎をメリー号へと移せば、船体は煙を上げながらゆっくりと沈んでゆく。


『ごめんね、もっとみんなを遠くまで運んであげたかった』

『だけどボクは幸せだった。今まで大切にしてくれてありがとう』

『ボクは本当に幸せだった。君たちがいたから』


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