▼ヒーローカップルvsオリキャラの敵 ※オリキャラ出てきます 「さて、僕たちの相手はどんな奴だろうか」 「穏便に手錠の鍵が貰えたら良いのだけど……」 「多分無理でしょうね」 「はぁ……」 諦めたように溜め息を吐いた名前の手を取りバーナビーは目の前の扉を開ける。 そこにはダンスホールのような内装の部屋が広がっており、中央で黒いスーツを身に纏った男女が社交ダンスを踊っていた。 「待っていたぞ」 「アンタたちはアタシたちが相手してあげる」 「貴方たちは……?」 顎髭を蓄えたダンディズム溢れる男性とカリファとはまた違った種類の美しさを持った長髪の女性。 裁判所の屋上に立ったとき、司法の塔にいた覚えがあるためこの男女もCP9のメンバーだろう。 「オレたちはCP9が二人!」 「誰もが羨む相愛ペアー!」 「アンディ&ケーティ!」 二人の息の合った自己紹介。バーナビーと名前は律儀にも二人の口上を黙って聞いていた。 これが俗に言うバカップルなのだと、物珍しく二人を見ているバーナビー。彼と名前もまた、バカップルに極めて近い立場いる事実を本人たちは気づいていない。 アンディとケーティはそれぞれ手錠の鍵を持っており、素直に渡す気はさらさらないと言う。 つまりは、必然的に戦わざるを得ない状況。 「そうだ。名前、この戦いはヒーローモードでいきましょう。マリア&バーナビーなんてどうです?」 「本当!? 嬉しいっ、私ずっとバディヒーローに憧れてたの!」 きらきらと輝く笑顔に、僕も貴女とバディになりたかったんです、と笑顔で返す。もはや二人の世界だ。 アンディたちも時折二人だけの世界を作ることがあるが、相手に作られると癪に障るものだ。 「オレたちを無視しやがって……!」 「大丈夫よアンディ。強さもラブラブ度もアタシたちの方が上!」 その言葉にバーナビーの眉がぴくりと動く。 「残念ですが、どちらも僕たちが上ですよ」 「えっと……あのねバーナビー、あんまり挑発しない方がいいと思うの」 不敵に笑うバーナビーに、心配そうに眉尻を下げる名前。 未だインターバルの一時間は経っていないのだから今の彼は一般人と何ら変わりないのだ。ヒーロースーツを着ていないのだから余計に心配だ。 何にせよ相手を怒らせないに越したことはない。しかし挑発とも取れる彼の言葉に対してアンディはその言葉に乗る様子もなくたち不敵に笑ってみせた。 「はっはっはっ。そう言っていられるのも今の内だ……嵐脚!」 「っ!」 先に仕掛けてきたのはアンディだった。足を払うようにして繰り出された斬撃が彼女たちを襲う。 しかしながら名前も負けてはいない。NEXTを発動させ綺麗な長髪に隠された項から一本の薔薇を取り出し、花びらを舞い踊らせながら一本の鞭へと成長させる。彼女の愛武器、ローズウィップだ。 シュテルンビルトにいた頃と変わらない綺麗な所作にバーナビーは思わず見とれてしまう。 鞭を伸ばし、飛んできた嵐脚の側面を叩き軌道を逸らせば斬撃はそのまま天井の一部を崩した。 「……貴方たちの悪事を……悪事?」 「悪事でいいと思います」 「わかった。……私はマリア、貴方たちの悪事を許すわけにはいきません」 この場にヒーローTVの名実況アナウンサー・マリオがいれば全力で声を張り上げていただろう。清く正しく美しい、我らが女神の登場だと。 いつも通りマリアの決め台詞とポージングを決めた名前に続いて、バーナビーもポーズを決める。 「そして僕はバーナビー・ブルックスJr」 「二人合わせて、」 「マリア&バーナビー!」 そこにいるのは異世界で迷子になった男女ではなく二人組のヒーロー、マリア&バーナビー。 こちらもまた息の合った自己紹介。アンディ&ケーティは自分たちの時と同じようにヒーロー二人の口上を黙って聞いていた。案外律儀なようだ。 「美しい……」 「かっこいい……」 「ハッ! 見とれてる場合じゃねぇ!!」 「そうだったわねアンディ!」 「つーかオレたちの方が息ぴったりだよな! ケーティ」 「そうね! アンディ」 「……名前! 僕たちも抱き合いましょう!」 「そんなことしてる場合じゃないのよ! ロビンのために鍵を貰わないと! それに今は名前じゃなくてマリアなの!」 抱き合うバカップルが癪に障ったのか、対抗にとバーナビーが腕を広げてハグを要求するも名前に怒られてしまった。 ぷんすか怒る彼女が可愛くて仕方がないバーナビーは、彼らの事をバカップルと呼ぶ資格はないだろう。 「ケーティ、こっちの女は俺がやる。お前はその眼鏡君を頼む。愛してるよ」 「りょーかい。アタシも愛してるわ」 愛しい恋人にウインクを飛ばすとアンディは真剣な面持ちで名前を見やった。 「お前、さっき体が光ってたが能力者か?」 「だったら何、不公平とでも言いたいの?」 「いんや、俺も能力者だからな。お互い様だ」 完全にヒーローモードへと切り替えた名前との受け答えにニヒルに笑うアンディ。 超人系(パラミシア)ならば何の能力か探るのに時間が掛かりそうだと考えていたが、どうやらその必要はないようだ。 彼の体は見る見るうちに大きくなってゆく、爪や歯は鋭く、毛色は黒と黄色。 「オレはネコネコの実、モデル“タイガー”。つまりお前と同じ能力者さ」 「いつ見ても格好いいわアンディ!」 能力者は能力者でも彼らと名前らは全く違うのだが、彼女らそんな事どうでもよく、それよりも深刻な問題と直面していたのだ。 「た、タイガー……元気にしてるかな」 「マリア! 今は虎徹さんの心配をしてる場合じゃないです!」 「ハッ、そうだった……!」 バーナビーの声に我に返ると、アンディの鋭い爪が名前目掛け振り下ろされていた。 咄嗟に避ければ石で出来た床はいとも簡単に抉られる。ヒーロースーツを着ていない現状で受けたら一溜まりも無いのは明白。 名前はローズウィップを握ったまま、彼の爪を避けることしか出来ない状態に。 名前を助けに入ろうとしたバーナビーを鋭い突きが襲う。 「!」 「アンタの相手はアタシよ!」 バーナビーにはケーティが、人足し指を突き立てて迫る。瞬時にその軌道を見極めかわせば、石でできた床が破壊された。あと七分。 彼は目を見開き、すぐさま細くすると考察した。さすがにあれを避け続けるにも限度があると、攻撃を避けるように室内をでたらめに走りだす。あと六分。 名前もまたアンディの攻撃を避けることしか出来ていない。あと三分。 「ほらほら逃げてばっかり? 眼鏡君!」 「眼鏡君……。いえ、それももう終わりです」 「?」 ぴたりと足を止める。それにつられ、何か策でもあるのかと足を止めて警戒するケーティ。 「ちょうど一時間が経ちました」 眼鏡のブリッジを押し上げると彼の体が青く輝く。ハンドレットパワーが発動したのだ。 百倍に強化された脚力を使い、目にも止まらぬ速さでケーティに近づきそのまま蹴りを入れる。両腕でガードするがそのまま吹っ飛び、派手な音を立てて壁にめり込んでいく。 女といえど敵には容赦をしない、だからこそキングオブヒーローに成れたのだ。 「ケーティ!」 それなりの外傷は負っているが彼女もCP9に名を連ねているのだけのことはあってぴんぴんしている。六式使い、紙絵でひらりと避ける。 「アタシなら平気よアンディ。……あーん、ちょっと油断しちゃったわ」 「しぶといてすね……」 バーナビーは蹴りを入れつづけ、ケーティは紙絵で後退しながら避け続ける。 「チッ!」 「あらあら。さっきは油断しちゃったケド、当たらなければ意味はないわよ?」 「……いえ、これでいいんです」 「何を言って……あんっ!?」 「うおっ!? け、ケーティ!?」 「アンディ!?」 いつの間にかアンディとケーティはダンスホールの中央へと追い込まれており、互いに背を向ける形で合流した。 「ふんっ。これで追い込んだつもりぃ!?」 「逆に、背中合わせになった事でオレたちの死角は無くなったぜ!」 「それはどうでしょうね」 「足元をご覧なさい」 「えっ……やだっ、足元に何か……!」 「いつの間に!」 足元には大量の種子が彼らを囲んでいた。 名前とバーナビーは相手の攻撃を避けながら、彼らに気付かれぬよう種を撒いていたのだ。 気付いた時には既に遅く、バーナビー同様名前の体も青く輝き始める。 全て種子は時に編み込み、時に太ましく成長し、見る見る二人の身体を拘束してゆく。 「ってアタシたち縛られちゃってるぅ!?」 「どう? テイカカヅラとツルバラの組み合わせは。なかなか抜け出せないでしょ?」 口元に弧を描き、長いブロンドをかきあげる名前。その姿は耽美で、ベテランヒーローの貫禄を見せつけていた。 その横でバーナビーが息を吐く。 「くそがっ! こんな草引きちぎってや……っ!」 アンディが力任せに蔓を引きちぎろうとした瞬間、彼の鼻腔をくすぐる甘い香り。 名前がNEXTでサルナシの蔓を使い上から更には拘束を強めたのだ。ご丁寧に実まで生っている。 サルナシはマタタビ属の植物、故にネコネコの実モデルタイガーを食べた虎人間のアンディには効果覿面だ。 「ふにゃ〜ん」 「いや〜んアンディか〜わ〜い〜い〜!」 「ごろろろ……」 酔っぱらったように喉を鳴らす様はまさに猫。とろける表情の恋人にケーティはメロメロだ。 「ああ〜ん、写真撮りた〜い……ってそんな場合じゃないわ! アンディしっかりして!」 「オレはぁもうだめだぁ……」 完全に戦意を失ってしまったアンディに、ケーティもこれ以上の戦いは諦めたようだ。名前とバーナビーも胸を撫で下ろす。 |