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▼01

 その日の私は終始機嫌が悪かった。

「転入生の安室さんだ。自己紹介してくれ」
「……安室ナマエ。君らとよろしくするつもりはないから悪しからず」

 転入生、という肩書きを与えられた私は不機嫌を隠そうとせず、素っ気ないを通り越して敵意すら感じられる挨拶をした。
 当然生徒たちはぽかんと間抜け面を晒して、次の瞬間にはその表情に嫌悪を浮かべる。餓鬼は嫌いだ。
 そもそも私は大学を卒業して警察庁警備局警備企画課に勤める国家公務員なのだから身体が縮んだくらいの理由で中学校に通わされる所以なんてこれっぽっちもないのだ。
 機嫌が悪くならない理由がない。あのクソ上司め、怨むからな。

「えっと……じゃ、じゃあ安室はあの空いてる席に座ってくれ」

 眉尻を下げ明らかに困ってますといった表情の教師に従い窓際の最後尾に追加したであろう余り使用された形跡のない席に着いた。
 あの自己紹介が効いたのかSHRが終わっても話しかけてくる奴は居らず、少しは気分がマシになった。

 義務教育なんて何年振りだろうか。十数年前の私だったら将来の為にと授業に集中していたが今の私は板書なんてする気も無ければ教師の話を聞く気も勿論無い。

「なぁ自分、教科書まだないなら見せたろか?」

 最早教科書すら出していない私を、転入したてで教科書が無いものと勘違いした親切な生徒が自身の教科書を見せようと話しかけてきたがそれを制止し、はっきりと断りを入れる。
 餓鬼は嫌いだが他人の親切を無碍にするほど悪い大人ではないので返事くらいはする。親切を仇で返す程失礼なことはない。

「教科書はあるわ。ただ必要ないから出してないだけ、見せてくれなくて結構。親切にどうも」

 例えそれが鼻につく言い方であろうと関係ない。これが私、名字名前なのだ。現在は偽名の上に苗字は他人の、しかもこれまた偽名を借りているので最早私が名字名前であるなどと胸を張れる状況ではないが。
 そんなことは置いておいて、度が入っていない眼鏡を掛けた彼は私の言葉をどのように受け取ったのか、くつくつと笑ってみせた。

「自分授業受ける気ないんかいっ。安室さんっておもろいな」
「無駄口叩いてる暇があるならちゃんと授業に集中しなさい」
「手厳しいなぁ……」

 一応忠告はしたから後はこいつが教師に注意されようが私には関係ない。
 困ったような顔を浮かべてはいるが少しも困った様子は見受けられはず、寧ろその貼り付けたような表情が癪に障る。

「俺は忍足侑士。隣になったのも何かの縁や思うし、よろしゅうな」
「……」
「無視かいな、自分冷たいなぁ……」

 さっきからごちゃごちゃと五月蝿い。これだからガキは嫌いだ。


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