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▼OP→T&B 05

・軍人である夢主がシュテルンビルトのヒーロー制度に疑問を持つ

「海軍に所属している私にとって犯罪者を捕えることは日常であり義務ですから、それでポイントを稼ぐ、ということに些か疑問を感じます」
「犯罪者は怖い。だからこそエンターテイメントを織り交ぜ市民から恐怖心を取り除いているのだよ」

「貴方方はそのポイントとやらを獲得するために人助けをするのですか?」

「失礼しました。口が過ぎましたね」



・未知との遭遇

「おお……! これがパーソナルコンピューターなるものですか」
「そんなに珍しいですか?」
「はい。私の世界にはない物ですので」

 映像媒体に電伝虫を使っている世界観からすれば、この世界はさぞハイテクに満ちているだろう。




 今日も今日とてユーリさんに許可を頂いて司法局に登録してあるNEXTの情報を虱潰しに閲覧していた時だった。
 元の世界との唯一の繋がりである子電伝虫が電波を受信する。
 いつも持ち歩いている私専用の子電伝虫なのだが、なぜか青キジさんの子電伝虫とだけ繋がっているのだ。

「プルプルプルプル……ガチャ」

『……よう、俺だ。元気にしてるか?』
「はい、それなりに……そちらに戻る手掛かりは依然見つかりませんが。青キジさんもお変わりないようで何よりです」
『ああ、お前が元気そうで良かった。……俺の方もこれといった手掛かりは見つかってない』
「そうですか」
『まぁ……何だ、こんな時に言うのもアレだが、お前の辞表は俺が預かっておいた』
「ありがとうございます」

 私は頂上戦争が終わって早々こちらの世界に来てしまったから、海軍本部が今どうなっているのかは青キジさんに聞かされた位でしか把握していない。
 センゴクさんが元帥の席を退くと言うのを聞いて、私はいつ辞めても良いよう用意しておいた辞表のことを彼に伝えたのだ。

 センゴクさんは新しい元帥に青キジさんを推しているそうだが、上は赤犬さんを推すだろう。そして二人の間には確執がある。
 そうなってくると見えてくるのは二人の喧嘩だ。自然系能力者、しかも炎と氷の両人が喧嘩をするとなると島一つが犠牲になるくらいの規模になることは容易に想像がつく。
 二人が喧嘩するのは別に構わないが、その結果だけは気になる。どちらか勝った方が元帥になるのだから。
 青キジさんが元帥になれば私は大将になってでもついて行き、赤犬さんが元帥になれば彼は軍を辞めるだろう。
 青キジさんが海軍を辞めれば私も共に海軍を辞める。こちらの世界に来るずっとずっと前から決めていたこと。私は青キジさん以外の下で働く気は毛頭ないのだから。

『しかしまぁ、俺に預けて良かったのか?』
「愚問。私は貴方の下でしか働くつもりはありませんので」
『あらら。とんでもない奴に愛されたもんだ』
「そうですね、貴方への恩を返さないと死ぬに死ねません」

 この関係に恋愛感情は存在しないと分かっていての冗談だ。彼への忠義と彼からの信頼が我々を結んでいる。
 死んでも返せない恩がある。


『……そうだ、言い忘れてた』
「何です?」
『俺はこれから野暮用がある。しばらく連絡は取れなくなると思え』

 大方、件の喧嘩でもするつもりだろう。決着を付けるのには軽く見積もっても三、四か月はかかるはず。
 腹心の部下が大変な目に遭っていると言うのにこの上司ときたら、なんてぼやいても意味はないので心に留めておく。
 それにこの人が唐突で気まぐれなのはいつものことだ。私はただいつも通りの受け答えをするだけ。

「了解しました。くれぐれも無茶はしませんよう、気をつけて下さい」
『分ぁってるよ』
「あともう一つ。電伝虫は寒暖差に弱い生き物ですから、十分に気を配ってくださいね」
『本当、お前には敵わねぇよ』
「あと一つ。もし、貴方が海軍を辞めるようなことがあるならば、私の辞表を受理してからにして下さいね」
『……わーったよ』



・喧嘩後

『まぁ……何だ、こんな時に言うのも何だが、お前の辞表は受理しといた』
「……」
『本当に良かったのか?』
「貴方の居ない海軍に未練はありません」

 元々海軍の利己的な正義にはついて行けない所もあったし、丁度良かったのかもしれない。

『俺は晴れて自由になったわけだから、俺なりにお前を戻す方法を探すことにする。だから、まぁ、何だ。お前も頑張れ』
「はい」
『それから、これはお前の上司としての最後の言葉だ。まぁ、聞け。……お前はお前の正義を貫けよ』
「はいっ!」

 上司としての最後の言葉。これで私と青キジさんは上司と部下という関係ではなくなったけれど、私が彼について行くのは変わりない。




・そろそろ帰る

「君は……君も私の前からいなくなってしまうのかい?」

「違う。元々私はいなかったのよ」


「この世界に私という存在は元々無かった。いなくなるのではなく、元通りになるの」

「ここで貴方と過ごした日々、とても……そう、言葉では表し切れないほど素敵だったわ。ありがとう」


「さようなら」



・OP世界に戻ってきて青キジと会話

「あらら。恋する乙女みたいな顔しちゃって」

「私だって恋くらいします」




・没文章

 何とか、ブロンズステージのバーで住み込みとして雇って貰うことができた。渡りに船とはまさにこのこと。
 店主はどうやら昨日の一悶着を見ていたらしく、思いの外目立っていたコートを畳んでいたにも関わらずすぐに私だと分かったらしい。
 彼は気持ちの良い人間で、身寄りもなく素性も明かせない私を快く雇ってくれた。

「お、店員雇ったのかい?」
「綺麗な娘だろう?」
「ああ、えらい別嬪さんだ!」

 夜になりバーが開店すると店内はあっという間に客で満たされた。小さな店とはいえ今までこれを一人で捌いて来たのだと思うと感心する。
 こう見えても諜報活動は得意でありバーを選んだのも情報収集に役立つからという理由もある。
 バーは多様な職種の人間が集まりやすくが程よく酒が入るため情報も漏洩しやすいのだ。
 私も仕事と会話を両立しながらも、周りの会話を全て聞き漏らさない。情報参謀である私にしか出来ない芸当だと前におつるさんが言っていた。

 勤務初日にしてNEXTと呼ばれる異能力者の存在を聞いた。何でも一人ひとりの持つ能力は違うらしく風や電気を操る者も在れば身体能力を一時的に上昇させられる者もいるという。
 それだけ聞いていればまるで悪魔の実のよう。しかしNEXTは悪魔の実とは違いカナヅチにはならないみたいだ。

「相手と自分の居場所を交換する奴もいるんだぜ」
「電車に乗り遅れた時なんかはさぞかし便利だろうねぇ」
「ふふっ。乗り遅れないように気をつけて下さいね」

 愛想良く適当に相槌を打っていたら思わぬ情報を手に入れることが出来た。
 聞く限りその所在転換能力は空間移動系だろう。そうなれば次元や異空間を操る能力者がいても何らおかしくはない。
 まだ確証はないが、あちらの世界へ帰るための手掛かりになり得る。

「マスターいつもの」

 そう言って新たにカウンターに座った客は、ベストを着てハンチング帽を被った顎髭の男性。
 どこか聞き覚えのある声だと思ったが、今は自分の仕事に集中する。

「おー、久しぶりだなぁ」
「いやぁ最近職場が変わっちゃってよー、ちょっとごたごたしてたんだわ」

 店主はお喋りをしながら、手慣れた仕事で彼に焼酎をロックで差し出す。

「その年で周りの変化に付いていくのはさぞかし大変だろう?」
「大変も大変、新しい同僚が年下のくせに生意気でなんの……って、んん? マスター新人雇ったの?」
「ああ、正義感溢れる良い子だからな」
「もうマスター、照れちゃいます」

 なんて返事をしてみたが照れたりはしていない。ついでに挨拶でもしようと振り向く。

「初めまして、今日からこの店で働くことになりました。よろしくお願いします」
「おう、こっちこそ、よろし……あ! えっ、お、おま……!」

 私の顔を見たと思ったら彼はたれ気味の目を丸くし、お化けでも見たみたいに狼狽し始めた。
 今の私は当たり障りのない営業スマイルを浮かべているし、覇王色の覇気を持っている訳でもない。怖がられる理由がないのだ。
 それとも私の顔が珍しいのかとも考えたが、この街は多国籍化しており異邦人などさして珍しくもない。
 大体、他の客は普通に接してきたのに何故この人だけ反応が違うのだ。つまり私に非はない。

「どうしたぁ? この娘が綺麗すぎて固まっちまったかぁ?」

 冗談混じりに店主が笑うが、どこぞの海賊女帝じゃないんだからそんな訳はない。

 仮にも初対面の相手にする態度ではない。なんて失礼な人だ、と思っていても口に出さないのは彼が客であり私が店員という立場だから。
 これが同じ立場にあれば、私は間違いなく彼に説教をしていただろう。

 せめて、と小さく溜め息を吐き当たり障りのない、所謂営業スマイルを浮かべる。

「どうかしましたか? 私の顔に……」
「見つけたー!!」
「は?」

 店内に響くほどの大声と共に彼は私を指さした。
 間違っても彼と私は赤の他人であり知り合いではない。そもそもこちらの世界に知り合いなんて一人たりとも存在しないのだ。

「……貴方、先ほどから何なんですか。初対面の相手の顔を見て狼狽し、あまつさえ指を指して大声で叫ぶなんて、初対面の相手に対して失礼ですよ」
「確かに、今のは虎徹が悪い」

 あまりの不快感に思わず口を衝いて出てしまったが、意外にも店主は私の味方だった。
 それと同時にやはり元の世界とこちらの世界の一般マナーは大体同じである事がわかった。

 それから虎徹と呼ばれた彼は、眉尻を下げるなどをして申し訳なさを顔全体で表現した。

「いやぁビックリしちまってつい……確かに初対面の相手にする態度じゃなかったわ、ごめんな」
「いえ、分かって頂けたのならば構いません」

 それでは、と彼から離れようとした際、彼の手が私の腕を掴んだ。

「まだ何か?」
「あのよ、ちょっと会って欲しい人がいるんだけど、明日とか暇?」

 先程も述べたがこの世界に私の知り合いはいない。つまり私に会いたがっている人とは十中八九昨日の件に関係する者のみ。
 こちらのルールを知らなかったとは言え勝手に犯罪者を伸したのはやはり不味かったか。
 一応映像に顔は映らないようにしていたのに、店主といい目の前の彼といい何故にこうも簡単にバレるのか。

 後悔しても現状が変わらないのであればここはとりあえず素直に断ろう。

「……行きたくありません」
「何で!? 別に悪いことはしない」
「私はこの都市に知り合いはいません。よって私は赤の他人と対面したくありません」
「そこをなんとか!!」


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