▼Wings to tiger. ビルの地下でモニターを見詰めるオールマイトと生徒たち。今は名前と耳郎と上鳴によるヒーローチームと八百万と峰田による敵チームの勝敗を、見守っている。 八百万が個性で創造した鉄板で扉にバリケードを張ったところから戦闘訓練は始まる。 まず始めに耳郎が個性であるイヤホンジャックを壁に挿し些細な音を拾い敵チームの居場所を探る。 耳郎とは別に、名前の耳も音を拾っているらしく彼女の目が敵チームのいる方向へ向けられていたがそれに気付いたのはオールマイトと焦凍くらいだろう。 それから上を指差す耳郎に、二人は軽く頷き作戦会議が始まった。 「八百万相手にどんな作戦でいくんだ……?」 程なくして作戦会議は終了し、名前が小型無線を腰のポーチに仕舞うのを皮切りに三人は物音ひとつ立てずに上へ上がってゆく。 「どうやら奇襲作戦でいくようだ」 彼女らの作戦を生徒たちに伝えるオールマイト。 定点カメラが捉えた名前は眼の奥をぎらぎらと光らせ、攻撃体勢であることを示すよう尻尾を山なりにし、耳は些細な音ですら聞き逃さないよう小刻みに動いている。 ゆっくりと確実に歩を進める姿はまさに獲物に近付く虎そのものであった。 「こえぇ……」 皆が固唾を呑んでモニターを見つめる中、誰とも分からぬ呟きが静かに聞こえてきた。 しばらくして敵チームのいる部屋の前に着く。中にいる二人は警戒はしているもののヒーローチームがすぐそこに居ることには全く気づいていない。 名前が扉の前に立ち残りの二人が左右に着く。 それから三人がそれぞれと目を合わせ、静かに頷く。準備が整った合図である。 そして次の瞬間、モニターを見つめていた全員が驚愕した。 「は?」 「マジかよ……」 「鉄板で強化した扉を蹴り破りやがった……!」 遠くから微かに鈍い音が聞こえた。十中八九名前が扉を蹴破った音だろう。 その威力たるや作戦を聞いていたオールマイトをも感心させる程だ。 そこからは数秒の出来事で、上鳴と耳郎が中へ入って陽動。それによって出来た隙を突いて名前が瞬く間に確保テープを巻いていく。 彼女の手際の良さに、ある者はただ静かに頷き、ある者はあまりの凄さに息を呑み、ある者はその迫力に鳥肌を立たせ、ある者は圧倒的な力量差に歯を食いしばり、ある者は感嘆の声を漏らした。 「そこまで! ヒーローチームの勝利だ!」 オールマイトの声に緊張状態は解除され、モニター越しの名前の表情もぱっと笑顔に戻る。 「それぞれの個性を活かしたベストな作戦だったと考えられます!」 びしっと飯田くんが手を上げ、発言する。 「奇襲からの強襲で相手に考える隙を与えずに確保したのは勿論、敵チームのいる階へ行く前に作戦会議を済ませ実行まで物音ひとつ立てていなかったのも奇襲の成功率を格段に上げていました」 「その通りだ! 飯田少年!」 運動した後だから少し眠たくなってきて、欠伸をかみ殺す。 その姿をちょうど焦凍に見られてしまったらしく頬をむにむにと触られる。。 「今戦のベストはもちろん轟少女だ」 「彼女の飛び抜けた身体能力に加え、それぞれの個性を活かした作戦立案、更には峰田君の個性である球体の位置を瞬時に把握し対応する洞察力と判断力。どれも素晴らしかった!」 そこまで褒められると流石に照れちゃうなぁ。 「しかし! 扉を塞いでいた金属の種類を把握していない状態で蹴破ったのはバッドだぜ! もし君の脚より頑丈な素材だったら脚が駄目になるだけではなく奇襲そのものが不意になるぞ」 「……はい」 素直に頷いてはみせたが正直に言うと不満だらけだ。素材を把握していなかったことは認めるが、考慮しなかった訳ではない。 音を聞いた感じ扉の前にただ積み重ねているだけのようだったから、蹴り飛ばすことが出来ればそれで良かったのだ。 如何に硬い素材であろうと所詮八百万さんが持てる程度の重さの積み木だ。壁に打ち付けられていなければ私の障害とはならない。 小さい頃から厳しく鍛えられていたし、轟本家に通わなくなってからもただのんびり過ごしていた訳ではない。 「不満が尻尾に出てるぞ」 ゆらゆらと揺れる尻尾を焦凍に掴まれる。 虎耳と尻尾が生えているからと言って別にそこが性感帯とかいうありがち設定ではないので悪しからず。確かに耳の裏とかを撫でられるのは好きだけど性的快感ではなく、ただ普通に気持ちがいいだけ。 私の不機嫌に気付くことなくオールマイトは次のペア決めを行い始めたので私は焦凍と共に後ろの方へ移動する。 「……」 「八百万が持てる程度の重さだったから敢えて蹴り飛ばしたんだろ? お前の耳ならただ積み重ねただけって分かっただろうし」 「……焦凍は何でもお見通しだね」 「名前のことならな」 「ほら、機嫌直せ」 そう言って焦凍の手が私の耳の裏を優しく撫でる。 先ほど述べた通り耳と尻尾は性感帯ではないが、耳の裏などは撫でられると気持ち良いのだ。 特に焦凍は撫で方がプロのそれだ。昔から焦凍の手には逆らえない。思わず喉が鳴りそうになる。 焦凍はネコ科を撫でるプロだ。その証拠に私の尻尾はぴんと伸びている。 「次のペアで最後だから放課後どっか行くか」 「うん!」 |