▼未来日記→狩人03 ・蟻編 団長と彼らの故郷である流星街がキメラアントに襲われ大変な状況にあるという情報が入り、フィンクスを始めとする数名が蟻退治へと出ることとなった 抜けたヒソカの欠員を補充するために入ったカルト、と流星街出身であるシャルナークも行くということでそれに同行した名前も含め、合計七人で流星街を目指した 「ここが流星街かー、思ってたより綺麗だね」 「思ってたよりって何だよそれ」 「みんなバラバラ?」 カルトの言葉に答えたのはフェイタンだった、誰が女王を殺すか競争だと嬉々として言う、フィンクスもカルトに対して能力を知られたくねえんじゃねえかと返す 自分が女王を倒すのは決定事項のようにそれぞれが中に入っていく 「じゃあ私はシャルと一緒に行こーっと」 二人の前に姿を現したのは硬そうな甲で覆われた一匹の虫だった、所謂甲虫というやつで 名前は日記を確認してこいつの正体を見破ることにした、日記によれば数十分後にこいつが操作されているだけで本体は陰に隠れているのだそうだ 彼女が携帯電話を見ているのを余所にシャルナークが動く、どこかに操作用のアンテナを刺せまいかと考察をし始める 少しの考察ののち名前が行動に出ないので彼は行動に出た、その切れ味の良い腕で繰り出される攻撃を上手くよけつつ間合いを詰めていく 左腕を切りつけられながらも少しの隙をつき甲殻の隙間に刺したところまでは彼のシナリオ通りだった しかし彼が携帯電話を取り出して操作しょうと背を向けたときだった、甲虫は彼の指示に従うどころか彼を背後から羽交い絞めにし拘束した 「あらら、シャル捕まっちゃったね」 「もしかして名前さ、この展開になるって知ってた?」 「うん、知ってて見守ってた」 悪戯に笑う名前を可愛く感じながらも甲虫が操作できなかった理由を探す、操作に必要なアンテナは刺したはず 名前ならその理由を知っているのではと口を開いた瞬間だった、彼女の背後から二人以外の声が響く 「あんた操作系だね」 コントローラーのようなものを持ったヒーローもののお面のような顔をした虫が物陰から出てきた 名前はとっくにこいつの存在も分かっていたので驚きも何のリアクションも起こさずただ壁に寄りかかっているだけ 持っているものから察するにどうやらこの虫も操作系の能力を持っており、すでに甲虫を操作していると考えてよいだろう すでに操作されていたからシャルナークがアンテナを刺し発動条件を満たしていても操作が出来なかったのだ 対象を操作するのは早い者勝ち、それが操作系能力者の難点である、ちなみに彼を捕まえている虫の名前はペルというらしい 「で、名前はこいつの存在も知ってたわけ?」 「うん、知ってたよ」 呆れたように尋ねた彼に笑顔で返事をする彼女に、彼は怒るでもなく一つだけ溜め息を漏らした 何で教えてくれなかったのさ、シャルナークが口を尖らせ拗ねたような態度を取ると、名前はわざとらしく申し訳なさそうな顔をして言う 「だってシャルが捕まってるところ見たかったんだもん」 「……名前ってサドだったっけ」 「シャル限定ならどっちにでも」 ぱちりとウインクをする名前、二人に存在を忘れられていた虫が苛立ったように二人の会話を遮る 「お前らにアンテナを刺して女王の所まで連れて行く」 手始めに女の方が簡単だと思ったのだろう、アンテナを片手に名前に近づいた刹那、虫の足元には投げナイフが刺さっており彼女がそれを投げたのだと理解するのに数秒かかった 彼女の表情は先ほどまでシャルナークに見せていたものと打って変わって、まさに虫けらでも見ているかのようなものだった 「それ以上近づくな、殺すぞ」 「殺すぞって……名前、俺たちはこいつらを殺すために来たんだよ」 「あ、そうだっけか、てへぺろ」 「うん、可愛いから許す」 「(この女は厄介そうだ、先に男のほうをやるか)」 虫が標的をシャルナークに変えたことにより視線も自然と彼へ動く、それに気づいた名前が彼を見詰めて話しかける 「シャル、私シャルのこと好きよ」 「俺も名前が好きだよ……って何その俺が死ぬみたいな空気」 「あ、いや、シャルは死なないけど数日くらいは筋肉痛で苦しいかもね」 可愛らしい笑みを浮かべて持っている携帯電話を彼に向けて軽く振って見せた、それを見たシャルナークは嫌な予感に目を細める 名前の念能力の師匠を担っていた彼だからこそ今彼女がしようとしていることが容易に理解できたのだ、自分を操作する気なのだと 手も足も出ない現状では致し方ないことだと知っていたし自分にアンテナを刺すと言う奥の手も用意していたが、名前に操作されるのも悪くない 「番号は……」 「いつ貼り付けたと思う?」 ハンター試験に行く前も戻ってきてからも二人は四六時中一緒にいた、つまりはいつでも貼り付けるチャンスがあったということ この様子じゃ団員全員に貼り付けてるな、と半ば呆れながら携帯電話を操作している名前を見詰める 初めて会ったときは念も知らないただ未来を知っているだけの変わった女の子が今では恋人を操作するほど成長してしまったと考えると悲しいような嬉しいような複雑な心境だ 今の状況で細かい指示を出している暇は無いので筋肉痛は逃れられないだろう、そのことを彼も理解し自分の身体を哀れに思った どこかへ電話をかけるように携帯電話を耳に当てた名前を見て彼も目を閉じ、彼女に意識を預けた 「無料通話……シャル、とりあえずオーラ全開でそこから抜け出して」 携帯電話にオーラが集中し彼女の念が発動していることを物語っている シャルナークは彼女の指示通りに髪の毛を逆立てるほどの量のオーラを溢れさせ甲虫の束縛から脱する 操作している虫は彼の豹変ぷりに信じられないといった風に声を荒げ、どこかに電話を掛けて隙だらけの名前を攻撃しようとした 「その虫を殺して」 彼がそのまま次の指示に従いその甲虫に殺すとほぼ同時に、名前の方も決着がついていた 携帯電話を持っていないほうの手で投げナイフを放ったのだ、念で形成された切れ味の良すぎるナイフを 虫を殺したことということで彼の操作を止めると彼を纏っていたオーラも静まる、意識を取り戻した彼がゆっくり身体の痛みが走っていくのを感じながら 「誰かに操作されてるときって意識ないから俺の自動操作モードとあんまり変わらないね」 身体が痛い割りに達成感がない、そう続けた彼の言葉に名前は笑いながら身体の痛みと戦っている彼の写メを撮った 「痛がってるシャルも素敵」 「悪趣味」 |