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▼04.新HEROデビュー戦

 私のNEXTは時間停止、危なくなったらいつでも戦線から離脱できるが、犯人を確保してこそ名字ミスティカルには意味があるのだ。

 いつ出動要請が来ても良いよう、最終打ち合わせの日から犯人確保の練習を幾度となく行った。
 シミュレーションルームを使うと必然的に他のヒーローたちと顔を合わせることになってしまうので、まだ秘密にしておきたいという事でメカニックルームでの特訓だ。
 忙しいのにイワン君も付き合ってくれて、お陰でお祓い棒のような鞭は使いこなせるようになってきた。

「よし、一旦休憩を入れよう。それらしくなったじゃないか、素晴らしいよ!」
「はーい、ありがとうございまーす」

 ハロルドさんの一言で私はその場に寝転がるように倒れる。それを見たイワン君が笑いながらタオルを差し出す。

「名前さん、お疲れさま」
「イワン君もお疲れー。特訓に付き合わせちゃってごめんね」

『事件発生!』

「さあトランスポーターに乗って!」
「き、緊張する……」
「練習通りにやれば大丈夫。君のキュートさは伝わるよ!」
「そうじゃないです!」



『トランスポーターが到着しました! ヘリペリデスファイナンスのロゴが描かれていると言うことは一番乗りは彼なのか!?』

 私の為に用意されたトランスポーターはブルーローズ同様側面が開くようになっており、中には半立体の神社と、賽銭箱。おまけに真っ赤な鳥居までもが用意されていて本格的な神社セットが出来上がっている。
 その中でも一際目立っているのが、竹箒で境内の掃除をしている私こと名字ミスティカルとお茶を啜っている折紙サイクロンの二人だった。

『最初に登場したのは折紙サイクロンと、おおーっと! 可愛らしい女の子です! 折紙サイクロンと一緒にいると言うことは新ヒーローなのかぁ!?』

 騒がしいほどに盛り上げてくれる実況に、テレビの前の視聴者は分からないが周りにいる市民の皆さんは盛り上がりを見せる。
 逃亡犯も一般市民も、みんな手を止めてこちらに注目した。これをチャンスと言わんばかりに私たちは練習していた芝居を開始した。

「むむ、ナマエ殿! 呑気に掃除をしている場合ではござらんよ!」

 少々乱暴に湯飲みを置いた折紙サイクロンに、私は持っていた竹箒をピタリと止めて逃亡犯の方に体を向ける。
 犯人は見知らぬ私の登場に未だ戸惑っているようで、その隙にアニエスさんが私に指示を送る。それに従い、私は事業部のみんなで考えてくれたポーズを決める。

「貴方の悪事は大凶です! 神に代わってお仕置きします!」

 私の決め台詞に周りが一層盛り上がる。早速、逃亡犯を捕まえるべく折紙サイクロンと共にトランスポーターから降りて走り出す。
 それを見て逃亡犯はやっと我に返り、急いで走り出す。同時にまた実況が入った。

『たった今入った情報によりますと彼女はヘリペリデスファイナンス所属のニューヒーロー、ナマエミスティカルです! 見た目通りのジャパニーズ巫女! まさにエキゾチックジャパーンッ!!』

 実況の言葉に周りにいた一般市民たちは歓声を上げる。私のデビューに対する反応は上々のようだ。
 あとは逃亡犯を捕まえて華々しくデビューを飾るだけ。他のヒーローが到着したみたいだけど、お願いだから手を出さないで下さいと念じながら犯人を追いかける。
 再びアニエスさんから通信が入り、能力を使うタイミングを指示された。

『ナマエ、十秒後に能力を使って!』
「はい!……絶対に逃がしません!」

 犯人が路地に逃げ込もうとした時を狙って私のNEXT能力を発動させる。

 その瞬間、私は犯人が入ろうとしていた路地を塞ぐようにして立っていた。時間にして一秒もかからない、文字通り一瞬。
 一瞬にして私は有に百メートル程離れた場所へと移動してみせたのだ。表向きには、だけど。

『なんとナマエミスティカルが一瞬にして犯人の元へと移動した! これが彼女のNEXT能力なのか!?』

 すぐそこまで来ていたロックバイソンさんが驚いたように声を上げたのが聞こえる。しかし今はそれどころではない。

「くそっ」
「大人しく捕まってくださいね!」

 袖からお祓い棒のような鞭を取り出して、逃げようとした犯人の身体に素早く巻き付ける。犯人確保完了である。

『ナマエミスティカル華麗に犯人確保ォ! 初登場・ポイントと合わせて225ポイント獲得です!』


 PDAの向こう側でアニエスさんが視聴率が云々と興奮しているが今は捕らえた犯人を警察に引き渡すのが先決。
 引き渡しが終われば記者会見とは別に、インタビュータイムがある。名字ミスティカルとしてしっかり受け答えしなければならない。

『ニューヒーロー! デビュー日に犯人確保しましたが、今のお気持ちは?』
「無事に犯人を捕まえることが出来て良かったです」
『他のヒーローたちは出る幕もありませんでしたね』
「新人が出過ぎた真似をしてすみません……ですがデビューした今日くらいは許して頂けると幸いです」

 インタビュアーも流石プロと言うべきか、今日の事件に関することなどの質問しかしてこない。記者会見で話すであろう突っ込んだ質問は一切なかった。

『バディである折紙サイクロンは今日も見切れていましたね。どう思われますか?』
「そこが折紙さんの良いところでもあるんです。今日の彼は末吉です」
『では最後に、テレビの前の視聴者に何かお願いします』
「神様は皆さんのことをいつも見ています。あなたの人生に大吉がありますように」

 巫女っぽい返答を、と言われていたが巫女の経験なんて一切ないので全文てきとうだ。隣を見やれば折紙サイクロンがそっと見切れている。


『折紙サイクロンのパートナーということで、タイガー&バーナビー以来、二組目のバディヒーロー誕生です!』


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