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▼03.てんやわんや

 昼食の後イワン君と別れ、ハロルドさんとヘリペリデスファイナンス本社へと赴き正式なHERO契約を結んだ。
 その際CEOと初対面したのだが、とても気さくな眼鏡の男性だった。私のことを全面的に応援していると言って連絡先を交換した。
 新入社員がこうもあっさりと最高責任者の連絡先を手に入れられるなんて、ヒーローとして働くことの大きさを知った気がする。

 それから彼に連れられヘリペリデスファイナンスのヒーロー事業部へ案内された。
 そこで仕事をするのはマネージャーと事務職の人だけで、メカニックの人たちはメカニックルームにデスクがあるらしい。
 隣にメカニックルームがある小さな部屋で、内装は他部署とほとんど変わらずデスクがいくつかあるだけ。その内の真新しいデスクに手を置いた。

「これは君のデスクだよ、デスクワークはここでするんだ。隣はイワン君だから分らないことがあったら彼に聞くといい。それと、これが社員証だ。失くしたらすぐ私に言うんだよ」
「はい、ありがとうございます」

 彼が懐から出したカードサイズの社員証を受け取る。昨日の今日で用意していたということは本当に私がヒーローをやると確信していたのだろう。がいこくってこわい。
 あと、私はヒーロー活動を最優先してそれ以外では学業を優先して構わないと、今後の事を伝えられる。大学側にも話を通してあるので無事に卒業できるそうだ。

「それから彼女は総務のアンジェリカだ。何かあったら彼女に頼るといい」

 ハロルドさんが向かいのデスクに座っていた女性を指して言う。綺麗なブロンドの美人さんは立ち上がって優しい笑みを向けてくれる。
 ここでは私は新人社員なのだと、私は慌てて頭を下げて自己紹介をした。

「ナマエミスティカルをやることになりました名前・名字です。よろしくお願いします!」
「話は聞いてるわ、事務員のアンジェリカよ。これからよろしくね、名前」
「はい!」

 彼女と軽く握手を交わして、その日は他にすることがなくなったので解放された。



 次の日からデビューに向けて慌ただしい毎日を送った。司法局への申請や手続き、ヒーローとしての設定や衣装の会議、衣装合わせに製作、トランスポーターの用意、各メディアへ提出する書類造り、宣材写真の撮影にその他諸々を含め、私がデビューする準備を整える為に約二週間もの時間を要した。

 幾重にも渡り調整を繰り返したナマエミスティカルのヒーロースーツは和服の白衣の下に緋袴を装着した、日本人なら誰でも知っている巫女装束だ。
 ちなみに白衣には袖がなく肩が露出していて、袖は腕に装着できるようになっている。
 必然的に腋が見えていてサラシを巻いているから横乳が見えることはないが、これには何の意味があるのだろうか。
 後々スポンサーのロゴが入る為に袖は必須らしいが、肩と腋をわざわざ露出させる意味が益々分からない。

「あの、ミゲルさん……これって腋が見えてる意味あるんですか?」
「男のロマンだ!」
「……イワン君、そういうものなの?」
「! お、男のロマンでござるっ」

 眉を寄せながらメカニックの人に尋ねればこの返答。衣装合わせを見に来ていたイワン君にも聞いても赤面しながら首を縦に振って肯定される。おとこってよくわからない。
 ちなみにミゲルさんとはメカニックの偉い人で折紙サイクロンとナマエミスティカルのヒーロースーツ製作の総責任者だ。例に漏れず彼も大の日本好きらしく、私の巫女姿に興奮している。

「うん、完璧だな。さすがは俺!」
「伊達に日本好きを公言してませんね、腋の部分は気になりますが衣装の内容は完璧です」
「そうだった。衣装と小道具の最終確認をするぞ」

 そう言ってデスクに上げられたのはお祓い棒と竹箒、それからメディア用の巫女装束。
 ミゲルさんの説明をまとめるとこうだ。和服は特殊素材を使用しており軽いが丈夫で勿論防弾、耐火性も抜群。
 メディア用の衣装も、まったく同じデザインの純布製品で用意されているらしく、これからメディアに積極的に出るのだと思うとめんどくさくて憂鬱だ。
 武器を入れて持ち歩けるよう袖の中は収納スペースにもなっている。白衣は短めで緋袴はスカートタイプのものを使用してるため頑張ればパンチラも出来るとのこと。私のパンチラなんで需要ないだろ。

 そして武器はお祓い棒のような鞭。正式名称が分からないためお祓い棒と呼ぶことのする。本来は棒の先にひし形が連なったような形の細長い紙が沢山付いている物だが、私の物はその紙の部分がこれまた特殊な素材で出来ている。
 通常時は三十センチくらいの長さだが振り方次第で一本の鞭のような物に変化するのだ。本当に私の振り方一つで変幻自在らしいので要練習である。
 竹箒は軸となっている竹にはエアー噴出機が内蔵されており天辺のボタンを一回押すと足を掛ける部位が出てきて、もう一回押すとエアーが噴出される仕組みとなっている。
 私が乗っている状態で最大十五メートルくらいまで跳躍可能らしい。男性ヒーローみたいに全身を覆っていない分危ない気もするが、何かあったら折紙サイクロンが助けてくれるとの折り紙付きだ。

 ちなみに、草履は衝撃吸収素材となっていて箒でどれだけ高く飛び上がってもその衝撃全てを取り除いてくれる代物だ。もちろんいくら走っても足は疲れにくい。

 他にも一見普通の和装に見えて私には理解できないハイテクな機能がいっぱいで、それらを覚えるだけでもひと苦労だ。
 メカニックの一人が簡単な説明書みたいのをくれたので家で暇なときにでも勉強しよう。自然と溜め息が漏れる。

「うー、これから大変だ」
「名前さん、これからヒーローとして大変だろうけど僕も精一杯フォローするから、頑張って」
「うん、ありがとう」

 新シーズンが始まって忙しいのに、イワン君は今日の最終打ち合わせにも来てくれている。
 彼の言う通り、私も、司法局の認可がとっくに下りているのですぐにでもヒーローとして出動できる。

「それで、その……」
「? なに?」
「衣装、すごく似合ってる。かっ、か、かわいい、です」
「あ、ありがとう……」

 もじもじと生娘の様な反応をするイワン君に私も、柄にもなく恥ずかしくなってしまう。これがピュアの力なのか、恐ろしい子。


 完成した衣装を見に来たCEOは私の姿を見て少々興奮気味に写真を数枚撮っていた。
 素晴らしいよと二言三言会話をすると秘書に急かされるままメカニックルームを出て行ってしまった。去り際に腋がどうの言っていたので、この腋の開いたデザインには意味があるようだ。

 それから通信用のPDAを貰って操作方法をレクチャーされた。相手とテレビ通話もできるとかで、世の中ハイテクになったなぁと未だにガラパゴスケータイを使っている私はしみじみ感じた。
 試しにイワン君と通信してみてと言われ四苦八苦しながら何とか彼に通信を繋げる。PDA越しに聞こえてくる声に、なんだか本格的にHEROになったんだと実感した。


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