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 2021/08/07 衝動的に書いたため所々うろ覚え。

 ※映画ネタバレ有り。鑑賞後推奨。

 ※これの続きのため先に読むことをおすすめします。




 ヒューマライズの仕掛けた爆弾が不発に終わってしばらく経った日のこと。携帯電話にロディが入院していると病院から直接連絡が入り飛び出しそうになった心臓を何とか押し込め、ロロとララを連れてロディが入院している病院まで急いだ。

「兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」

 案内された病室の扉を開けるや否や。二人の声に反応してこちらを向いたロディへ飛びつくように走って行く。数日間離れていた弟妹が無事であることに安心しきった表情を浮かべる彼に、私は密かに胸を撫でおろす。
 私はロディの寝ているベッドの側の丸椅子に座って数日ぶりの再会に喜び合う兄弟妹を見守った。

「ナマエ。二人を護ってくれてありがとうな」
「二人は私にとっても弟と妹みたいなものだし、ロディに頼まれなくてもやってたわよ」
「あぁ」
「ピィー!」
「ピノ! あなたも無事で良かったわ」
「あ、おいピノ!」

 ロディの髪の中から勢いよく飛び出したピノを受け止め、嬉しそうに私の手に頬擦りをする彼を手のひらの上で優しく撫でてやる。ロディとピノは相棒だからどちらかが欠けても駄目なのだ。二人とも無事で本当に良かった。

 それから一時間もしないうちに泣き疲れて寝てしまったロロとララをそれぞれロディの横に寝かせてやり、この数日間で彼の身に起きたことなどを詳しく聞いた。
 彼の父がヒューマライズに拉致され家族を人質にされ爆弾の製造を手伝わされていたこと。そして命を賭してその爆弾の解除キーを作っていたこと。ヒーローだけではなくロディまでもがヒューマライズの基地に潜入して爆弾の解除をしていたことなど。想像もつかない程の危険な行為に、ひゅっと息を呑んだ。
 彼の父の名誉が守られたことを嬉しく思う反面、危険な行為を冒した彼に対する怒りもあった。しかもヴィランの攻撃でロディは死にかけていたのだ。

「ロディのバカ!」
「バカって何だよ! 俺は世界を救ったんだぜ」
「そのせいで死んでたらどうするのよ!」
「まあ確かにあの時は流石の俺も“あ、これ死んだな……”って人生諦めかけたわ」
「だからあんな仕事辞めてって言ってたのに……!」

 それでもロディがこうして目の前で生きていることに安心したら、耐えていた涙がとうとう溢れ始めて。私が泣いているのを見た彼が一瞬固まり、分かりやすく狼狽し始めた。
 ロロとララに心配をかけた罰よ、もっと困ってしまえ。

「お、おい……ナマエ!? え、う……あー……ナマエ〜……ナマエさーん……」
「……」
「……心配掛けてごめん」
「……運び屋の仕事辞めてくれたら許してあげる」
「それは……」
「……」
「……分かった」

 少し狡い手を使ったがまたこんなことがあったら私は本当に心臓が保たない。それに仕事内容的にも何れ彼の弟妹にも危険が及ぶ可能性だってある。

「……ナマエ。ありがとうな」
「私はお礼を言われることなんて何も……」
「こいつのお陰で死なずに済んだぜ」
「それ……」

 顔を上げればロディが胸ポケットから萎れたマーガレットを取り出していた。
 花びらも散ってしまっていてもう効力は無い。きっと沢山の危険を乗り越えて、その度に彼を護ってくれていたのだろう。私の“個性”の恩恵なんて大した効果はなかったかもしれないけど、それでも、少しでもロディのことを護れたのであれば私は自分の“個性”に感謝したい。

「お前、デクにも花やってただろ」
「デク……?」
「そいつ」

 ロディの指さした方を見やればロディよりボロボロの男の子がベッドに横たわり気まずそうに、久しぶり、と手を振っていた。
 泣いていた所を見られていた恥ずかしさよりも、私はその人物に見覚えがあったことに気が付き思わず手のひらで口元を覆って驚いた。

「! あの時のヒーローさん……!」
「や、やぁ」

 ロディが事件に巻き込まれたあの日の朝。ロディを見送って直ぐに配達へ出た私はその道すがら少しヤバ目の男の人に絡まれてしまい、もう駄目かと諦めようとしていた時に助けてくれたのが彼だったのだ。

『本当にありがとうございます。助かりました』
『いえ。当然のことをしただけです』
『お礼になるかわかりませんがこれを』
『花?』
『私の“個性”なんです』
『わぁ! 花を出せるなんて素敵な“個性”ですね!』

 そう言って。ヒーロー仲間の方に呼ばれて走っていってしまい名前は聞きそびれてしまったが、彼はロディも助けてくれていたのだ。私はその場で立ち上がって彼に向かって頭を下げた。

「ロディを助けてくれてありがとうございます……!」
「いやいや! 当然のことをしただけだよ!」
「そーそー。デクはヒーローなんだから民間人を守るのがお仕事なの」

 いつもの調子で軽口を叩くロディを咎めると、本当に仲が良いんだね、と笑われた。気恥ずかしくなって再び椅子に腰を下ろし熱い頬を誤魔化すように何とか口を動かす。

「それでも、当然のことを当然のように出来る人は中々いないわ。本当にありがとうございます」
「それにさ。僕の方こそお礼を言わせて」
「?」

 私はヒーローである彼にお礼を言われるようなことをしただろうか。思い当たる節はなく首を傾げるとデクさんはベッドサイドに置いてあった萎れたフラックスを手に取り私に見せた。それは確かに、数日前にお礼にと私が彼に手渡したものだった。

「この花、お前の“個性”なんだってな」
「……そうよ」

 本当はロディの“個性”を教えてもらうまでは秘密にしておきたかったのだけれど、仕方ない。
 私の“個性”は想いを花に変え、その花を持っていた人のピンチに加護を与える“花護”。加護の恩恵は想いの強さに比例するため、私は毎日彼への想いを一輪の花にして彼の胸へ挿していたのだ。危ない仕事をしているロディが今日も無事に帰ってきますように、彼の弟妹が今日も笑顔で彼をお迎えできますようにと。

 私の“個性”について聞き終えた二人は、やっぱり、と顔を見合わせた。

「僕、お腹にヴィランの矢が刺さったんだけど診てみたら血は殆ど出てなくて針で刺された程度の傷だったんだ」
「……」
「最初はスマホが受け止めてくれてたんだと思ってたけど胸ポケットに入れていた花が急に萎れていたのを見て、この花のお陰だったんだって気付いたんだ」
「俺のこれも。最初は日にちも経ってるし荒っぽい行動もしてたからそのせいで草臥れてたのかと思ってたけど違った。お前にも助けられてたんだな」

 私の“個性”がヒーローを助けたなんて俄に信じがたいし鳥滸がましいことだが。本当に少しでも力になれたのなら、あの日の偶然に感謝だ。

「あーあ。ロディの“個性”を聞くまで秘密にしておきたかったのに……」
「えっ。ロディ、話してないの?」
「ばっ、デク!」
「ってことはデクさんは知ってるんだ……」

 ヒーローとはいえ会って数日のデクさんは知っていて私だけが彼の“個性”を知らないという事実に涙が浮かぶ。話しかけても嫌な顔をしてこないし大切な弟妹を預けてくれているから少なからず嫌われてはいないとは自負していたがここまで教えたがらない彼を見ると流石に自信がなくなる。
 気落ちている私を慰めるようにピノが私の肩に乗って頬を寄せてくれた。

「慰めてくれるの? ありがとう、ピノ」
「ピィ〜」

 ピノを手のひらに乗せて首元を指で撫でてやれば気持ち良さそうに目を瞑った。

「……ナマエ」

 呼ばれたままに視線をロディに移せば彼は眉間にしわを寄せ頬を上気させている。体調が悪くなったのかと焦ってナースコールに手を伸ばしたが大丈夫だと制止される。じゃあそれはどういう表情なの。

「ピノが俺の“個性”だ」
「へ? ピノ?」
「……ピノは俺の魂と同一で、例え俺が嘘を吐いても魂であるピノは正直に行動しちまうから嘘が吐けねぇ」
「えっと、ピノはロディの魂そのものってことで……」
「あぁ……」
「つまり今までピノがしていた行動は……」
「……俺の本心の、行動って、こと、です……」

 何故か敬語の上に尻すぼんでいくロディ。顔を真っ赤にして俯かせる彼とは反対にピノは私の手のひらの上で何かをアピールするように両翼を広げて嬉しそうに鳴いている。

「わ、私ピノにキスしたことあるんだけど……」
「あぁ、知ってる」
「ってことはつまり……私、ロディの魂に……」

 頬擦りされたり、撫でたら気持ち良さそうにしていたり、前にその、き、キスをしたら凄く喜んでいたのはつまり、そういうことだったってことで。
 事実を反芻して。これまでのピノの行動と私の行動、全ての意味を理解した瞬間、ボンッ、と一気に全身が熱くなるのがわかる。

「だから言いたくなかったんだ!」

「ピィ!」

 衝撃の事実にわなわなと震えているとピノが手のひらの上からジャンプして私の唇に自身の嘴の先を触れさせた。

「ピノォォォ!!」

 ロディの叫び声が病室に木霊し、私たちは看護師さんに怒られたのであった。


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