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- ナノ -


 2021/08/06 衝動的に書いたため所々うろ覚え。

 ※映画ネタバレ有り。鑑賞後推奨。




 兄弟妹で朝食を摂って、弟と妹といつものやり取りをしてピノを肩に乗せてトレーラハウスを出る。いつもの朝だ。

「んじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃーい!」
「いってらっしゃーい!」

 路地を縫うように通り抜けいつもの酒場へ向かう途中で鈴の転がるような声が俺の足を止める。いつものように。

「ロディ! おはよう」

 彼女の向日葵のような笑みに後ろの太陽が重なり、思わず目を細める。

「どうしたの? ロディ」
「いや……おはよ、ナマエ」

 比較的表通りに近いこの場所で母親と祖母の花屋を手伝っているのはナマエだ。昔互いの家が近くにあってよく一緒に遊んでいた、所謂幼馴染みたいな奴。
 俺の父親がいなくなった後も唯一こいつだけは俺から離れようとせず、俺たちがトレーラーハウスに移り住んでもこうして以前と変わらぬ態度で接してくれている。
 俺が仕事で遅くなる日はわざわざトレーラーハウスまで行って弟妹の夕食を作ってくれたり、俺が戻るまで二人の世話をしてくれていたり、その点に関しては感謝してもしきれない。

「まだあの仕事してるの?」
「悪いかよ」
「悪いに決まってるわ。だって危ないもの」

 眉尻を下げるナマエに俺は何でもない風に肩を竦める。危険は承知の上だし、これでも逃げ足は速い方だ。現に今まで一度たりとも捕まってはいない。

「それに、最近物騒な事件ばっかりだから余計心配なの」
「……お節介」

 ぼそりと呟いた言葉をナマエは耳聡く拾い、わざとらしく頬を膨らませる。

「お節介で結構。やらないで後悔するより、やって後悔した方が何百倍もマシだもの!」
「お前さ、余計なお世話って言葉知ってるか」
「知ってるけど……何が言いたいのかしら?」
「いや何でも。……そういやナマエの“個性”って結局何なんだよ」
「言ってるでしょ。ロディが教えてくれたら教えてあげるって」
「じゃあ知らないままでいいや」
「何よそれ! 私には教えたくないの!?」

 むっと眉根を寄せるナマエに再び肩を竦める。俺の言葉とは裏腹にピノはナマエの肩に乗ってあろうことか頬擦りまでいている始末で、ますます“個性”のことを話す訳にはいかなくなってしまう。

「お、おいピノ……!」
「ピノはこんなに素直なのにねー」
「ピノ!」

 ナマエの指がピノの首元を撫でるので俺は思わずピノを鷲掴んで髪の中へ無理やり押し込んだ。

「あっ……もう、ロディってば乱暴ね」
「も、もう仕事行かないとだからさ!」
「もうそんな時間なのね……はいロディ。今日のお花」

 ナマエの白い手が伸びて胸ポケットに入っていたララから貰った花の隣に白い花を挿して、ぽんぽんと胸ポケットの下の方を軽く叩いた。店のバケツに添えられた札にはマーガレットと書いてある。毎日こうして彼女に貰った花を胸ポケットに入れて仕事に行くのが当たり前になったのはいつからだったか。

「じゃあな」
「待って。ネクタイが曲がってるわ」

 ネクタイくらい、と思ったが彼女に腕を掴まれてしまい仕方なしに振り返る。
 ネクタイを直すナマエの姿にこんな未来も悪くないと思いつつも理性が制止する。その未来は思い描いてはいけないと。

 時々思うのだ。何故俺なんだろうと。この世の理不尽さや親父のことを言っているわけじゃない。それはもう過ぎたことだ。俺が今考えているのは何故ナマエは俺なんかを構うのか、だ。
 俺なんかに構わずもっとずっとちゃんとした奴らと関わっていた方が彼女の為でもあるのに。俺と関わっていたばかりに彼女も友人と呼べる人は殆どいなくなってしまっている。
 それでも、俺も彼女から離れられずにいるのはこの関係が心地よいからだろう。彼女まで失ってしまうのが怖いからだろう。だからといってこの仕事を辞めて他に真っ当な仕事に在り付けられるとは思えない。

「はい、いいわよ。今日も気を付けてね」
「あぁ。分かってるよ」
「遅くなるなら連絡して。夕飯くらいなら作りに行くから」

 何れは彼女を手放さなければならないと分かっていても。まだ当分はこの関係を続けさせてくれ。

「行ってらっしゃい」

 鈴の転がるような声を背中で受け取って。今度は何があろうと振り返らず、指定の場所まで真っ直ぐに向かう。

 まさかこの日のうちに俺の運命が大きく変わってしまうなんて、この時の俺はまだ知らなかった。


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