友達
 





カヅサ先輩に通信で呼ばれ、書架裏の実験室に顔を出した。後悔した。


「やあ、待ってたよ。ちょっと君の意見を聞きたくて」

「他に言うことは無いんですか」

「忙しいからこの子運んでくれると嬉しいな!」

「私だって忙しいんです!」


手術台だか治療台だかに横たわるエースに駆け寄って確認するが、外傷や体力の変化は見受けられなかった。ただ、目を半開きで気を失っているだけだ。かわいい子が目を半開きにするとこんなに怖くなるものなのかと慄きながら、要件を済ませて安全な場所に運んであげようと先輩に詰め寄る。


「で、なんですか」

「怖い顔しないでよ、君の研究にだって無関係じゃな「なんですか」分かったよ言うよ……君、絶対0組に入ってから怖くなったよね……」


肩を落とす先輩に渡された書類に目を通して、呆れた。これは0組のメンバーを網羅しかけている分析表だ。体格だとか筋肉量、骨格のデータがみっしりと詰まっていて、これは意識があるうちにはできないはずだと納得した。研究者って怖い。うわあ、口に出せないようなところまで計測されている。


「生物は皆クリスタルの加護を少なからず受けている。まあ細かくは国によっても違ってくるけど、基本はファントムだ。つまり生物を一から作り出すにはファントムは不可欠だ。それが宿る肉体は理論的には二の次でいい」

「これは明らかに肉体のサンプルですけど」

「そうなんだよねー、とっかかりは身近なものからかと思ったんだけどなかなかねえ」


やはり一から始めるよりも完璧なコピーを、と続く説明を聞き流しながら書類を捲る。確かにこれは治療にも役立ちそうだ。
日付順に並んでいるらしく関連性はバラバラな資料に、意外な名前を見つけて思わず「あ」と言ってしまった。私達の隊長、クラサメ・スサヤ。見知っている傷だらけの体と比べると、魔力が高く筋肉の割合が多い。
じっとデータを読んでいると、後ろから先輩が奪って笑って資料を撫でる。


「いい体だろう? まあ、今はその話は置いといて。
肉体の質はある程度なら変えられるけれど、ファントマはそうはいかない。僕はね、彼を作りたいんだ。生命を作れればいいんじゃない、この、彼をね。君は僕よりファントマに詳しいだろう?宛とか訊きたかったんだ」

「覚えてない人なんか作って、どうするつもりですか」

「そうだねー、友達になりたいかな。前はどうだったか知らないけど、うん、友達がいい」


いい大人が言うことだろうか、と呆れるような、羨ましいくらいにシンプルなような。
表情ばかりは懐かしんでいるような大人のものだけれど。



「……あとで資料、特別にちょっとだけ持ってきますね」

「僕も忙しいから今がいいなあ」

「駄目です、まずエースを保護します」


よっこらしょ、と気合をいれてエースを背負って、残念そうな先輩から逃げるべく急いで研究室から出た。



13.07.04



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