キラキラしたミラーボールみたいな瞳に俺以外映したくない。
ふわふわした綿菓子みたいな体に俺以外触らせたくない。

マサトが思ってるより俺はずっとおまえに溺れてるし、わりと卑怯な駆け引きをしてでもおまえをつなぎ止めておくことに必死なんだ。
かわいい仔犬みたいなおまえのリードをいつも必死で掴んでいたのに、いつの間にか首輪がリードからするりと外れていた、なんて情けないことがないように、だったら俺は首輪を直接掴んでいたい。

こんなカッコ悪いこと、口に出しては言わないけど。
マサトは俺をかっこいいと飽きもせず言うから、せめてマサトの前でくらいは強くありたい、つまらない男のプライド。



「タカちゃん、おはよ」
「はよ」
「ふふ、今日も合格だね」

毎日の登校の待ち合わせは、駅前の小さなコンビニで、と決めている。
禁煙を始めてから、マサトは会うとまず擦り寄ってきて俺の服からタバコの匂いがしないかを確認する。もともとヘビースモーカーというわけでもなかったからか、そこまで苦ではないし、何よりマサトが喜ぶから続けられそうだ。
それに、口寂しいことにかこつけて、マサトにキスを強請れる。これはかなりのインセンティブだ。

結局今朝のコンビニでは、マサトが欲しそうに見つめていたスナック菓子(何かのキャラクターのおまけがついているらしい)と、レモンライム味のガム、それと眠気覚ましのコーヒーを買った。

夏の空は高い。ターコイズに浮かぶオフホワイトの雲を見て、綿菓子みたいで美味しそうだとマサトが甘ったるい声で言う。
マサトは少し舌足らずなしゃべり方をする。俺の友達はそれをよくからかっているけれど、俺に言わせればただただ愛おしい。割と脈絡のないマサトの話だって、いくらでも聞いていられるのだ。

「タカちゃん、明日ライブだね」
「おう。おまえはバイトだったよな」
「うん……」

目に見えてしゅんとしおれるマサトの髪をかき回して、背中を軽くたたくように撫でてやる。夏の陽に照らされたマサトの背中は熱い。

「バイトじゃしょうがねえだろ、また次来ればいいじゃん」
「だって、そんなにしょっちゅうあるわけじゃないのに」
「ああ、そりゃ言えてる」
「もっと頑張ってたくさんライブして!」

ハイハイ、と適当に流そうとしたら、口をきつく結んだマサトの大きな目に睨まれた。太陽光を集めて、煌めくミラーボール。
ああ参った、その目には弱いんだ。

「……来月のイベント、相談してみるよ」
「だいすきタカちゃん!」

俺も、天下の往来で迷いなく抱きついてくるおまえが大好きだよ。
道行く人の視線も気になんてならない。暑さでやられたとでも思ってくれればいいさ。



「来月ぅ?」
「ほら、学生バンドばっかのイベ、出演者募集してただろ」

翌日、機材搬入を終えたライブハウスの楽屋でひと息ついているヨージ(うちのバンドのリーダー、といっても同い年で、ボーカル担当だ。)に言うと、あからさまに不審そうな表情が返ってくる。

「あれはレベル低そうだからパスっつったのおまえだべ?」
「……気が変わったんだよ」
「俺らのスケジュールはテメェの気分で決まんのかよっ」

ガンッと足蹴にされたパイプ椅子が床を滑って、ここでライブをした人間たちのサインと落書きで埋められたクリーム色の壁にぶつかった。ヨージは基本的にいい奴だが、口と足癖が悪いのが減点対象だと思う。

沢がそのすっ飛ばされたパイプ椅子を元に戻しながら、
「どーせマサトにお願いでもされたんだろ、アイツ今日来れねえことすげぇ残念がってたし」
とドンピシャなことを言ったもんだから、せっかく戻された椅子は再びヨージに蹴飛ばされるはめになる。

「ああん?俺らのスケジュールはテメェのかわいこちゃんの都合で決まんのかよっ」

今度は更に向こうの方まで滑っていった。

今夜のライブは地元の大学生主催の対バンイベントで、一バンドあたり転換時間込みの25分ずつ、計8バンドが出演した。
箱のキャパはそこまで大きくないけれど、そこそこ賑わっていたように思う。まだ少ないながらもついてくれている常連客もステージから見えた。

演奏もうまくいったし、ヨージも歌詞を飛ばさなかった。
にもかかわらず、いつも最前列でうっとりした視線をくれるマサトが居ないせいで、俺はどうにも物足りなかった。
フロアの天井で時折キラキラ回るミラーボールを見るたびぼんやりマサトのことを考えたりしているうちに、持ち時間は終わっていた。

ああ、マサトの顔が見たい。





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