あの子のトリコ(志摩)

「出雲ちゃーん!メアド教えてー?」
「無理」

本日で20連敗を更新。
今日も相変わらずツレナイ出雲ちゃん、もう少し愛想よくてもええんとちがう?と思いつつも、
また、ああいうところもかいらしいなあと思い頬が緩む。

昼休みも終わる頃、1-Aの廊下の前で見かけた彼女に今日もフラれた。
彼女はコチラを見向きもせず、教室へと入っていった。

失敗に終わり、そろそろ自分のクラスに戻ろうとしたところ、「志摩くん?」と自分を呼ぶ声に振り向いた。
バチッと目が合うと、彼女は笑顔で手を振ってくれる。

はぁ、菩薩や…。
出雲ちゃんに冷たくされて冷えた心に射し込む太陽、くるみちゃんの笑顔はとても眩しく見えた。
彼女は俺がここに居る理由に勘づいたらしく、にやぁと笑って小突いてくる。

「本日の戦況はいかほどで?」
「無念の惨敗どす」

「だよね!どんまい!」と慰めなのか蔑みなのかわからない言葉をかけられて苦笑いで応えた。
くるみちゃんはこの学校の男子生徒であれば、その存在を知らない人はいないと言われている。

えっらいべっぴんさんで有名な子。
入学以来、「1-Aのくまがい くるみがすごい可愛い」という情報がすぐに流れ、彼女を狙う野郎共がひっきりなしに群がった。
内面の気取らなさは彼女の愛嬌を引き立て、それが余計に見目表情も華やかに飾っていった。

どこどこの誰がくるみちゃんに告白した、という噂はひっきりなしに持ち上がっていた。
彼女は告白を受ける度に「んー、まだよくわからないので、また来年あたりに気持ちが変わらなければ!」などと言ってはぐらかしている。
のらりくらりとじょーずに交わすもんだから、最近は順当に仲を深める作戦にでる男子が増えた。

俺はどの女の子とも仲良しでいたいけど、やっぱ“特別な子”はほしーわけで。
それは、今、目の前にいるかわいこちゃんでも勿論ええわけで。
むしろ、そうだといいなあとも思うわけで。

「くるみちゃん、今日塾休みやん?」
「あー、休塾だってね」

そろそろ、次のステップに上がらせてもろてもええんちゃうかなって…

「デートせえへん?もちろん二人でー」

俺の誘いに、彼女は少し驚いて目をパチクリさせた。
彼女をデートに誘うのは初めてだ。
本気に取られても、冗談に取られてもええように、軽く声を掛けたつもりや。

…本音を言うと、本気で誘った。
彼女は少し考える素振りをした後、申し訳なさそうな表情で笑う。

「え、ほんとに?えっと…、志摩くんごめん。…また塾の皆で行こう!」

キョロキョロと泳がせた視線を再度合わせ、「連絡するね」と言って彼女は教室へ引っ込んでしまった。

俺は、彼女の背中を呆気にとられた表情で見つめる。
正直、いや、ほぼ確実に、デートならば受けてくれると思っていた。

だって、彼女がデートを断るところを見たことがない。
ほんの30分だけでも、なにかしら付き合ってくれると聞く。
それなのに、自分はあっさり断られたのだ。

ほかの人の誘いは受けるのに、自分は断られた。
しかも、戸惑う素振りをしながら。

これって…つまり…

「ほんに意識されとるん…ちゃう?」

その他大勢の男子諸君、堪忍や。
俺は諸君らよりも、一歩先の!
意識されている男子として!
Story of くるみちゃんの物語のメインキャストに選抜されとるらしい…!

俺は踵を返して軽い足取りで自分の教室へと向かう。
交わすことが得意な彼女が、あんな、普通の女の子みたいなリアクションで自分の誘いを断ったのだ。
嬉しくないはずが、無い。

しゃあないなー
また一つ、くるみちゃんの魅力に気付かされてもうたなー。
そやなあ、みんな誘ってポンちゃんでも行きましょか。

俺はポケットからケータイを取り出すと、「ポンちゃん行かへん?」と件名を打ち込み、塾生全員に一斉送信した。
勿論、くるみちゃんには出雲ちゃんを誘って連れてくるいう大切な役目を担ってもらわなあかんね。

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上手(うわて)な志摩くんを書きたくて。

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