「やあ」
「お姉ちゃん来たよー!」
ガッシャーーーン!
「ひゃ!!」
「アハハ!たらチャン大丈夫?」
「あっえと、びっくりして!いやあのクローズしてましたよね!てかあれ?!鍵閉めれてなかったかな?!」
「あんなの飾りだよねブルーベル」
「飾り飾りー」
なんかつい最近おんなじような会話を似たような人種とした覚えがある。ゲンナリした顔で爽やかな笑顔を浮かべている二人を見ればさらに笑われてしまった。セキュリティ気をつけた方がいいよ、なんて語尾に音符をつけながら言うんだ。お前が言うな。
こうなってしまったら追い出すことなんて出来ない、好きなとこ座ってくださいと言いもう一度戸締りをした。
「ん?あれ閉まってら」
「ほう、どれ」
戸締りしたその数秒後、扉の外で知っている声がして、それから鍵がガチャガチャと揺れ、そして開いた。
「よっ!」
「…………」
「あれ?ディーノくんじゃないか」
「白蘭?」
ねえ。たぶんみんなは私の言いたいことわかってくれると思うんだ。
鍵かかってるならノックするとか、外からごめんくださーいとか!!ないの?!クローズになってんだよ!!開かないなら開けて見せようたらふくキーとかそんな精神で来るんじゃねーよ!常識!常識の欠如!なんでみんながみんな勝手に鍵ガチャガチャして入って来るの?!ディーノさんとロマーリオさん!私はまだあなたたちを信じていたのに!
「言っときますけど大したものは出せませんからね。今日売れ行きよかったので!!」
ほいでいつになったら私はこの人たちを追い出せるようになるんだ!!
***
「おねーちゃん寝ちゃったー」
「お、マジ?ロマーリオ膝掛けとか持ってねーの」
「4次元ポケット俺にはついてねえよ」
「は?んー俺の上着でいっか」
白蘭とブルーベル、俺とロマーリオが座るテーブルの上には大したものは出せないと言っていたのに、紅茶とそして手作りのお茶菓子が並んでいた。ここまでしてもらおうとは思っていなかったのだがやはり気を遣わせてしまっていた。
そして売れ行きがよかったと言っていたのは本当らしい。疲れた、と一言もらしたあと彼女はカウンター席に座り真っ白なマグカップに一度口をつけるとそのまま夢の中へといってしまった。
「一人でよくやるよね」
「ん?ああ、」
白蘭が彼女の後ろ姿を見ながらポツリとそう呟き、マドレーヌを1つ手に取る。シンプルなやつと、ちょっと洋酒がきいたものと、甘さ控えめのレモン風味のと。白蘭は洋酒のきいたものをとり、その香りに嬉しそうに笑って、ひとくち。
それぞれの好みをしっかり把握していてもてなすということに手を抜かない。若いのに、たった一人で。
親は、兄弟は、友達は、学校は。今までどこで何をして、どうしてここにいるのか。
「楽しみだよね♪いろいろと知れる未来が」
「っ、なんだよ急に。勝手に心読むなっつーの。それに、俺は、案外そうでもないけどな」
「はねんまはおねーちゃんのことになると慎重派だもんねー」
「ねー」
白蘭とブルーベルはさほど楽しそうでもないくせに声のトーンを揃えて笑っていた。否定はしないし、実際これでもかというほど気を使っている。
一応ここはミルフィオーレが管轄する区域で、ポッと出てきたこの日本食専門店は俺たちから見て怪しいことこの上なかった。しばらく様子を見てから調べに入るーーというつもりだったのだが、蓋を開けてみれば若い女の子が一人で店をやっているときく。何かあるのには違いないが女の子だ。
そして、この、女の子は。
『なんも知らねえけど悪いやつじゃねえって、俺が断言する』
「……無茶なこと言ったと思うか?俺」
「そうだねー、ま、ヴァリアーがどう思ったかはわからないけど、僕は面白いと思ったよ」
「だよな……」
「でも今のところほんとに悪い子じゃなかったし」
「わるかったら殺しちゃえばいいんだもんねー」
「そういうこと♪」
白蘭とブルーベルは心底明るそうに笑っていたが、その笑みに嘘も冗談もなかった。殺しに躊躇いなんて感じていない。それがどんな相手であろうとも。
……そんな彼らの余裕があるからこそ、こうしてまったりした時間を設けられているのは百も承知だが。それでもいざというとき、俺は自分の手でそれを果たせる気がしない。止めることも、きっと出来ない。組織のトップの一人として、多が被害を被りかねない危険な因子ならば排除しなければならない。
わかってはいるけど、あんまりわかりたくなかった。わからなければ、このままの日常が。
「……ハッ!寝てた!」
「ヤッホーたらチャン」
「まだいたんですね……」
「わりーな、結局気ぃつかわせちまって」
「いや、えーと、謝られるとなんていうか……」
「だってさ。これからはいつでも侵入し放題♪」
「どういう流れでそうなるんですか?!」
冗談っぽく、でも割と結構本気な白蘭に焦りながらせめてオープンのときに来てくださいと念を押す愛理。ブルーベルは相変わらずお菓子を食べ続けてて、ロマーリオは静かにコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
俺はこんな時間が今はなにより好きで。
「まあそれだけ居心地いいってことなんだよ。喜びなよたらチャン」
それはたぶん、きっと。
いつのまにか通うようになったこいつらやヴァリアーの連中も同じなんじゃないかと思う。
「あっディーノさんジャケットすみません。ありがとうございました」
「ん、いつでも貸してやるぜ」
「結構です。はいそろそろみんな帰ってください!日が暮れますよ!」
「なんか愛理って母さんみたいだよな」
「私十代ですから!ちょっと最近気にしてるんでやめてください!!」
*秋桜さまありがとうございました!
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