刀剣狂乱舞 | ナノ


▼ 序章

「鶴丸、一周年おめでとう!」
 火薬が弾ける音と共に、頭上に紙吹雪が舞った。
「……こりゃ驚いた」
 目の前で立ち尽くしている俺に、短刀達が嬉しそうに集まってくる。
 非番の俺は、先程まで自室でゴロゴロしていた。そこへ長谷部がやって来て「緊急招集だ! 大広間へ急げ!」と捲くし立てられたときは驚いた。
 言われるまま大広間に来てみたら、何故か部屋はご覧の宴会仕様だ。俺はすべての事態を察し、呆れつつも笑みを零した。
 この本丸では、刀剣達の顕現一周年を祝うのが通年の行事となっている。そして今日は俺の顕現一周年だ(今まですっかり忘れていたが)。
「鶴丸さんにさぷらいずぱーてぃーです!」
 秋田が言った。さぷらいず、要は驚きのことか。新しい言葉を楽しむように皆が口々にその単語を復唱した。サプライズ、サプライズ、サプライズ。皆がこれだけ復唱すればもう忘れないだろう。
「ゴホン。それでは、鶴丸国永一周年記念を祝しまして……!」
「乾杯ー!」
 乾杯の音頭を近侍である長谷部が取ると、腕によりをかけて作ったという光坊の料理が次々と庭の炭火で焼かれていった。
 皆、思い思いに食材を焼いたり談笑をしたり、楽しそうだった。
 庭の食材が無くなっても、大広間のテーブルにはまだまだ沢山の食材がある。各自で足りなくなった食材を求め、庭と大広間を行き来する度、縁側に座っていた俺は彼らを見上げるように眺めた。
「鶴丸さん、これどうぞ」
「これもあげる」
 俺の横を通るついでに、俺の皿に調理された食材を置いていく仲間達。
「鶴丸、これも食え」
「あ、じゃあこれも」
「おいおい、こんなに食べきれないぞ!」
 ついに皿は食べきれないくらいてんこ盛りになった。
 本丸が食べ物のいい香りと皆の笑顔で溢れている。部屋にはいっぱいの飾りつけ。
 きっと俺に内緒で、以前から準備をしていたのだろう。誰が作ったのかわからないが、ところどころ不格好な折り紙があって、それがまた手作りらしくて微笑ましかった。
 縁側という特等席に座って、皆の笑顔と満開の桜を眺める。空の青と小川のせせらぎ、桜吹雪に包まれてはしゃぐ仲間達、それを少し後ろから眺めている主。
 今日はなんて良い日だろう。過ぎてしまうのが惜しいくらい、最高の一日だ。
 料理を食べた後には、一周年記念パーティー恒例のプレゼント大会が待っていた。
 皆、趣向を凝らした様々な贈り物を俺にくれた。
 今剣がくれたのは、庭に咲く春の花々を押し花にした栞。
 粟田口兄弟からは新しい手袋を貰った。特殊な形状に合わせて布を調達し、一から作ってくれたという。
 他にも、色鮮やかな羽織に、寝具に、新しいサングラス、妙ちくりんな置物、その他諸々。大変嬉しかったが、部屋に入り切るだろうか。少し心配だ。
 仲間からプレゼントを貰い終わると、最後は主からだ。何をくれるのだろうか。わくわくしながらその時を待った。
 しかし、俺の予想に反して、主は何も持ち合わせてはいなかった。
 聞くと、何をあげるか迷いに迷った挙句、俺の希望するものをあげようという結論に落ち着いたらしい。
 何か欲しいものはあるかと主に聞かれ、俺は少しの逡巡の後、あるものを思い浮かべた。

 桜の花びらが小川に舞い降りて、身を任せるままに流れていく。
 時間とは残酷だ。人の想いを置き去りにして、刻々と過ぎていく。
 どんなに永遠を望んでも、それが叶う事はない。
「そうだな。俺が欲しいものは――」
 この贈り物を、俺が使うことは決してないだろう。
 しかし、一筋の希望とも呼べる願いを込めて、俺は主にそれを貰った。

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