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「#エロ」のBL小説を読む
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01


 アフロヘアーと口ひげが特徴的な男は彼女を見て溜息を吐いた。ここは男の部屋。そして若い女はソファの上に寝転び、音を立てながら煎餅を食べていた。
 男は机を叩き、彼女の名前を呼んだ。

「何でしょう、センゴク元帥」
「私の煎餅を見てないか」
「ああ、私の胃の中です」
「またお前かー!!」
「ギャーー!」
「そしてなぜお前がここで寛いでいるんだ!」
「ああ、退屈な鍛錬だったので抜き出してきました」
「貴様ァァァァァ!!」
「ギャーー!」

 センゴクは彼女の行動に頭を抱えて、保護者であるガープを呼びつけた。

「また貴様の孫だ、ガープ!!」
「今度は何したんじゃ」
「鍛錬から抜け出し、私の煎餅を食ってさぼっておる」
「なんじゃ、体力があり余っとるのか。よし、じぃちゃんが鍛えてやろう」
「そういう問題じゃない!」

 センゴクから注意を受けたのにも関わらず、彼女はまだ煎餅を口にしながらソファで寛いでいた。

「ガープ中将」
「じぃちゃんと呼ばんか」
「修行は結構です」
「なんじゃい、じぃちゃん寂しい。せっかく可愛い孫が海兵になったのに全然じぃちゃんの言うことを聞かん」

 拗ねるガープを気にもせずに彼女は冷凍庫からアイスを取り出し、窓から外へ出た。
 彼女が笑顔で向かうその先にはスモーカーがいた。

「スモーカー大佐ー!」
「……イリス。何だ今日は」
「そんな嫌な顔しないで下さいよ。友達じゃないですか」
「一体誰と誰が友達だ……って後ろからアイスをつけようとすんじゃねェ」
「このアイスをスモーカーさんにつけたら、『ズボンがアイス食っちまった』って謝ってくれて五段積みアイス買ってくれるかなーっと思って」
「それはおれの真似か?」
「あの時は笑ったなー。一生ネタに出来る」
「……今日という今日は許さねェ」
「モクモクするのやめてー!? アイスあげるからー」
「アイスなんざいるか! 待て!」
「ギャーーー!」

 海軍本部中佐イリス、彼女は今日も海軍本部を賑やかにしていた。


********************


 私は昔ガープというじぃちゃんに拾われた。島を悪い海賊に襲われて家を燃やされ、両親は赤子の私を守るように抱いて命を引き取ったらしい。助けに来た海軍のうちの一人がガープで、彼は息のある赤子を連れて帰った。
 そして私はガープの孫であるルフィと一緒にフーシャ村での生活を送った。私の生まれた島を焼いた海賊を、両親を殺した海賊を恨んでいたが、シャンクス達赤髪海賊団に出会って私の考えは一変し、海賊になりたいと憧れを持つようになった。その憧れはルフィも同じだった。

「おれは海賊になる! シャンクスの船に乗せてもらうんだ」
「私も海賊になるー!」

 マキノさんがいる酒場に赤髪海賊団が来ていると聞いて、ルフィと一緒に酒場に走っていく。そこにはシャンクスの娘のウタと言う女の子もいた。彼女は音楽家らしい。ルフィとウタはいつも何かで競っていて、その間私はシャンクスの膝の上に座っていた。

「イリスもルフィ達と遊んできたらどうだ? ここにいてもつまらないだろう」
「ううん、シャンクス大好きだから。一緒にいたい」
「そうか! じゃあずっと一緒にいようなー」
「お頭がまたイリスにデレてやがる」

 赤髪海賊団の皆がケタケタと笑う。シャンクスの膝の上は落ち着くし、彼の事が大好きだった。きっと私の初恋はシャンクスだったのだと思う。

 赤髪海賊団がフーシャ村を旅立ってから、私とルフィはじぃちゃんに山賊の中に放り込まれて山賊に育てられた。同じ年のエースという少年がいたが、彼は中々心を開いてくれなかった。
 たまに帰ってくるじぃちゃんは、私達を強い海兵に育てるためと言って様々な試練をさせた。じぃちゃんは厳しかった。だけど嫌いにはなれなくて、出来ることが増えたらたくさん褒めてくれるしたくさん可愛がってくれた。
 とある日、じぃちゃんに捕まったエースとじぃちゃんが言い合いをしていた。エースは木の幹に縄で縛られて縄を解けと吠えていた。

「おかえりじぃちゃん」
「おうイリス、ただいま」
「何してるの?」
「この馬鹿がわしを掘った穴に落とそうとしてな。まあ落ちんかったけどな! 今は反省中じゃ」
「だれが反省なんかするかよ! お前もどっか行けよ!」

 それから夜になってもエースは帰ってこなくて、心配で様子を見に行くと彼はまだ縛られたままで疲れたのか眠っていた。しかし野生の猪が彼を狙って突進してきているのが見えて駆け出した。
 エースと猪の間に入り、猪の牙を両手で受け止める。音で目が覚めたのか、後ろからエースの声がした。

「お前、何してんだよ!?」
「猪と戦ってる」
「そんなこと聞いてんじゃねェ! ほっときゃいいだろ、おれなんか!」

 両腕に力を込めて、猪を遠くに投げ飛ばした。向こうは崖だからきっとこっちに戻ってくることはない。
 縄の結び目をほどきながら、「競う相手がいないとつまらないだろ」と言うと、顔を逸らされた。

「お前にはルフィがいるだろ」
「ルフィは三つも下だし手を抜いちゃうんだよね。だから本気で競えるのはエースだけなんだ。だから……、一緒に帰ろう」
「……ああ」

 それから手をつないで一緒に帰ろうとすると、手を叩かれた。

「手なんか繋ぐな」
「ごめん、嫌だった?」
「男同士で変だろ!」

 ……? おとこ? おとこって男? 私おとこだったの? いやいやいやいや!! どう見ても女でしょう! 短髪だから男に見えなくもないけど。

 言い返すかどうか悩んだけど、彼が気付くまで男のフリでもしておこう。その方が彼と仲良くなれるのなら。嫌でも身体は女に成長するんだ。きっとそのうち気付くはず……。

 そうして私達が十七になった頃、エースは出航すると言った。

「三日後、おれはこの村を出る。イリス、お前も来るだろ?」
「うん、勿論。ルフィを一人にさせちゃうのは心苦しいけど」
「あいつならすぐ追いついてくるさ」
「そういや結局船長はどっちが」
「強い方だからおれだろ」
「なわけ。船長は譲れないし別々で出航する?」
「あー、じゃあ一旦船長の話は保留だ。暫く男二人旅だけどよ、楽しもうぜ」
「う、うん……」

ーー彼はまだ私の事を男だと思っている。


 しかし三日後、エースの元に私が現れる事はなかった。……何故なら、じぃちゃんに攫われたからだ。エースと出航の話をした後、村に帰ってきたじぃちゃんに会った。

「おかえりじぃちゃん」
「ただいま。エースはまだ海賊になると言っておるのか」
「うん。私も一緒に海に出るんだ」
「なんじゃと? イリスは強い海兵に育ててやるから安心せい」
「……ごめんじぃちゃん、私も海賊になるよ。自由な海賊に憧れてるの」
「お前はこんなに泣いとるじぃちゃんをほったからして海に出ると言うんかー!」
「エースもルフィも海賊になるって言ってるけど!? ていうか泣いてなくない!?」
「可愛い可愛い孫娘のお前を得体のしれない男どもと一緒に旅なんてさせられるか。じぃちゃんの下で働かんか!」
「エースと行くんだってば! 得体の知れない男じゃないでしょ!? 私は海賊が良いんだよ!」
「うるさい!」
「いでェッ!」

 頭を強く殴られて気を失った。次に目を覚まして最初に視界に映ったのは同じ格好をした人達だった。入隊式のように見える。もしかして、もしかしてだけどここって……。

「海軍本部? 」
「やっと目が覚めよったか」
「海兵にはならないって!」
「お前はわしの孫だからな、特待生じゃ。あんな制服も着んでいい。自由にやれ」
「人の話聞かんなこのじーさん」
「口が悪い!」

 また拳骨がふってきた。頭が割れるんじゃないかってくらい痛い。
 それからじぃちゃんに引きずられて海兵になること早一か月。逃げだしてもすぐに連れ戻される日々が続いたが、海軍の中では好きにさせてもらっていた。

「海軍って意外と自由だ。それならまあ良いか」
 自由にさせてもらえなかったら海軍をやめて海賊になろうと心に決めて、海兵の生活を楽しんだ。


********************


 それから三年が経ち、今スモーカー大佐に追いかけられている。小さい頃から鍛えてきたけど、正直能力者は疲れるから相手にしたくない。
 道を曲がった先で物陰に隠れたら、彼は私に気付かずどこかへ行った。しばらく顔を合わせないようにしよ。
 この場を離れようと立ち上がったらポケットに入れていた電伝虫が突然鳴って、大将から呼び出しをくらった。何かしたっけな。覚えてないけど、大将を無視すると面倒だし仕方ないから行ってあげよう。

「クザン大将、こんにちはー」
「イリスちゃんじゃないの。なに、サボり?」
「サボりじゃないです。クザンさんに呼ばれてきたんですけど」
「あらら、そうだったっけ? そういえば呼んだ気もするな。でも呼んだのお昼前だった気がすんだけど」

 窓から差し込む夕日を見て、しばらく互いの沈黙が続いた後、私は口を開いた。

「用がないなら私は見回りに行かないといけないんで」
「あー、思い出した。書類整理してもらおうかと思って」
「それじゃ」
「そういえば高級ケーキが冷蔵庫にあるんだった。やってくれたら好きなの食べて良いよ」
「まじすか、それを先に言ってもらわないと!」
「きみってホント扱いやすいよねェ」

 大将は金持ちだから媚びておいて損はないんだよね。美味しいもの食べさせてくれるし。ガープの孫だからか否か、私は大将に呼び出されることが多い。適当に対応しても怒られたことはないし、きっと娘みたいに思ってくれているんだろう。多分。
 書類に目を通すと、役職のついた海軍の名簿だった。中佐の欄に私の名前もある。
 懐かしい記憶を思い出した。私は今、あの人と同じ中佐になった。急に会えなくなった彼の事を昔、センゴクさんに聞いたら彼は海軍を辞めたと言っていた。暫く顔を見ていないどころか連絡も取っていないあの人は一体今どうしているのだろう。

「おーい、イリスちゃーん?」
「あ、何ですか?」
「ボーとしてたけどなに、悩み? もしかして胸が小さい事悩んでるの?」
「セクハラですね。元帥に報告しておきます。あ、サカズキ大将でも良いですね」
「待って待って、冗談だって。小さくても可愛いから」
「報告してきまーす。そして二度と顔見せないでくださいねー」
「イリスちゃん!? ごめんもう言わないから!」

 書類整理はしたしケーキは貰っていこう。クザンさんの部屋を後にして、ケーキを食べようと自室に戻ろうとしたら、ポケットに入れている電伝虫が鳴った。ハァ、めんどくさい。


 どうしてこう呼び出しが多いのか。これ以上呼び出しが多くなったら文句を言ってやろうと思う。

「サカズキ大将、お呼びでしょうかー?」
「ようやく来よったか。わしが呼んでから何分経ったと思っとるんじゃ」
「さっきまでクザン大将のところで書類整理してたんですよ。あ、でもマッハで来ましたよ!」
「見え透いた嘘をつきよってからに。頬についとるもんはなんじゃ」

 手で頬を拭うと、さっき食べたケーキの生クリームがついていた。クザンさんの部屋から出た後、食堂でケーキ食べたんだよなァ。美味しかったからまた食べたい。

「おどれ、何故昇進を断ったんじゃ」
「えっ、えーーー……」

 何の話をされるのかと思ったら、その話か。昇進を断ったのは数日前。今のところ中佐で不便はしていないし、あの人と同じ中佐のままでいたいとも思っている。サカズキさんは元々怖い顔が更に怖くなっているから何か答えた方が良さそうだ。

「上から評価されているのは有難いことですけど、自分は実力がまだまだ足りないと思っているので、昇進はまだ早いかなと思いました」

 てきとうに答えるとサカズキさんはフン、と鼻を鳴らし持っていた書類を机に置いた。

「いつまで一般海兵と同じ格好をしとるんじゃ」
「コート肩凝るんですよねェ」
「海軍将校である自覚を持たんか」
「あのコートが軽くなったら考えます」

 それじゃ夕飯の時間なので、と言って部屋を後にした。サカズキさんの説教は疲れる。この間クザンさんが「説教でも何でもイリスちゃんと話したいから呼び出すんだよ」って言ってたけど、本当のところどうなのかは分からない。
 食堂に行くとスモーカーさんがいたので踵を返す。歩き出そうとしたら後ろから声をかけられた。しかも大きな声で。

「イリスさーん、ここの席空いてますよ!」
「たしぎさん……」
「イリスだと?」

 静かに食堂を去ろうとしたのにまさかのたしぎさんに見つかった。彼女の近くの席に座っていたスモーカーさんは私の名前に反応した後、鋭い目がこちらに向けられる。

「イリスさんも今から食事ですよね? ぜひご一緒に」
「あー、うん。そうなんだけど……遠慮する!」

 彼らに背を向けて駆け出そうとしたら、手足が煙に包まれた。うわ、スモーカーさんの能力だ。煙に包まれたまま彼らの近くの席まで運ばれる。

「今朝はどこに逃げたんだ? あ?」
「出来れば顔を見たくなかった」
「おれは会いたかったぜ」
「それは愛しい恋人に言ってあげてください。……あ、相手いなかったですね。すみません」
「殴っていいか?」

 私が答える間もなく殴られたけどじぃちゃんの拳骨に比べたら全然痛くなかった。

「殴っても何でもないような顔しやがって」
「痛いですよ。女の子に暴力はやめてください」
「……?」
「何ですか、その『お前女じゃねェだろ』みたいな顔」
「よく分かってんじゃねえか」
「ふふっ、相変わらず仲が良いですね」
「「どこが」」

 二人と同じテーブルで食事をしながらいつもと同じようなやり取りをする。するとたしぎさんが何かを思い出したのか「あっ」と声を漏らした。

「イリスさん、七武海の会議には参加されるんですか?」
「会議するんですか。知りませんでした。勿論関わらないです」
「前に茶出しをやったそうじゃねェか」
「あの時は高級ビュッフェに連れて行ってもらえるからって交換条件で、無理矢理」
「それは無理矢理ではないのでは……?」
「たしぎ、コイツにツッコんだら負けだ。じゃあ参加しねェんだな」
「もちろんです」

 そんな会話をした一時間後、センゴクさんから先程話していた会議についての話をされた。

「来週、七武海が集まる」
「大変ですね。頑張って下さい」
「お前も行くんだ。それから私の煎餅を勝手に食うな」
「やですよ。七武海嫌いなので」
「不本意だが、お前が来ないと会議に参加しないと言う連中がいる」
「物好きな人ですねェ。そんな人はもう来なくて良いんじゃないですか?」

 そんな馬鹿みたいなことを言う七武海は誰だ。あいつか、あいつかと複数人を頭に浮かべる。勿論私を揶揄うつもりでそんなこと言ってるんだろうな。

「有給三日間」

 センゴクさんの提案に無言で指を二本立てると、「二日で良いのか」と驚いた顔をされたので首を横に振った。

「二週間です」
「それは長すぎる。せめて一週間にしてくれ」
「何があっても呼び出しはなしで」
「……わかった」

 行ってあげてもいいか。どうせ全員揃わないだろうし。有給一週間、何しようかな。ちょっと遠くまで旅行するのも良いな。

「一週間後、頼んだぞ」
「美味しいもの食べに行きたいなァ」
「……聞いているのか?」
「美味しい店いっぱい知ってる人って誰だと思います?」
「貴様ァ!!」
「何で怒ってるんですか!? ギャー!」

 センゴクさんから逃げ出した。なんで急に怒りだしたんだあの人。情緒不安定か。
 途方もなく外を歩いていると視界の端にピンク頭を見つけた。彼はじぃちゃんの下で修行をしていて入った当初と比べれば見違えるほど強くなった少年だ。

「やっ、コビーくん。見回り?」
「イリス中佐! お疲れ様です。はい、見回り中です」
「あっちの方に海賊がいるんだけどちょっとヤバそうでさ。力を貸してほしいんだけど」
「分かりました。人を集めてきます!」
「そんな時間はないんだよ。ついてこい少年」
「ええ!?」

 屋根の上に飛んで全速力で走って走って走って。焦りながら必死に私の後をついてくる少年を見て口角が上がった。曲がり角で彼の視界から姿を消して行きつけの店で買い物をする。彼が私を見失い、辺りを見渡しているところへ声をかけた。

「ここまでよく来れたね」
「ハァハァ、あの……いったい、どこに海賊が?」
「はい、ご褒美。私の奢りだ。美味しいよ」
「アイス!? 今見回り中なんです。バレたらどうなることか……、今すぐ戻ります!」
「大丈夫大丈夫。私から報告しておくから」

 わたわたと焦っているコビーを横目に不意に聞こえた騒がしい声。ガラスの割れる音と叫び声。そして暴れ回る音。食べていたアイスをコビーに預け、音の聞こえた方へ走った。
 案の定、海賊が店を荒らしていて店主に金と酒を出せと脅している。

「この町で暴れられると困るなァ」
「誰だテメェ! 海軍か!」
「弱そうだ」「一人だけか」「叩き潰してやる」と海賊達が私に向かって汚い言葉を吐く。剣を振り回し銃を構える彼らの方へ走り、腹を蹴り頭を殴る。戦うことに夢中になっていたら、いつの間にか全員倒れていた。
 店の人や客が怪我をしてないか確認しながら、倒れている海賊を拘束した。

「イリス中佐! これは……」
「コビー、こいつら連行して」
「はい!」
「あ、アイス溶けてるじゃん」
「えっ!? す、すみません!」
「いいよ、またアイス一緒に食べようね」
「分かりました!」
「言っておくけど、命令じゃないからね。友達として言ってんだよ」
「とも、だち……」
「どうしたどうした、何泣きそうになってんの。ばっかだなァ」
「すっすみません。すぐ連行します!」

 溶けた二つのアイスを食べながら、コビーと他の海兵達が海賊を連行している様子をボーッと見ていた。あんな真面目に働けないや。

「イリス中佐、終わりました。僕は見回りに戻ります」
「うん。おつかれー」
「イリス中佐は……」
「?」
「そんなに強いのに、何故中佐なのですか? 昇進の話も断ってるって聞きました」
「何でコビーもその話知ってんの。びっくり」
「噂になってます」
「そうなんだ。中佐のままでいたいんだ。私を見つけてほしい人がいてさ」

 早く見つけてくれないかな、ロシー……。

ーーーーーー
ーーーー
ーー


 男との出会いは、イリスが六つの頃だった。ガープは嫌がる彼女を海軍本部へ連れてきていた。

「海軍なんてやーだー!」
「可愛い孫自慢させんか! ほら、センゴク、うちの孫のイリスじゃ。可愛いじゃろう」
「ガープ、いきなり入ってくるな。報告中だ」
「では失礼します」
「ああ」

 真面目そうな金髪の青年が部屋から出て行く。ガープの手から逃れた彼女は静かにその男の跡を追った。

「ねえねえ、お兄ちゃん」
「えっ!? いつの間に!? ってうわァ! 」

 彼女が男のズボンをクイっと下に引っ張ると彼は驚き、その場で派手に転んだ。

「いてて、ドジった。きみはさっきガープ中将と来ていた……」
「イリス。お兄ちゃんは?」
「ロシナンテだ。早く戻らねえと」
「ろしなんて……ロシー?」
「ああ、ロシーで良いぞ」
「ロシー! かくれんぼしよ! 鬼のじぃちゃんに見つかったら負け」
「え!?」

 それからロシナンテに遊んでもらうために彼女は海軍本部に頻繁に足を運んだ。ガープは理由が何であれ、彼女が海軍本部に行く事を喜んでいた。


「ロシーってタバコ吸うんだ」
「うわッ、イリス。またここに来てたのか」
「うん。ロシー、肩燃えてるよ」
「え!?」
「それおいしいの? 私にも一本ちょうだい」
「子供が吸うもんじゃねェ……っていつの間に!」

 火のついていない煙草にイリスが口をつけようとすれば、ロシナンテの大きな手が彼女の口を塞いだ。そして絶対だめだぞと彼女に注意をする。
 つまんないのーと言いながら欠伸をする彼女に、ロシナンテは眠いのかと聞いた。

「昨日怖い夢を見たの」
「眠れてねえのか? ちょうど休憩中だ。昼寝するか」
「でも怖くて眠れないの」
「安眠においておれの右に出る者はいねえ」
「そうなの?」

 イリスを部屋のソファに寝転ばせ、彼は能力を使った。周りの音が消え、彼女は驚き目を見開いた。

「どうだ? これで眠れそうか?」
「なにしたの!? ロシーは魔法使い!?」
「ああ。皆には秘密な」
「うん!」

 自分たち以外の音が聞こえない中で、彼女は眠りに落ちた。
 彼女が眠りから覚める頃にはもう陽が落ちており、ロシナンテは姿を消していた。イリスは彼を探し回ったが見つからず、センゴクに聞きに行った。

「ロシー知らない?」
「ああ、アイツは任務で暫く帰って来ない」
「そっか任務……。じゃあロシーが帰ってきたら教えてね」
「ああ。連絡を入れるようにしよう」

 それから数日後、彼女の元に連絡が来た。

「イリス、ロシナンテからだ」
「ロシー?」
 センゴクから渡された電伝虫を手に取り耳に近づける。
「イリス、元気にしてるか? そろそろお前が寂しがってる頃かと思ってさ」
「うん寂しい。ロシー、早く帰ってきて一緒に遊んでよ」
「おれもお前と遊んでやりてえが、暫く帰れそうにねェ。また帰ってきたら一緒にかくれんぼしような」
「うん!」
「……もし、万が一おれが帰ってこなかったら、その時は」
「ヤダ! 絶対帰ってきて」
「勿論善処する。それと、この先何処かで……ローってガキと会ったら仲良くしてやってくれ。これはおれとお前だけの秘密だ」
「うん分かった秘密。任務、がんばってね」
「ああ、じゃあな」


 これが二人のさいごの会話になった。彼女が九つになった頃、ロシナンテは海軍を辞めたとセンゴクから聞かされた。それから彼女はずっと彼を探している。



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