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06


 黒ひげという男がエースを海軍に引き渡した、と会議で聞かされた。
 海賊王の息子だから処刑にするって?
 そもそも黒ひげって誰だ。エースを引き渡したからそいつが王下七武海入り?

「ふざけんな!」

 机を殴り、会議室から出ようとしたら大声で止められる。

「待たんかァ! イリス!!」
「サカズキ大将……」
「会議中じゃ。戻らんか」
「私用です!」
「何処にいく気じゃ」
「ちょっと監獄に」
「バカな真似はやめんか。早う戻れ」

 近付いてくるサカズキ大将は、体からマグマが出そうなくらい怒っている。でもここで引くことは出来ない。

「お願い、サカズキさん。行くだけだから。お願いします」
「……、それ以上の事をしたらイリスでも許すわけにはいかんぞ」

 コクリと頷いた。彼が許可を出すなんてと周りがざわついていたが、気にせず会議室を後にした。


********************


 インペルダウンに行くまでの手続きに手間取ったが、ようやく最下層にやってきて彼を探す。

 血まみれになって鎖で繋がれているエースを見て、一瞬息が出来なくなった。この前まで笑い合っていたのに、どうしてこんな姿に。

「エース」
「イリス……か。何しに来た」
「アンタをここから出す」
「バカなことすんのはやめろ。お前は海軍だろうが」
「海軍の立場より、エースの方が大切なのは当たり前だ」
「やめろ! おれはそんな事望んでねェ!」

 エースが叫んだ。なんで、どうして。処刑される事を受け入れているの?

 エースと同じ監獄内に収監されていたのは、王下七武海のジンベエさんだった。彼の体も酷い状態だ。インペルダウンに入る前、ジンベエさんが収監されたことは耳に入っていた。

「ジンベエさん、貴方がここにいる理由は知ってます」
「わしはこの戦いを止めたいと思うとる」
「私もです。力を貸して下さい」

 ジンベエさんとは同じ考えだ。彼も一緒に脱獄させたい。


「なあイリス、少し話をしようぜ」

 エースの優しい声が響く。気持ちを落ち着かせるために一度息を吐いてコクリと頷くと、彼は小さく笑った。

「おれ、お前に言ってないことがあんだ」
「言ってないこと?」
「実は知ってたんだよ。お前が女だってこと」

 え、と声が漏れた。今この状況で、こんな話をされるなんて。それに女だって知ってたってどういうこと? と私が混乱する中エースの話は続く。

「サボがお前の事好きだっただろ。だからおれはお前の事女として見ちゃいけねえって。男だと思って今まで接してきたんだ。でもまァ最初は男だと本気で思ってたけどな」
「うそ……」
「嘘じゃねえよ。サボがお前と兄妹になるのを拒んだのも、兄妹になったら結婚できねえからだって。ハハッ、おもしれェよなアイツ。小せェ頃からそんな事考えててよ」

 盃を断られたのはとてもショックだったけど、そうだったんだ。

「おれはお前まで失いたくねェ。お前を危険な目にあわせたくねえんだ。イリスのことは本当に……大切に思ってる」
「エース……。私もエースの事が大切だから。だから、助けたい」

 エースは笑いながら首を横に振った。笑っているのに切ない気持ちが伝わってきて、涙で視界がぼやけた。

 どうやってここから救出すれば。エースとジンベエさんがいるとはいえ、二人は負傷してるし人手が足りない。脱獄は不可能と言われているインペルダウン。ここの看守と仲良くなっていたら、と後悔した。


 突然、低い笑い声が響いた。振り向くとクロコダイルさんがこちらを見て笑っていた。

「お熱いこった。火拳を脱獄させるなら手を貸してやるぜ」
「やめろ。コイツは海軍だぞ」
「ハッ、ぬるいな」
「もっと戦力を集めないと駄目なので一旦出直します。でもその時はよろしくお願いします。クロコダイルさん」
「イリスっ!」
「クハハハ! それでこそお前らしい」

 脱獄するにしてもエースの処刑を中止させるのには戦力は必要だ。彼がいるのといないのとでは全く違うだろう。

「じゃあエース、ジンベエさん、クロコダイルさん。また……」
「イリス、バカなことは考えるなよ!」


 まずは作戦を練って戦力を集めないとダメだ。恐らく白ひげ海賊団はエースを救いに来るだろう。そして、ルフィも……。彼と連絡を取ることが出来れば。

 それと王下七武海の誰かを海軍側ではなく此方側に引き込めば戦力になる。状況によるかもだけど協力してくれそうなのはハンコックさん。ハンコックさんに連絡を入れたところ、ルフィが彼女の所にいると聞いた。運が良い。

 彼らは今インペルダウンに向かっているとのこと。そこで私と合流し、エースを救い出すことになった。


 ルフィとの会話を終えて自室に入ろうとした時だった。人の気配がして振り向いた瞬間、頭を殴られ気を失った。


********************


 目が覚めると知らない部屋にいて、手足に手錠をつけられていた。まるでインペルダウンにいたエースのようだ。ガチャリと扉が開き入ってきたのはじぃちゃん。色々聞くことがあるけど、まず第一に……。

「じぃちゃん、エースの処刑日は」
「今日じゃ」
「……くそッ!!」

 どうして私は今まで気を失っていた? あの時確かに頭を殴られた。一体誰に。

「ここから出してくれるよね」
「ああ。じゃが、お前は自分の任務を遂行するんじゃ」
「……、私を殴ったのはだれ」
「サカズキの指示じゃ。今日もこのままにせえと言っておったが、連れ出しに来た」
「ありがとう。じぃちゃん」

 急いで外に出ると、戦争だった。エースは処刑台にいて、その下では海軍と海賊が戦っている。エースはまだ処刑されていない。大丈夫。……だけど、大勢の人が倒れていて白ひげ海賊団の皆も重症だ。


 白ひげに向かって銃を構える海兵達を倒しながら、彼の方へ走っていく。私に気づいた大将達は此方に向かって叫んだ。

「イリス、何故ここにおるんじゃあ! 大人しくしちょれ。海賊は悪じゃ」
「あいつは……エースは"悪い"海賊じゃない!」
「困ったねえ。まさかイリスちゃんが海賊側につくとは」
「大将達がエースを殺すって言うなら、私も本気で……ッ!?」

 足が凍った。クザンさんの能力だ。私を凍らせた彼は近づいてきて耳元で話した。

「イリスちゃん。流石におれ達相手じゃキツいの分かってんでしょ。これ以上暴れられると海軍にいられなくなるよ」
「私はそれでも……」

 クザンさんの冷たくて長い指が私の口元を撫でる。口を凍らされた。こんなところで足止めを食らうわけにはいかないのに。彼らが海賊へ攻撃しに行くのを横目に、感覚を集中させて氷を解かした。

 大将相手は力の差がありすぎる。だから、せめてエースを解放しようとしているルフィと一緒に戦わなくては。
 ルフィに銃口を向けている海兵を倒していく。ルフィもあんなにボロボロになって。私もやるべき事をしなければ。


 ーー幼い頃、サボが殺された。そしてロシーも殺されていた。どうして、心優しい人達が死ななきゃならないの。


 処刑台に向かうルフィの前にじぃちゃんが立ちはだかる。力だとじぃちゃんの方が上だけど……、じぃちゃんはルフィに殴られていた。
 そして、エースの元に辿り着いたルフィは手錠の鍵を取り出すが、近くにいたセンゴク元帥が大仏の姿に変わっていく。

 私は彼らの間に飛び込み、海楼石の手袋をつけた拳でセンゴクさんの拳にぶつけた。海楼石だから少しは威力が弱まってるかもしれない。だけど、自分より何倍も大きな拳だ。耐えきれず処刑台が崩れていった。

「エース、ルフィ。色々あって遅くなった」
「イリス! 来るなっつっただろ、馬鹿野郎!」
「待ってたぞ! イリス!」

 ロウを扱う能力者が作った鍵でエースの手錠を解錠した。エースを救出することが出来た。下に落ちながらエースは私の頭を守るように強く抱きしめて、ありがとうと呟いた。

 地面に足をつけた私たちに海兵達が取り囲み銃を撃つ。彼らは能力者だから避ける必要がないが、私は非能力者だ。彼らを盾にして銃を避けた後、海兵を倒した。

「こっから逃げられるわけねえじゃねえの。イリスちゃん、いい加減おいたがすぎるぜ」
「クザンさん……」

 再び私の前に現れたのはクザン大将。エースは一歩前に出た。エースの炎とクザンさんの氷の能力がぶつかる。威力が凄くて目を閉じたら、気づいた時には私はクザンさんの腕の中だった。

「「イリス!!」」
「私のことはいいから、先に行って!」

 怒ってそうだけど、クザンさんは私を殺さない。そんな自信があった。二人を先に行かせて、彼の顔を見上げる。

「何でこんな事したんですか」
「それはこっちのセリフだ。さっき止めたでしょおれは。それなのに海兵は倒すしセンゴクさんに向かっていくなんてなァ」
「私をどうするんですか」
「そうだなァ……」

 クザンさんが考えている間に私は彼の腕を両手で握った。力が少し弱まったので、彼から離れる。彼は何も言わなかった。


 二人はジンベエさんと共に船を目指して走っているのが見えた。そう、そのまま真っ直ぐ走っていけばここから逃げれる。
 しかしサカズキさんの挑発にエースが立ち止まり、二人の能力がぶつかり合った。


 そしてエースはルフィに攻撃しに行くサカズキさんから、ルフィを……守った。




 エースが倒れた。サカズキ大将にやられた。ルフィはショックと疲労で全く動かなくなった。そして優しくしてくれた白ひげも動かなくなった。


 この状況が受け止められない。何も、出来なかった。この場にいて、私は何も……。
 きっとエースは逃げれる。そんな未来を見ていたんだ。何もかも上手くいくと甘い考えを持っていた。

 悲しみに溢れた喉を振り絞って声を上げた。

「やだ、やだっ、エース、エース……死なないで。エース……!! 何で、どうしてっ!」

 これからもずっと一緒に生きてほしかった。一緒に海に出て旅をしたかった。ずっと、笑っててほしかった。

「返して!! エースを返してよ! エースゥ……」

 彼らの戦いは終わらず、私の声は掻き消された。此処にいては駄目だ、そう誰かに言われた気がした。ふらりと立ち上がり、海軍本部を背にして歩く。


「何処に行く、イリス」

 じぃちゃんに呼び止められた。分かってる、いくら家族だろうが立場ってものはある。分かってる、分かってる……けど、私にはじぃちゃんのように海軍の正義を貫く事はできない。

「海軍を出て行く」
「何を言ってるんじゃ。わしゃ許さんぞ」
「私は悪い奴らを倒すために海軍に入ったんだ。私は……ッ、エースを殺すためにここにいたわけじゃない!!」
「待たんか!!」

 呼び止められるが走り続けた。
 ずっと探していたロシーはもういない。エースは海軍に殺された。ここに居る意味はもう……ない。

 私は何処に行ったら良いのだろう。辺りを見回しても戦いばかり。
 そんな時、頼れる大きな背中を見つけて飛び込んだ。

「シャンクス……!」
「イリス! 酷い怪我じゃねェか」
「私を海に連れてって」
「……いいのか?」
「自由にしてほしい」
「お前がそう言うならおれは大歓迎だ」

 この頂上戦争を止めに来たシャンクスは、私を受け入れてくれた。ホンゴウに連れられて赤髪海賊団の船に乗る。

 ルフィはトラファルガーの船で逃げて行くのが見えた。彼は信用できる。生きていればルフィにはまた会える。……生きてさえいれば。


********************


 あの戦争をおさめたシャンクス率いる赤髪海賊団は、船に戻ってきた。私は治療してもらってベッドの上にいた。

「にしても酷い怪我だな。治るまで暫くかかるだろうから安静にしてろよ」
「うん。ありがとう」

 そういえばこの前話したのはシャンクスだけで、ホンゴウと話すのは何年振りだろう。救急箱を棚に置くホンゴウを見ていると、医務室の外から複数人の声が聞こえてきた。

「イリス、海軍辞めてうちに入るのか? お頭もみんなも喜ぶな!」
「お頭のあんな嬉しそうな顔久しぶりに見たな」
「おい、イリスは傷心中なんだ。少しは気ィ遣えよ」

「……聞こえてるんだけど。皆、久しぶりに話そ」

 そう言うとドアを開けて騒がしく入ってきたのは昔フウシャ村にいた赤髪海賊団の皆。
 今までどうしていたのか、何で海軍に入ったのか沢山聞かれて答えるのが大変だった。

「そういやイリス、武装色と見聞色の覇気が使えるみたいだな」
「覇気? 何それ」
「知らずに使ってたのか。覇気っていうのは……」

 ヤソップに教えてもらった。成程、勉強になる。彼らは恐ろしく強い。それは海軍にいる時から知っていた。ここで強くなりたい。


 その日の夜、私は眠れなかった。甲板に出て夜風に当たっていたら、後ろから声を掛けられる。

「夜は冷えるから中に入れ」
「……あの場にシャンクスがいなかったら、私今頃どうしてたんだろ」

 彼は私の名を呼んだ。ひどく優しい声だった。

「泣きてェ時は泣いていいんだ」

 今は海の上にいるはずなのに、海面にいるように風景が滲んで見えた。

「お前は笑顔の方が似合ってる。大丈夫だ、お前なら乗り越えられる」

 手を引っ張られシャンクスで視界がいっぱいになった。抱き締められていると気づいたのは数秒後のこと。背中を撫でられて我慢していたものがプツンと切れる。

「エースを助けれなかった。私が弱いから。何も出来なかった。っ、シャングズゥ……、わだじ……これからどうすればいいのォ……。私には仲間もいないし居場所がない。ひとりぼっちで寂しいよ」

 潰れると思うほど力一杯抱き締められる。彼は片腕なのに身体を包まれている感覚だ。シャンクスの表情は見えないから何を思われているのか不安で更に涙が出てきた。

「おれが側にいる。不安になったらおれの元へ来い。掻き消してやる」
「シャンクス……」
「それにもうイリスはうちに入ったと思っていたんだが違うのか?」
「本当にいいの? 四皇だよ、赤髪海賊団だよ。私は元海軍で……」
「ああ、良い」
「でも、」
「お頭が良いって言ってんだ。他に誰の許可がいる」

 涙を拭いシャンクスの胸を押して声の主を確認すると、ベックマンがいた。

「お頭より頼りになる奴なんていねェだろ?」
「……ふっ、確かに」
「オイオイ、ベックの言うことはすぐに聞くのか?」
「うん。ベックは嘘つかないもん」
「まるでおれは嘘つきみたいじゃねェか」
「そんなこと言ってないよ」

 拗ねたような顔をするシャンクスを見て、ベックマンと笑い合った。そんな私達を見てシャンクスも呆れたように笑う。

「お前はこれからどうしたい」
「実は倒したい相手がいてさ」
「……黒ひげか」
「黒ひげも、かな。その前に一人いるんだ。そいつを倒したくて、もっと強くなりたい」

 彼らは相手を誰かは聞かずに、「怪我が治ったら修行をつけてやる」と言ってくれた。


********************


 私は数ヶ月間、赤髪海賊団にお世話になった。そして、船を降りるとシャンクスに伝えた。

「ありがとう。ここまで乗せてくれて」
「イリス……。行くのか」
「うん、やる事が残ってるんだ」
「おれ達とじゃダメなのか」
「赤髪海賊団に頼りたくない」
「手を貸して欲しいときは言え。お前はおれ達の仲間だ。あと絶対に……死ぬな」
「うん。ちゃんと戻ってくる」

 二年後に戻ると赤髪海賊団と約束し、私はある男を探す旅に出た。



 しかしそんな時に面倒事に巻き込まれた。


「こいつがどうなっても良いのか? あ?」
「人質をとるなんて最低だね、アンタら」

 偶々島で仲良くなった一般人が人質に取られ、海賊達に殴られ蹴られで袋叩きにあった。海賊の中には海兵がいて、私を知っているようだった。

「お前生意気なんだよ!」
「自分じゃ敵わないからって、海賊と手を組んで恥ずかしくないの? 仮にもアンタ海軍だよね」
「お前はガープ中将の孫の上に大将達に気に入られてたからな。海軍を抜けてくれて嬉しいよ。やっと手を出せる」
「ハハッ、ずっと片思いだったってわけだ」
「ふざけんじゃねェ!!」

 お腹に蹴りが入り、数秒間息が出来なかった。ホンゴウに診てもらった怪我が完治したのに、もうこんなに血だらけになるとは。

「海軍にお前はいらねェんだよ!!」
「っ、もう私は海軍じゃ……」
「いらねェのはテメェだ」

 突然海兵の男を煙が覆い、男は苦しみながら気を失った。海賊達が海兵を倒した男の名を口にする。

「スモーカー……」
「うちのが世話になったな」

 彼は次々に海賊達を倒し、人質も解放した。身体が痛くて地面に寝転んだままの私に彼は声を掛けた。

「イリス、息はあるな」
「……私って弱いなァ」
「お前は弱くねェよ」

 スモーカーさんは私を軽々しく持ち上げ、自身の背中に乗せた。真っ白なコートに血がつくのもお構いなしに。

「サボるには長すぎじゃねェか?」
「あはっ、サボってるって思われてたんですか」
「勝手にいなくなりやがって。お前の席はまだ残ってんぞ」

 海軍に戻るつもりはない。身体中が痛くて動けないのに彼の足は海軍支部に向かっている。

「さっきさ、うちのって」
「おい、話を変えるな」
「いつ私、スモーカーさんのになったんですかね」
「……おれは新世界に行く。一緒に来い」
「えー」
「不満か?」
「いいえ、むしろ……」

 彼の首に回していた腕にギュッと力を込めた。
 ロシーが死んだと聞かされて辛かった時に支えてくれた人。あの戦争がなければ私はまだ海兵で、きっと彼と一緒に新世界に行っただろう。

「そう言ってもらえてうれしいです」
「じゃあこのまま連れて帰っても問題はないな?」
「ーーでも、私、海軍を辞めます。幼馴染の一人も守れない弱い自分なんて嫌い。エースを……あんな良いやつを殺した海軍なんて大嫌い。こんなところにいたくない」
「イリス……」
「ある人と約束したんです。二年後にドフラミンゴを討つと。それまでに強くならないといけない」

 それに私が倒したい奴は他にもいる。エースを海軍に引き渡した、黒ひげという男。

「スモーカーさん、助けてくれてありがとうございました。私、行かなきゃ」

 足をバタバタさせると彼は下ろしてくれた。そしてポケットからハンカチを取り出し、血の流れていた私の額に押し当てた。

「おれはお前を海軍に連れ戻す」
「……また、会えると良いですね」

 きっと次に会う時は敵の立場になってしまうけど。それを知った時、彼はどんな顔をするのだろう。

 スモーカーさんとわかれ、この島で手に入れた情報を元に私は別の島に向かった。


********************


 やっと見つけた。久しぶりに見る長身の男。左足はどこにいったのか。

「まさかクザン大将も海軍を辞めるなんて。あ、"元"大将でしたね。失礼しました」
「おれも色々思うとこがあんのよ。ていうか何でここにおれがいるって分かったの」
「偶然ですよ。自意識過剰ですか」
「あっ、そう」

 クザンさんは気まずそうに私から目を逸らした。偶然なんて嘘。私はずっとこの人を探していた。
 私から離れようとする彼の腕を強く掴んだ。

「私はあの時、私を止めた貴方を許せなかった。でも、止めてくれなかったら自分が殺されていたかもしれない。エースを助けれるならそれでも良いって思ってたけど、大将達に敵わないのは明らかだったし挑む方向を変えてくれて結果的には良かったのかもしれないって思ってるんです」
「……あー、なんだ。えっとー……つまり?」
「半分は感謝してるって事ですよ」
「……そう」
「私はやるべき事があるんです。そのためには強くならなきゃいけない。なので元大将である貴方に修行をつけてもらいに来ました」

 クザンさんはかけていたサングラスを外して、目を見開いていた。こんな事言われるなんて思ってもみなかったのだろう。

「そりゃビックリな話だ。おれは君にとって恨む相手だろうよ」
「勿論半分は恨んでますよ。だから私に許してほしかったら私を強くして下さい」

 肩をすくめた彼は地面に腰を下ろしてどうしたものかと頭をかいていた。海風に吹かれて髪がなびく。近くでカモメが羽を休めているのに目がついた。

「知ってますか? カモメって自由を象徴する生き物なんですよ」
「へえ」

「やることが全部終わったら、カモメのように私も自由に飛び回ろうと思います。……仲間の元で」

 青い空に手を伸ばしながら言うと、カモメが空へ飛び立つ。クザンさんは驚いた顔をしたかと思えばすぐに口角を上げた。そして重そうな腰を上げて、修行をつけてやると言った。







 二年後、ドレスローザでイリスは幼馴染の一人であるサボが生きていたことを知り、メラメラの実を取り合い、ドフラミンゴに戦いを挑むこととなる。



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