赤い痕 7


 頭の片隅では、二人がそういう関係だと知っても、大切な友達だと思っていることは変わらないんだって伝えなければと思っていて、そのために、この場を上手く切り抜けるためのベストな言葉を必死で探しているのに。
 唇は、そのふたつを無視して勝手に言葉を紡いでいた。
「あ……のさ、その……、それって、北斗が?」
 ――って!
 なにわざわざ確認してんだよ俺!!
 いくら動揺しているからって、もうちょっと他にいくらでも言葉があるだろう。
 穴があったら入りたいとは正にこのこと。教室に穴はないからいっそこの場から逃げ出したい。もう帰りたい。来たばっかだけど今すぐ帰りたい。
 だけど、そんな俺の混乱をよそに、梓はあっけらかんとした声でこともなげにそれを肯定した。
「そーなんだよ! 望だってひどいと思うだろ?」
「いや……、その……」
 同意を求められても……正直困る。
「つけるんなら見えないところにしろっつってんのにいつもいつも……」
 こっちに振っておきながらも梓は俺の反応など完全無視で、ずいっと俺に詰め寄ると、ここぞとばかりに北斗に対する文句を言い始めた。
 まあ、文句というか……口調や態度は確かに北斗がしたことに対して不服があるような感じなんだけど、それが惚気にしか聞こえないのは俺の気のせいだろうか?
 おそらく北斗も、梓の言葉を真に受けてはいないのだろう。困ったように軽く溜め息を落として、今しがた締めてやったばかりのネクタイの剣先を手に取る。
「だから、ネクタイをすれば問題ないと言っている」
「俺がネクタイ嫌いって知ってるくせに、ひどい!」
「ひどくない。むしろお前のためにやっていることだ」
「〜〜〜っ!」
 梓が北斗の手を払いのけたついでに勢いつけて立ち上がり、またもや同じような言い争いに発展し始めたところで、梓が陣取っている俺の前の席のやつがドアから入ってくるのが見えた。
 ほぼ同時に予鈴が鳴る。
「まあ、話の続きは昼休み、だな」
 冷静にそう切り出したのは北斗だった。
「望も、いろいろ言いたいこと、あるだろうし――こっちも聞きたいこと、あるしね」
「?」
 その時は、含みのある北斗の言葉が気になったけど、授業を受けているうちに頭から消え去っていた。





 昼休み、いつものように三人で弁当を食べる。
 弁当箱の隅にブロッコリーを残したままで、梓が口を開いた。
「ところでさー、望にもついてるその痕。相手が誰か聞いても大丈夫?」
「うぐっ!」
 完全に予想外の質問。思わずごはんを喉に詰まらせそうになり、慌ててお茶で流し込む。
 バレてないと思ってたのに……!
 誰にも、なにも言われないから、ギリギリ隠れていると思ってたけど、どうやら梓にはしっかり見られていたらしい。北斗を見ると、無言の頷きが返ってきた。北斗にも気づかれていたということか。


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