愛なんて、ない、なんて 1 こんな関係になったのは、一体、何がきっかけで、どういう理由で、いつからだったのだろう。 どうしてかはわからない。でも、同じアパートの、同じ階の、隣の部屋の住人と、今日もセックスしている。ただ、それだけ。 「向こう向いて」 「ん……」 腰を掴んで促され、立ったまま、あまり厚みがあるとも思えない壁に手をつき、芳男に背中を向ける。 下半身だけを露出した、傍から見れば、なんとも情けない格好。 未だ足首に絡まるズボンと下着が邪魔で、苦労しながら左足だけをそこから抜く。 羞恥などというものは、繰り返される行為の中で、どこかに置き忘れてきてしまった。 「足、もっと開いて」 乞われるままに足を開く。芳男はすぐさま、熱く滾った昂りを、奥の奥まで捻じ込んできた。 「ッ、アァ――……ッッ!」 「相変わらずキツイなあ」 言葉にからかうような響きが含まれている気がして、かぁっと頬に血が集まる。 でも、俺がどう思っていようと、どう感じていようと、それを気にして芳男の行為が止むことはない。 肌蹴たシャツの前から忍び込んでくる指。案外細くしなやかなそれが肌を這い回り、やがて、小さいながらも懸命に存在を主張する胸の突起を捉えた。 「あっ、ああんっ、んんっ、はっ」 後ろから緩く突き上げられながら、胸の飾りをくりくりと弄られる。 どうして、とか、なんで、とか。難しいことを極力考えないようにして行為に没頭すれば、単純に「気持ちいい」という感覚が体を満たしてくれる。 律動が徐々に早くなる。奥深くへ打ちつけては、ぎりぎりまで引き抜く。過ぎる快感に、がくがくと膝が震える。思わず崩れ落ちそうになったところで、芳男が俺の左足を抱え上げた。 そうすることによって、更に奥まで入ってくるもの。浅ましいのは重々承知。それに感じてはひたすら身悶える。 「あっ、んあっ、あぁっ、はぁんっ」 「あー、すげー、イイ」 「んっ、アッ、あっ」 「なあ……、中、出していい?」 言い方は疑問形だけど、これは尋ねているわけじゃなくて、確認。 乱れた呼吸とともに、耳の後ろから投げかけられた言葉に胸の奥深くが、ずくん、と疼いた。 どうせダメだと言っても、そうするくせに。 「……ッ、好きに、しろよっ」 「あー、ヤベ……。もう出そう」 くちゅくちゅとしたいやらしい水音と、肌と肌とがぶつかり合う音。激しさを増す律動。荒い息遣い。 セックス特有の濃密な空気の中で、俺は解放の時を今か今かと待ちわびている自分の下腹部へと手を伸ばした。 右手でそっと握りこむ。たったそれだけの刺激で達してしまいそうになるのをぐっと堪える。と、その拍子に後ろまで締めてしまったらしい。 「っく……、締まる……っ、ヤベぇってそれ」 苦笑交じりにそう言いながらも、芳男は俺の手に手を添えてきた。 そのまま、律動に合わせて俺の手ごと扱かれる。先端から溢れた体液が、とろりと床に零れ落ちて、小さな水溜りを作った。 「んあっ、ああっ、ぁはっ、はっ」 「あー、マジヤバイ。もうイく、出るっ……!」 「あっ、ああっ、ああぁぁあっっ!!」 どくん、と内側で爆ぜる熱。小さく脈打ちながら数回にわたって精液を吐き出していた芳男のが、やがてずるり、と抜かれる。 達した後の敏感な体は、そんな刺激さえも快感へと変換した。 「んっ……」 「なーに感じてんの。エロいなー、お前」 「んんっ、違……」 終わりの合図、とでも言うように、ぺしっと俺の尻を軽く叩いて芳男が離れていく。 俺はそのまま、ずるずると壁に背を預けてへたり込んだ。 気だるい体。指一本でさえ動かすのが億劫だ。 床のいたるところに、俺のカウパーと精液が点在していたけれど、今は見ないフリをしていたい。 何気なく芳男に目をやると、芳男は下だけ衣服を纏い、青空を思わせるブルーのパッケージの中からタバコを一本取り出しているところだった。 [戻る] |