BREATHLESS 4 レンに音楽の道に進んでほしかったらしい両親が用意した十畳ほどのフローリング。グランドピアノを置いてもまだ幾分余裕のあるその部屋には、レンがこういう道に進んだ今となっては大きな姿見まで設置されていた。 恵まれた容姿に加えて、恵まれた環境。それを妬む気持ちがなかったわけじゃない。 だけど、そんなことだけ考えてたんじゃ、俺はいつまで経ってもレンに追いつけないだろう。 だから、妬むのではなく、言葉は悪いが利用させてもらう。 いつかレンに追いつき、並んで立つために。そしていつか同じ舞台で、同じようにスポットライトを浴びるために。 そうやって頭の片隅では野心的に考えてみるけど、本音はただレンと二人で練習することが、楽しくて仕方がなかったのだ。 事務所のレッスン室でトレーナーに直接指導してもらうよりも、レンと二人で練習するほうが難しい振りだって難なく覚えられたし、練習もはかどる気がした。 研修生の中には、レン以外にも仲の良いヤツはたくさんいる。でも、他の皆とはレッスン以外で会うことなんてないのに、レンとはこうしてお互いの家へ遊びに行ったり、休日には二人で街へ出掛けたりもした。 他の誰と一緒にいるよりも、レンと共に過ごす時間のほうが遥かに楽しく感じられたし、充実していた。 でもそれはきっと、学校の友達とは違う、言うなれば、「同じ夢を抱いた同志」――だから。 その括りで言えば他の研修生だって同じ位置にいるはずなのに、俺の中ではレンだけが特別だった。 気が合うから、一緒にいて楽しいし、嬉しい。本当はその感情が違う意味を持つことに、その時の俺はまだ幼すぎて気づけずにいた。 厳しいレッスンを重ね、先輩のバックで踊ることから初めて数年後、俺たち二人はついにCDデビューを勝ち取った。 CDの発売に合わせて雑誌で特集も組んでもらい、歌番組はもちろんのこと、それこそ分刻みのスケジュールで朝と昼の情報番組にも出演した。 その後も積極的にメディアに露出し、顔と名前を売ってきた。 その甲斐あってか、今日からいよいよ、初めてのコンサートツアー。 重ね着した衣装の上、最後に黒のロングコートを羽織ってから、控え室を出る。同じデザインの白いコートを手にしたレンが、言葉もないまま俺の隣に並んだ。 結局、最初に組まされたあの時からずっと、俺とレンは一緒だった。 [戻る] |