BREATHLESS 3


「すっごいムカついたー、って、思いっきり顔に出てたから」
「………」
「ごめん。俺はね、藤村蓮。レン、って呼んで」
 気さくな言葉と共に、すっと差し出された右手。外見だけじゃなく、名前の音の響きまでもが芸能人っぽい。
 どこもかしこも、コイツはこの世界に入るために生まれてきたのだと言っているようで、出所のわからない苛立ちに襲われる。
 それでも、礼儀として躊躇いがちに上げた右手を、すかさずレンが掴んだ。
「よろしく、龍之介」
 お前と違って、俺の名前は長いんだ。だから。
「……リュウでいい」
 ぶっきらぼうにそう返すと、レンは王子様然とした微笑を浮かべながら、握手する形に俺の右手を握りなおした。
「よろしく、リュウ」
「……よろしく」
 負けたくない。
 強い意思を込めてぎゅっと握り返した手のひら。それは、思いのほか大きくて、温かかった。





 最初こそレンに過剰な対抗意識を抱いていた俺だけど、何度も顔を合わせ、レッスンの合間に少しずつお互いのことを話していくうちに、同い年ということもありレンとの仲は急速に深まった。
 学区が違うから気づかなかったけれど、直線距離にすれば実家が意外と近いこともわかり、事務所に入って半年が経つ頃には、お互いの家を行き来するようにまでなっていた。
「なーレン、今日レンの家行っていい?」
「今日? いいけどなんで?」
「……明日のことで、ちょっと気になるところがあって……」
 明日は俺にとって、初めてのテレビ収録の日。新曲の発売に合わせて歌番組に出演する事務所の先輩グループのバックで、間奏の間だけ踊ることになっている。
 大勢の中の一人とはいえ――いや、大勢いるからこそ、失敗は許されない。だけど、振り付けで一箇所、何度練習しても、どうしてもタイミングが掴めずに上手くいかない部分があった。
 自分でも気にしていたほんのわずかなズレをトレーナーに指摘され、明日までに直してくるようにと言われたけれど、練習するにも、うちはマンションだし、あまり大きな物音を立てると階下の迷惑になる。その点レンの家なら戸建てで、しかもレン自身の部屋とは別にピアノの部屋があって、当然のことながら防音の効いているその部屋は、歌はもちろんのこと、ダンスの練習にもうってつけだった。

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