夏休み 8 なんとなく申し訳ない気分になり、自然と顔を俯けてしまう。動かない俺を見かねてか、アイツが「勇翔」と優しく俺を呼んだ。 「せっかく作ったんだから、冷めないうちに、食べて」 食事を促すよう言われて、ようやくスプーンに手を掛ける。 「うん……、いただきます」 端から一口すくって、口へ運ぶ。見た目を裏切らない味。塩加減もちょうどいいし、本当に美味しい。 そこからはもう、食べるのに夢中になった。 どれだけ飢えていたんだってくらい無心で食べ続けて、皿の中身を綺麗に平らげて、スープも飲み干して、空っぽの胃袋が満たされて、ようやく人心地ついた。 手を合わせて「ごちそうさまでした」と言うと、斜交いでアイツがにっこり笑って「お粗末さまでした」と言う。 そのやりとりが、なんだか照れくさい。 「なんか、でも、本当に、美味かった」 その照れをごまかすために、俺は喋った。 「俺、料理とか、学校の調理実習以外でしたことないし、全然できないから、本当、すごいと思う」 間をつなぐために、更に喋った。すると言葉の途中で、それまで笑顔だったアイツがすっと真顔になった。 「それで思い出した。勇翔、料理できないんだろう? 母さんいない間、ご飯はどうしてた?」 「……えっ?」 「土曜日からいないんだろう? 作り置きしていったとしても限度があるし、まさか……三食カップめんとか」 「違う! カップめんは夜だけで……あ」 まずい。 「つまり、毎晩カップめんだったと」 「……」 素直に頷くこともできずに黙ったままでいると、それを肯定ととったらしいアイツが深いため息を吐いた。 一気に空気が重くなる。 どうしてこうなってしまうんだろう。さっきから、余計なことを言ってはアイツを怒らせて雰囲気悪くして。それの繰り返し。 せっかくいい雰囲気だったのに。前みたいに普通に会話もできて、アイツの笑顔も見られたのに。 自分で自分が嫌になる。 答えない俺にしびれを切らしたのか、アイツが更なる質問を重ねてきた。 「朝は?」 「朝は……」 何てことない単語も、鋭く突き刺さる。 「朝は、なに?」 「……」 「勇翔」 さっきとは打って変わって低い声で名前を呼ばれて、俺は泣きたい気持ちになりながら、この数日間の食生活について喋った。 お金は置いていってくれたけど、料理の作り置きなんて一切なかったこと。 朝は時間があれば食べるけど、トースト一枚程度だったこと。時間がなくて抜くこともあったこと。 昼はファストフードかコンビニ弁当だったこと。 「……で、夜は毎晩カップめん」 「……うん……」 これ以上隠し続けることもできずに、小さく頷く。アイツは困ったように額に手を当て、大きく息を吐いた。 「原因はそれだな……」 「原因?」 「そんな食生活じゃ、具合も悪くなるよ。ましてや勇翔は成長期なんだし、栄養は、きちんと摂らないと」 [戻る] |