Law Birthday2014
明日はローの誕生日、という事を先日シャチたちから聞いたユリ。遠く離れた場所に住んでいるローの住所を知っているわけでもなく、そのお祝いのプレゼントを渡すことができない自分にユリは落ち込んだ。何とかお祝いの言葉を述べたいと思うユリだが、それをチャットに書き込んでいいのかもわからない。最近電話番号を交換したが、明日は月曜日。週初めの忙しい時に電話をかけるのも憚られる。どうしたものかと頭を悩ませるユリは、ふとあることを思いついた。




「キャプテン!お誕生日おめでとう!!今日はおれがキャプテンの好物いっぱい作るから楽しみにしててね!!」

早朝から開口一番にお祝いの言葉を述べるベポに、ローは苦笑した。そういえば今日は自分の誕生日だった。あまりそういうものに関心のないローは今日で自分は何歳になったのだろうかと一瞬本気で考える。

「おれからはキャプテンお気に入りの珈琲豆と新しいマグカップ」

ペンギンがさり気なく渡してきたのは、プレゼント用の包装紙に包まれた箱。丁寧にリボンまで巻いてあるそれは、恐らくペンギン本人が全て自分でやったのだろう。渡された箱に僅かに笑みを浮かべてあぁ、と呟けば、ペンギンも笑みを浮かべて頷いた。

「おれからはこれです!!ジャーン!!もふもふシロクマのぬいぐるみ!!!探すの結構大変だった……」

もふもふ率30%増量(当社比)と書かれたタグのついたぬいぐるみを誇らしげに抱えたシャチ。確かに好きではあるが、何故かシャチに渡されるのは釈然としない。これがベポなら素直に受け取れるのだろうが、シャチだと腹が立つ。

「ッチ……」

「舌打ち!?」

半ば奪われる形でぬいぐるみを渡すことに成功したシャチは、まぁ後からきっと機嫌も直るだろう勝手に思っていた。どうなるかは分からないが、一応伝えておいたのだから。きっと本人は誕生日なんて覚えてなくて、まさか祝ってもらえるだなんて思ってもいないのだろうけど。苦笑しながらローを見るシャチに、ローはますます機嫌を損ねた。




電話番号さえわかれば利用できるとあるツールに、ユリはそれを書き込んでいた。やはり仕事がいつ終わるかわからないローに電話をかけることを断念した結果だったが、これならばあまり迷惑にはならないだろう。スマホの小さな画面から必死に文章を打つユリ。文字制限があるため、いくつかに分けて書かれたそれは、順番に送信されていく。

“Happy Birthday to you”

“Happy Birthday to you”

“Happy Birthday dear Law”

“Happy Brithday to you”

“お誕生日おめでとうございます、ローさん”

“今年もあなたにとって素敵な1年でありますように”




仕事が終わり何気なくスマホを見たローは、見知らぬ通知が来ていることに気づく。チャットでもブログでもないそれは点滅しながらメッセージが届いていることを知らせていた。何かの勧誘だろうか。疑問に思いながら開いたローは、届いたメッセージを見た途端口の端を吊り上げて反射的にメッセージの送信相手に電話をかけた。数回のコール音の後、控えめな声が電話越しに聞こえる。柔らかく温かいその声は、まだ数える程しか聞いたことがないのに、どこか安心できるもので。

「ユリさん……」

『はい』

名前を呼べば素直に返事が返ってくる。それだけのことで心がこんなにも満たされる。なのにあれは反則だと思った。卑怯だ。

「できればユリさんの声で……聴きたい」

何を、と言わなくてもわかるだろう。案の定ユリは電話の向こうでもごもごと口ごもり、それから囁くような声で歌い始めた。

“Happy Birthday to you”

“Happy Birthday to you”

“Happy Birthday dear Law”

“Happy Brithday to you”

優しい音色に、思わず感嘆する。目を閉じて聴けば、まるで本人が耳元で歌ってくれているような錯覚さえ覚える。来年にはそうなればいいと、ローは心の中で呟いた。

『お誕生日おめでとうございます、ローさん』

歌い終わったユリは最後にそう付け足した。ローは短くあぁ、と返す。しかし、それは今朝方ペンギンたちに返したものよりもかなり柔らかく、甘い声で。

「ユリさん」

ほんの少しだけ、低い声で名前を呼んで、もし隣に居るなら思わずその耳朶に舌を這わせるようにしていそうな、そんな声で呼んで。

『っはい……』

恐らく真っ赤な顔をしているであろうユリの見たこともない表情を想像しながら、ローは心からの感謝を述べた。

「ありがとう」
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