名探偵 | ナノ
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▼ たったひとつの場所

配属当初からお世話になっている方がいる。女性という逆境が多い立場でありながら、嫌味を囁く周囲に臆する事なく正面切って啖呵をきるのは当たり前。その頭脳も身体能力も申し分ない。“多分降谷を女にしたらあの人みたいになるんじゃないか?”と他の上司から言われている、そんな人だ。

そんな彼女と久し振りに登庁した際、ばったり会った。最後に見た時と変わらない佇まいや顔付きに、こっそり安心感を覚える。

「零か、元気そうだな」
「香純さんも」
「今日の夜暇か?」
「ええ。特に予定はありませんが」
「呑むぞ」
「はい。‥‥‥はい?」

あ、と思った時には既に彼女は誰かに呼ばれ、駆け足で去って行くところだった。呼び止められるわけもなく。
まあ、昔からよくご飯に誘ってくれる人だった。だから何気無く出た一言だったのだろう。あまりに唐突で脈絡がないのが問題だっただけで。

夜、駐車場に止めてある愛車の元へ行けば腕を組んだ彼女が立っていた。香純さん、声をかければ閉じられていた目がゆっくりと開かれ、俺を写す。

「お待たせしてしまいましたか」
「構わん」
「どちらへ行けば?」
「道は教える。運転を頼んだ」
「分かりました」

右だ、左だ、そこを真っ直ぐ。
言われた通りに車を走らせたどり着いた場所は、まさかの彼女の自宅である。
こんな形で招待されるとは、とソワソワと緊張しながら彼女の背中を追った。



×××



「零、全然なってない。もう一度」

ガッと肩を掴まれて逃げ道はない。否、何度も脱出を試みたが力が強すぎて無理だった。
こんな所で彼女の強さは確認したくない。

覚悟を決めて、再び口を開く。

「‥‥あ、アムロ、いっきまーす」
「舐めてるのか?」
「そっくりそのまま返しますよ!?なんですかこの台詞は!まさかっ、この台詞を言わせる為に“安室透”の名前をくれたんですか!?」
「お前がフルヤレイならアムロトオルとなるのは世の理みたいなものだろう」
「意味が分かりませんけど!?」
「零の周りにいないのか?赤い彗星の異名を持つ、イケダアズナブルかシャアシュウイチという男は」
「どこの国の人ですか、そんな名前」
「もしくはキャスバルやダイクン的な名前もあり得るな」
「‥‥‥‥残念ながら、心当たりはありません」

“赤い”と“シュウイチ”からニット帽の男、“キャスバル”から糸目の大学院生が思い浮かんだが、慌てて頭の中から振り払う。彼女といられる貴重なこの時間に考えたくもないモノだ。

ほら、もう一度。言え。
黒目がゆらゆらと揺れている香純さんは一言で言うと酔っている。かくいう俺も大分気持ちが良くなっている状態ではあるが。ゴロゴロと転がる瓶に視線をやって、呑みすぎたなぁと現実逃避。車を運転するのだから申し訳ないが呑めない、と丁重に断っていたのに気が付いたらこうなっていた。まさか泊まらせてもらう訳にはいかないので代行を呼ぶか‥なんて考えたが、この様子では朝まで離してもらえなさそうだ。
でもまあ、それも悪くないと思えてしまう。

この人の隣がいけないんだ。こんなに安心感を与えてくれる場所はそうに無いから。

「どうした、零」
「いいえ?ただ、まあ‥‥貴女の側は気が抜けてしょうがないと反省していました」
「反省なぞしなくていいさ。零は気を張り過ぎなんだよ」

ひとつくらい、そんな場所があっていいんだ。
初めて見るような顔で微笑んだ香純さんを見て、一瞬、世界が止まったような気がした。
ゆるゆると俺の頭を往復する細い手が酷く優しくて、なんだか落ち着かない。

「香純さん‥‥」
「なんだ」
「貴女は何時も、その時一番欲しい言葉をかけてくれますね」
「そうか?タイミングがいいんだな」
「‥‥ええ。絶妙です」

今の俺はほろ酔い状態。彼女も同じ。
そして彼女から許しも出た。

今だけ、この時だけ、貴女の前でだけ、

頬を伝う暖かさを彼女の肩に押し付ける。普通は立場が逆だとは思うが、優しく頭を抱き込まれてしまえば、もう。

後は感情に身をまかせるだけだ。







(XX年後、組織が壊滅した日常で)


「そこのFBIの君!」
「俺のことか?」
「‥‥っやはりその声!まさかイケダアズナブルくんか?」
「‥‥いいや、赤井秀一という」
「そうきたか‥‥!」
「ちょっ、香純さん!頭を抱えてどうしたんですか!?」
「零、大変だ‥‥まさか“赤い彗星”の方からもってくるとは‥‥」
「香純さん!?っ赤井、貴様!香純さんに何をした!!」
「誤解だ降谷くん。俺は名乗っただけだ」

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