名探偵 | ナノ
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▼ 頼むから黙っててくれ

陶器のような肌。グレイアッシュの髪。海色の瞳。ふっくらとした唇は桜色。ぴくりとも動かない表情も相成って、それはまるでビスクドールのようだ。

ライは助手席に座る今回の任務の相棒、キルシュを横目で見た。これで髪が長かったら完全に女だな、と本人には絶対に言えない一言を思い浮かべてアクセルを踏む。

「おい。今変なこと考えたろ」
「‥‥‥いいや?」
「チッ。嘘こいてんじゃねぇよ。さっきのオヤジといい、ウザいし臭ェ。この世はクソしかいねぇのか」
「その言葉遣い、やめろと言っているだろう」
「お前に従う義理はねぇ」
「‥‥‥はぁ」

キルシュ。彼は美しい見た目に反して、その口から吐き出される言葉は途轍もなく汚かった。まあ、こんな環境にいたらそうなるのも分からなくもないが、悪い方向に第一印象がガラガラと崩れていくのはそういい気はしないというものだ。

普段よりも荒々しい彼の様子は全て任務のせいだ。その容姿から組織から言い渡される任務内容は専らハニートラップで、さらにいうとターゲットは男ときている。本人も自らの能力を最大限に使えるのはハニートラップだと理解しているようだが、この様子では納得はしていないと言えるだろう。
今回もシャツのボタンを千切らんばかりに膨らんだ身体を揺らす男がターゲットだった。芋虫のようなゴロゴロとした指がキルシュの肌を撫で付けるのをスコープ越しに見て、合図の後に弾丸を撃ち込んだ。
もしも自分がそんな男を相手にしろと言われたらと思うと寒気がする。キルシュは毒を吐きながらも良くやっていると思う。

「‥‥‥い、おい!」
「すまん。考え事をしていた」
「俺の言葉にはすぐ答えろって言っただろうが」
「すまない。なんだ?」
「酒買ってこい」
「‥‥またか?」
「うるせぇ。この先に酒屋あるだろ」
「お前は一度に呑む量が多すぎるんだ。それにさっきもターゲットと呑んでいたじゃないか」
「薬入りの酒は酒と言わねぇ」
「薬?身体は大丈夫なのか」
「散々飲んできたんだ。嫌でも耐性ついたわ」
「‥‥‥3本だけだぞ」
「5だ」
「3本」
「4」
「3」
「チッ!わぁーったよ!クソライ!」
「奢ってやるのにクソはないだろう」
「うっせぇ!」

ツン、とそっぽを向いたキルシュ。その行動だけ見れば可愛らしいというのに。はぁ、と溜息交じりにキルシュを見れば、音声規制がされるようなスラングが飛んできた。

ああ。本当に、その容姿から吐き出される言葉とは信じたくない。頼むから黙っててくれ。

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