▼ 酒と炬燵と愛しい人と、
オレの前にいるのは泣く子も黙るアルカディア号のクルー達だ。
だかしかし、今コレを見た人は言うだろう。
「これがアルカディア号の乗組員?お前、もっと面白い冗談言えよー」
「信じられねぇなぁー!こんなただの飲んだくれ、家の父ちゃんと一緒だよ」
と。
そう、“飲んだくれ”だ。
元からこの船の人達は皆酒は好きだし、ベロンベロンになるなで飲むのは珍しくはない。
しかし今日はうちが誇る戦闘指揮官も副艦長も更にはあの艦長でさえも酔いつぶれている。
生き残って(素面で)いるのはオレだけとなってしまった。
さて、どうしてこんな事になってしまったのかと言うと、それは2時間程前に遡る────
×××
艦内を点検中、何時もはごろごろと通路に寝そべっている人達がいないことを不思議に思いながら歩いていると、ふいに後ろから人の気配を感じて振り返った。するとそこにはアルカディア号唯一の女性戦闘の姿が。
「やっと見つけたわ、ミナト!」
「んぁー?ケイ、どうした‥‥その装備‥‥」
にっこりと笑ってオレを呼び止めたケイが両手に酒瓶を持って立っていた。よくミーメを筆頭にクルーたちと飲んでいるのを見ていたが両手両脇にがっつりと酒瓶を持っている姿はなんともまあ、凛々しいことで。
「キャプテンとトチローさんがね、今日が地球では“オショーガツ”をする日だって!だから私達も“オショーガツ”をしましょうかってことになったの。ミナトも行きましょう、皆待ってるわ」
もちろんキャプテンもね、といたずらっ子のように笑って付け加えたケイにやられた、と思った。キャプテンやトチローさんの名前が出たらオレが必ず折れることはクルーなら誰でも知っているし、キャプテンとの関係も知られてしまっている。
オレは溜め息をついてから首を縦に動かした。
×××
「おー!やっときたかミナトー!」
「こっちこいよー!飲み比べといこうぜ!」
「‥‥‥あんたら‥‥もうできあがってやがるな‥‥」
酒くっせーよ!と絡んでくる奴らを避けながらケイと2人である場所を目指す。
ある場所、キャプテンの元へと。
「おー、ミナト!ハーロックがお待ちかねだぞー」
「揶揄うなトチロー‥‥ミナト早く座れ、酒が無くなるぞ」
トチローさんの横で酒を瓶からラッパ飲みをしているミーメをちらりと見ながら声をかけてきたキャプテンに笑い返して、何故か用意されていた炬燵に入った。
キャプテンは炬燵に入らず、最近のお気に入りの椅子に座って静かにグラスを傾けていて、トチローさんに「ミナトの隣じゃなくていいのかー?」とからかわれてむすっとした顔になった。何あれ可愛い。
そんなオレとキャプテンをニヤニヤと笑いながら見てくるトチローさんとケイにごほんっ、と咳をしてキャプテンから受け取った酒に口を付けた。
「‥‥ぷはっ、この酒随分強いですね」
「当たり前さ、なんてったってオレの秘蔵の酒だからなぁ!この時の為にハーロックにも内緒で大事にとってあったんだ!」
随分と気持ちが良さそうなトチローさんはもうすでにかなりの量を飲んでいるようで。ケイとミーメ、トチローさんの3人でわいわいと飲み始めたのをきっかけにオレとキャプテンはグラスをかち合わせた。
×××
そして現在。
あれからキャプテンがクルー達と飲み比べをしたり、オレが酔っ払ったクルーに酒瓶を押し付けられて酒で溺れそうになったりとあれよあれよというまにオレ以外の全員が潰れるという事態になった。
因みに、アルコールを主食としている酒豪ミーメ様は別の場所で飲むと数本の酒瓶と共に部屋から出て行ってしまっている。オレ1人にこいつらの片付けをさせる気かあの人‥‥。
「あー‥‥ほら、お前ら起きろー?部屋までは自分の足で歩いていけよぉー」
片付けかぁ、とせっかくのアルコールで気分が良かったのに一気に重くなった気持ちを押し込みながら炬燵から出ようとした。が、それは何者かによって妨げられた。
「おい、どこへいくミナト‥‥」
「キャ、キャプテン」
つい先程まで椅子に座っていたキャプテンが炬燵のオレの所まで移動してきていて、オレの服を掴んでこちらを見上げてきていたのだ。しかも酔っているので潤んだ瞳と紅潮した頬というオプション付だ。
え、何これ、なんという俺得?
「片付けをしようと思ってですね‥‥って聞いてます?」
「そうか、そうか‥‥」
「キャプテン、大丈夫ですか?今水持ってきますから、っとと」
水をとってこようとするも更に強く服を引かれてよろけてしまった。思わずキャプテンにしがみついて体勢を保つ。何時ものキャプテンならこんな時絶対にオレを誘ってくるような事を言ってくるが、今日は反応が違った。
「‥‥ん、ミナト‥‥」
オレにきゅっとくっついてきたのだ!
ぐわぁぁああぁあオレの天国はここにあった!
嬉しいのと驚きで固まっていると、ふるりとキャプテンの身体が震えた。恐らく先程の飲み比べの際にマントを脱いでいたので、今になって寒くなってきたのだろう。暖めてやろうとオレはキャプテンを抱えて炬燵に入り直した。
するとキャプテンは暖かくなって身体の力が抜けたのかオレの胸にもたれかかってきた。
「ミナト‥‥」
ふにゃ、と笑って見上げてくるキャプテンの破壊力といったら。
もう片付けは明日でいいや、と炬燵とオレの間に収まる愛しい人を後ろから抱き締めた。
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