企画 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 共に並んで歩く日々

生徒会活動とは、なかなかにハードなものだ。
書類整理や学校全体の活動計画、部費や備品設備というような部活動の取り纏め、教師のパシリ‥‥などなど。とても決して数の多くない生徒会役員が担うには、かなり重い仕事量になっている。活動が活発ではない部活動に所属している役員はいいが、激しい運動部に入っている場合はもっと大変だ。そして、学業も疎かにしてはいけない。ましてや生徒のお手本となる生徒会役員は、優秀な成績をキープし続けなくてはならないという暗黙の了解もあったりする。
学校行事の時は特にげっそりと疲労を漂わせることになるので、ブラック企業ならぬブラック委員会とも呼べるだろう。

しかし、そんな多忙な彼らも十代の学生なのだ。時には何もかもを忘れて、遊びほうけたいという願望を持っている。

その願いが叶うのは長期休暇の他に、年に数回ある日。
テスト週間、最終日の放課後であった。



×××



「よし、行くぞ!アイン、ナマエ!」
「はい!」
「今日の目的地はどちらですか?」

意気揚々と前を歩く副会長に問いかければ、待ってましたと言わんばかりの笑みが返ってきた。

「駄菓子屋だ!」
「あのショッピングモール内にある‥‥」
「おお、やはり知っていたか。あそこには大きなゲームセンターもあるからな!今日はとことん遊ぶとしよう」
「ボードウィン先輩は、駄菓子がお好きなのですか?」
「駄菓子も好きだが、ああいう昔ながらというようなものが結構好きなんだ」

幼少期からそういうものに触れてこなかったからだろうか、と少ししんみりと呟いた彼は、次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていた。やはり裕福な家庭にはその家庭ならではの悩みがあるということなのだろうか。

「疲れた時には甘いものといいますし、丁度良いですね」

前よりも差は小さくなったものの、やはり高い位置にある顔を見上げて言えばくしゃくしゃと頭を撫でられた。多くなったスキンシップを素直に嬉しいと思いつつ、それを隠すために顔をそらす。今の私は感情が表に出やすいので少々気恥しいのだ。

それからは「俺は形から入るのだ!」と得意げにがま口財布とその中に入った大量の小銭を見せる副会長と、そんな彼のひとつひとつに「流石ボードウィン先輩です!」と反応するアインを見守って、(形から入るという副会長の“昔ながら”が、がま口と小銭という点や、アインの言う“流石”がどのように流石なのかは突っ込んだら負けである。)時折相槌を打ちながら、嘘のように平和な空間を噛みしめる。

「む、ちゃんと聞いているか?ナマエ」
「聞いていますよ。沢山の駄菓子を買う場合、お札の方が店員の方に優しいのではないかと考えていただけです」
「‥‥‥‥ッ!?」
「(ボードウィン先輩が“その発想はなかった”というお顔をしておられる‥‥)」



×××



やはり大量に買い物かごに入れられた駄菓子は、小銭会計だと支払われる側だけでなく支払う側にもそれなりの負担があるということを理解した副会長。出発当初のテンションはどこへやら、肩を落として何時もの財布からお札を出して会計を済ませた彼の姿を詳細に伝えることはやめておく。
かわりに、私やアインの分の駄菓子を奢ってくださった、という先輩らしい振る舞いを見せてくれた話を詳しく‥‥と思ったがそれもやめておこう。

所変わって、私たちは今アミューズメント施設、俗に言うゲームセンターに来ている。
三試合目に突入したエアホッケー対決の真っ最中だ。これまで副会長とアインが一勝一敗ずつ。この試合で勝敗が決まる。私はホッケー台のすぐ横にあったイスで、荷物番を兼ねた観戦者である。副会長対アインと私、という形で勝負しようと誘って下さったのだが、すぐにスカートで動くのは危険だと言って、誘った本人が却下したという話は余談である。(アインも激しく同意していた。下に履いているので構わないと言ったのに‥‥)

「申し訳ありません先輩!これで決めます!」
「甘いぞアイン!左がガラ空きだ!」
「っ、そんな!」

カコン!と小気味いい音がして、アインの陣地のゴールにパックが吸い込まれた。激しいラリーを制したのは副会長だ。機械から賑やかな音楽が流れて、副会長の勝利を讃える。
晴れやかな顔の副会長と少し悔しそうだが満足げなアインを見上げて、お疲れ様ですと声を掛けた。

「最後、パックがマレットには当たっていた。素晴らしい反応速度だったぞ、アイン」
「きょ、恐縮です。ありがとうございます!」
「うむ!本当にいい戦いだった。またやろうな」
「もちろんです!宜しくお願いします」

そんな今の二人の姿がふと、前の姿に重なって見えた。会話の内容がMSのシミュレーターを匂わすものだったからだ。
込み上げてきたものが抑えきれなくなって、思わず足を止めた。

先を歩く、二人の背中が離れていく。

「‥‥ぁっ」

待って、と情けない声が出る前にアインが振り返った。

「ナナシノ先輩?」
「あ‥‥え、と、」
「ナマエ、どうした」
「いえ‥‥すみません」

なんでもありません、と俯いた私。
すると、足元に落ちていた視界にすっと大きな手が現れた。

「何でもないわけが、ないだろう」

大きくて暖かい手が、私の小さくて冷たい手を握って引っ張った。
それに伴って私の足が一歩、前に出る。

「いくぞ」

副会長に手を引かれて隣に並んだ私を、眉を下げたアインが待っていてくれた。そんな私達の頭をわしゃわしゃと撫でつけた副会長が、にっかりと笑う。

「一緒に、いくぞ」

歩き出した副会長の背中をアインと目を合わせてから追いかける。彼を挟むようにして並んだ。

「そうだなぁ‥‥次は三人でできるものにしよう」

きょろりとあたりを見回した彼はある一点で視線を固定すると、私たちを引き連れてそこへ向かう。その先にあったのは大きな四角い箱。大半が女性という空間をものともせず空いている箱を探す大柄な男子高校生は、とても目立った。容姿が良いからなおさらだ。

「プリクラ、ですか」
「三人で写真を撮ったことはないからな!‥‥ナマエ、お前、華の女子高生だろう。俺はよく分からんからな、操作は任せたぞ」
「そう言われましても、私もわかりません」
「じ、自分も‥初めてなので‥‥」
「‥‥まあ、なんとかなるか‥‥」

恐る恐る、三人で暖簾をくぐる様にして中へ入る。機械の声に先導されるがまま撮影を終えた。三人で頭をひねりながら落書きなるものを済ませて、印刷されて出てきた写真を切り分けた。

小さな写真の中の私達は、何のしがらみのない、ただの学生で。

───幸せだなあ。

つるつるとしたその表面を指でなぞる。
溢れる愛おしさに目を閉じれば、静かに微笑んでいる白衣を着た前の私が見えた気がした。



ーーーーーーーー

なるせ様より、『生徒会の一日』でした!

女医とアイン・ガエリオの組み合わせが好き、と言っていてだけて狂喜乱舞です!!
今回のお話は当初は学校生活を、と思っていたのですが、いつのまにやら彼らが学生として、一人のただの人間として“現在”を楽しんでいる姿を描くことになっていました。
Afterの話として、満足するものができたと思います。

お持ち帰りはなるせ様のみです!
この度は企画参加ありがとうございました!


prev / next

[ back to top ]