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▼ 心を叫べ

キラキラと輝く飾りに食事。これでもかというほど着飾った女の人たち。
アルミリアとマクギリスの婚約パーティーはたくさんのキラキラで溢れてる。

マクギリスとアルミリアの兄であるガエリオの周りは、他の場所よりも一層その輝きが増している。それは本人たちの容姿もそうであるし、二人に群がる女の人たちの影響もあるだろう。
マクギリスは涼しい顔で相手をしているが‥‥ガエリオといったら。満更でもないように、なにやらニヤニヤと締まりのない顔を晒している。

ああ。確かに今貴方の腕に押し付けられている、ばっくりと開いたドレスから惜しげも無く見えている膨よかなそれは、女の私から見ても羨ましいと思うくらいのものだし。アップにされた髪の毛も、それで見えるうなじも、程よい色気が醸し出されているし。

はぁ、と溜息を吐いて視線を外す。
すると、パタパタと足音がしたのでそちらに目を向ければ、今夜の主役が笑顔で駆け寄ってきていた。

「ナマエお姉様!来て下さったのですね!」
「‥‥アルミリア!勿論じゃない、貴女のおめでたいパーティーなのよ」

えへへ、と頬を桃色に染めて恥じらうアルミリア。ああ、この子は本当に可愛らしいんだから。

「‥‥あら?ナマエお姉様はドレスじゃないのですね」
「‥‥‥‥やっぱり目立つかしら」

自分の身体へ視線を落とすと、そこにあるのは代わり映えのしないギャラルホルンの制服だ。ギリギリまで仕事をしていたおかげで着飾る時間などなかったのだ。それに、どうせこのパーティーが終わればマクギリスの代わりに仕事をする事になっているので、着替えるのが面倒臭かったというのも一つであるが。

しかし、いざ会場に来てみれば女の人はみんなドレスだし。制服を着ているのはマクギリスとガエリオ、それに私の三人だ。男の二人はともかく、女の私はやはり悪目立ちをしているような。そうでないような。

「ナマエお姉様はお仕事が忙しいんだもの、仕方ないです。それに、私、お姉様の制服姿はとても凛々しくて好きです!」
「アルミリア‥‥貴女、本当に良い子ね」

大好き!と屈んで目線を合わせ、小さな手を握る。はにかむアルミリアにたっぷり癒されていると‥‥ああ、ストレス源の声が背後から。

「ナマエ!なんだ、お前その格好できたのか?」
「やあ、来てくれて有難う。ナマエ」
「マッキー!」
「‥‥ガエリオ」

飛び付いたアルミリアを抱え上げて、フッとマクギリスが笑んだ。隣のガエリオは‥‥うん、アルミリアのお陰で忘れかけたことを掘り返さないでくれるかな。
あえてガエリオを無視して、改めて今回の主役の二人に挨拶をする。

「幼馴染と妹みたいな可愛い子の婚約パーティーだからね。何が何でも参加するよ!‥‥二人共本当におめでとう。マクギリス、アルミリアに悲しい思いをさせたら私が許さないからね!」
「元よりそのつもりだ」
「ありがとうお姉様!私、マッキーと並んでも恥ずかしくないような、立派なレディになるの!」
「うんうん!アルミリアなら絶対なれる!毎日花嫁修行頑張ってるもんね」

先程からフレームインしてくる紫色の幼馴染は無視、無視。

「じゃあ申し訳ないんだけど‥‥私はこれで」
「お仕事ですか?」
「‥‥うん。ごめんね、アルミリア」
「いいえ!無理はしないで下さいね」
「悪いな、頼んだよ」
「二人共ありがとう、じゃあまたね」
「最後まで俺は無視か!?」
「私を揶揄ってる暇があるなら、綺麗な女性達と一緒にいる方が有意義よ。ねぇ?ガエリオお坊ちゃん?」

今度こそじゃあね、と背を向けた。
そっと盗み見ると、私に何か言いかけたガエリオはあっという間に女の人たちに囲まれている。マクギリスとアルミリアは、テラスの方へ向かって歩いている姿が確認できた。

ほら、やっぱり。
軍の制服を着た私より、キラキラした女の人の方が貴方には似合ってる。



×××



「お嬢様、とってもお似合いですわ!」
「スタイルが宜しいのに、何時も軍服ばかりお召しになられて‥‥っ」
「私たちメイドは常日頃から、お嬢様にドレスを着て頂きたいと思っておりましたのよ!」
「はぁ‥‥本当に美しい‥‥!」

はしゃぐメイドたちに褒めちぎられて、恥ずかしいやら嬉しいやら。

ドレスを纏って、セットされた髪。
首や指にはワンポイントの宝石。
決して派手ではないが映える化粧。

鏡に映る今の自分は普段からでは考えられないくらいキラキラしている。

くるりと回ればフワフワとドレスの裾が舞う。久し振りに着るドレスに心が踊っているんだろう、先程から頬がほんのりと染まっている。

今日は、私の成人記念パーティーだ。

招待客は父の仕事関係の人から私たち家族の親戚や親しい間柄の人たち。その中にはもちろんガエリオもいる。
今の私は、彼の隣に立っても良いだろうか。

本当に嬉しそうなメイドたちに見送られ、私は早速パーティー会場へ向かった。



‥‥は、いいが。
パーティーの主役として次から次へと声を掛けてくれる来客者たちと挨拶をして、軽く食事をする。それに加え、予想以上の人口密度にバテてしまった。
年配の方々や友人等は私を祝うために来てくれたことが分かったが、父の仕事関係の人が連れて来た娘たちは明らかに目的が違う。きっとそれも疲れる原因の一つだ。親戚の兄さんに群がる彼女たちの姿を見て、疲れない方がおかしいんじゃないだろうか。決して私が貧弱だとかそういうわけではない。

小さく見つからないように溜息を吐いて、夜の風にでも当たろうかと人の輪から抜け出た。まだガエリオたちは来ていない。こんなやつれた姿を見せたくないという思いもあった。

バルコニーに出ると、ゆるゆるとした風が私を迎えてくれた。

目を閉じて、もう一度息を吐く。
目を開いて、ぽかりと浮かんだ月を見上げた。

金色でまんまる、静かだが優しげなその姿は、どこかマクギリスを連想させる。
婚約パーティーの時の彼は珍しく素直に感情を前に出していた。昔から表現が乏しかった彼のそんな姿を思い出して、好きな人と結ばれるということはやはり良いものだと独り言ちる。‥‥今回のパーティーは私、ナマエ・ナナシノのお披露目会でもある。のらりくらりと今まで結婚から逃げてきた私も、もう成人。さすがに心配した両親が気を利かせてくれたという訳なのだけれども‥‥そろそろ私も覚悟を決めなくてはならない時が来たようだ。好きな人以外と結ばれる覚悟を。
マクギリスとアルミリアのような政略結婚はこの世界では当たり前だけれども、あんな風に二人ともが幸せである場合は少なくなる。私も昔はあの二人のような結婚ができると夢を見ていたものだけど、それが無理だと理解してから、そしてガエリオへの特別な気持ちに気が付いてから、あっという間に時間が経ち、ついに成人を迎えてしまったという訳だ。

よく知りもしない人と結婚して、家庭をつくる。その頃にはきっと、ガエリオも綺麗な奥さんを貰っているんだろうな。彼の婚約パーティーに笑顔で出席できる自信がない。

何も知らずに、ただガエリオを好きでいるだけで幸せだった子供の頃に帰りたい。
声に出すことも叶わない、どうしようもないこの願いを溜息と一緒に夜の闇の中に吐き出した。
その時、

「‥‥ナマエ?」

驚きが含まれた貴方の声に振り返った。



×××



俺には幼馴染が三人いる。
一人は勝気で男勝り、しかし乙女な部分も持ち合わせたまっすぐな女。
もう一人は冷静沈着・眉黙秀麗・文武両道‥‥そんな四字熟語がつらつらと並ぶような男。ついでに妹の夫になる男。俺の弟になる男。
最後の一人は雛のようにピヨピヨと俺の後についてきた、年下の妹のような女。

いつだって一緒だった俺たちは、ぼんやりとだが互いのことは解っていた。
カルタがマクギリスに特別な感情を向けていることも、マクギリスが俺たちにも明かさずにどこか遠くを見ていることも、ナマエが俺に特別な感情を向けていることも。

子供の頃から何に関してもマクギリスに敵うことができなかった俺は、マクギリスではなく自分だけに向けられたナマエの感情に優越感を抱いた。
俺がちょっかいを出せばそれに対して一喜一憂するナマエを見ているのが楽しくて、振り返ってみれば結構酷いことをしてきたと思う。しかし、それでも変わらずに俺を見てくれるナマエに甘えて今日まで来てしまっていた。
この間の妹たちの婚約パーティーの時も、密着してくる女性をそのままにして、遠くから俺を見ているナマエの様子を観察していた。やはり俺に向ける感情は変化していないようで、それに酷く安心した。優越感を感じるためにちょっかいを出していたのに、いつの間にかナマエの気持ちを確認するために子供のようなことをするようになっていた。

自分の中のナマエへの変化を認めもせず、こうして揶揄うことしかできない俺は本当に子供だと思う。我ながら情けない。
今夜招待されたパーティーでもきっとしょうもないことを言ってしまうのだろうな、なんて自虐しながら会場へ向かった。

少し出遅れてしまった会場で主役を探していた時、仄暗いバルコニーにそれらしい後姿を見つけた。こんなところで何をしているんだ、と何時ものように声をかけようとして、しかしそれはかなわなかった。

月明かりに照らされる美しく着飾ったナマエに、一瞬呼吸を忘れた。
普段年下の女だと見ていた彼女の、ぼんやりと憂いを帯びたオンナの表情。

「‥‥ナマエ?」

思わず出た声は信じられない程情けないものだった。
その声に振り返ったナマエは俺の姿を捉えると、ふうわりと笑う。

来てくれた、と紡いだ彼女の瞳が寂しげに叫んでいる。
俺を好きだと、叫んでいる。

俺の中で何かが弾けた。
きっと今夜は、今までごまかしてきた気持ちを素直に伝えることができる。

「ナマエ、」

俺叫びを聞いてくれ。
お前の叫びを、直接俺に聞かせてくれ。



ーーーーーーーー

凛様より、『嫉妬する女主を揶揄うガエリオと甘い雰囲気に』でした!

ガエリオは本当に好きな人に対しては小学生男子並みになるのではないかという勝手な妄想によって出来上がりました(笑)。

お持ち帰りは凛様のみです!
この度は企画参加ありがとうございました!


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