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▼ 仲間になったキミは

三日月、三日月、と俺を呼ぶ声がする。
振り返ればやはり、君がいた。
ナマエ、とその名を呼べば、君はほっと表情を緩めるのだ。



×××



CGS唯一だった女、ナマエ・ナナシノは、社長マルバの“専用給仕”だった。所謂、そういうことをするためだけに彼に買われた奴隷だ。
滅多に部屋から出ることのできないナマエとCGS三番隊は決して交流が多くあったわけではないが、CGSもとい鉄華団の団長であるオルガ・イツカはその手を差し伸べた。その手を取った彼女は、仲間ということだ。

仲間と敵。
そんな単純な二つの世界観を持つ三日月・オーガスにとって、ナマエは新しく加わった仲間という、ただそれだけの認識“だった”。

鉄華団に入ったナマエは、文字通り何もできなかった。
物心が付いた時から“ご機嫌取り”だけをやらされてきた彼女にとって、主人の部屋の外は未知の世界だったのだ。
勿論機械の操作方法も知らないし、文字を読むこともできない。(鉄華団の殆どは読み書きができないので、そこは同等だ)
そんな彼女は専らアトラやクーデリアの後を付いて二人の手伝いをしていたのだが、それに次いで共にする時間が多いのは三日月だった。他の団員はやけに距離が近かったり、声が大きかったりでナマエはそれが苦手だった。だから、口数が少ない三日月の隣が心地よかったのだ。辿々しく紡ぐ言葉を綺麗な空色の瞳で受け入れてくれる三日月が、ナマエは好きになった。
一方三日月も、必死に後を付いてくるナマエに悪い気はせず、真剣に物事を覚えようとする姿を好意的に思っている。そして、彼女の無邪気ながらもどこか儚げな雰囲気に惹かれていたのもまた事実だった。

雇い主であるクーデリア・藍那・バーンスタインを地球に送り届けるために、鉄華団が忙しなく動き回り準備を進める、そんな日常。
自身の作業を終えた三日月は、ナマエの姿を探して食堂へ向かっていた。この時間帯は昼食を作るアトラの手伝いをしているはずだからだ。
食堂に着くと、対面式の厨房でせっせと支度をするアトラとすぐに目が合った。

「あ、三日月。午前の仕事が終わったの?」
「うん。今日もここにいるの?」
「そうだよ!ねぇ三日月、ちょっとこっちに来て見てみてよ」
「‥‥?」

ぱんぱん、と軽く上着の汚れを払ってからそっと厨房の中覗く。
にこにこと笑むアトラの指の先では、必死な顔をして包丁を使うナマエがいた。どうやら芋の皮を剥いている様だ。

「何時もお皿の用意とかを手伝ってもらってたんだけど、ナマエさん、できることを増やしたいって言ってね」
「‥‥ふーん」

こそこそと顔を近づけ、二人でその様子を見守っていると、最後の剥き終わった芋をボウルへ積み重ねた名前が顔を上げた。

「アトラ、できた‥‥っ三日月!」
「ん」
「お疲れ様ですナマエさん。‥‥‥あ、すごく上手ですよ!とっても綺麗に剥けてます」
「えへへ‥‥よかった。次はもっと早くできるようにがんばるね」
「たくさん練習しましょうね!」

にこにこと楽しそうな二人をぼんやりと見やって、三日月はそっと厨房を出る。
今日の昼食が楽しみだ。
ほんの少し頬を緩めると、口に運びかけていた火星ヤシをポケットの中に戻した。



×××



陽の光とバルバトスの温度も相成って、他より暖かい格納庫。そこでは三日月とナマエが二人寄り添って、ころりと横になっていた。一仕事終えて昼食をとったおかげで、二人の瞳はとろとろと緩んでいる。
特にナマエは慣れない包丁を使って神経を使ったせいか、普段よりも強い眠気が訪れていた。

「ご飯、美味しかったよ」
「アトラが作ったんだもん。美味しいよ」
「それはそうなんだけど。ナマエがやってたやつ、ちょうどいい大きさだった」
「ん‥‥よかった。これから料理もっとできるようになりたい」
「ナマエならできるよ」
「‥‥‥ありがと、三日月」
「うん」

こてん、と三日月が伸ばした腕に頭を預けたナマエが緩く笑った。三日月もそれに笑みを返すと、ナマエの頭にその大きな手を乗せて優しく動かした。

「もうだめ‥‥寝ちゃう‥‥」
「寝ればいいじゃん。俺も眠いし」
「でも午後のお仕事‥‥」
「大丈夫でしょ、オルガが起こしに来てくれるよ」

そうだね‥‥、と尻すぼみになった言葉を最後にナマエはすぅっと眠りに落ちた。
三日月もゆるゆると下がってくる瞼を受け入れて、ぼやけた半分ほどの視界で安心しきった寝顔を眺める。

最初はおろおろとただ人の間で不安げな顔をして立っていたナマエは、今はもう立派な鉄華団の一員で。少しずつスキルを蓄えては、穏やかな表情を見せるようになった。
そして、その緩んだ顔を多く見せるのは三日月の前だ。これは気の所為でもなく事実である。

「おやすみ、ナマエ」

確かな優越感にナマエの頭をするりと一撫でして、三日月もその瞳を完全に閉じた。



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ニーナ様より、『三日月』でした!
ミカちゃんって中々むつかしいですね…!頑張りました!
丁寧で暖かいコメントを有難うございました!!

お持ち帰りはニーナ様のみです!
この度は企画参加ありがとうございました!

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