クロッカス | ナノ
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▽ 新たなマキナ


なんだよ、この感じ。

俺はこいつに勝ちたかった。
俺はこいつより強くなりたかった。

折角叶った夢なのに。

なのに、

なのに、どうして、

なんで殴るたびに嫌な気分になっていく───?



×××



水霧は急に降り出した雨に「なんだか嫌な予感がする」と小さく呟いて、ファイルを持つ手に力を込めた。
少し離れた位置で話し込む森次と山下の二人に視線をやると、どんよりと暗い空を仰ぎ、眉間に皺を寄せる。

「水霧さん、どうかしましたか?」
「‥‥‥いえ、‥‥‥結構降ってきたな、と」
「あ、そうですね。天気予報では曇りだったんですけど」

傘を差してくれていた研究員はぎこちなく笑って言った。
緊張してるんですか、と水霧が思わず聞くと彼はぽりぽりと人差し指で頬を掻いた。

「やっぱり分かりますか?」
「ちょっと笑顔が固いですよ」
「あはは‥‥‥いやー、デスクワークばかりで現場に来るのは二度目なんです。空気というか、なんというか‥‥何より、その、マキナがすごくて‥‥‥」

ちらりと後方を見上げた彼に続いて向けた視線の先には、膝間づく様な体勢で待機する蒼と黄。

ヴァーダントとハインド・カインドである。

「こうして現場で見るマキナはまた、圧巻ですよねぇ‥‥」

マキナ達と命を共有する可愛い彼らの姿を脳裏に浮かべて笑む。

「こんな凄いモノが効率良く動ける様にサポートするのは僕達なんですから‥‥頑張らないと、ですね」

穏やかな水霧の声に、レインコートのフードの下で彼もふっと息を吐いた。

「‥‥‥そうですね」

緊張、解けたみたいですね。有り難う御座います。とマキナから視線を外した二人の元に、ぱしゃぱしゃと音を立てて近づいて来る足音が二つ。

「弥宵さん!」
「サトル君‥‥玲二も。打ち合わせはもう終わったの?」

ぴょんと跳ねて水霧の前で止まった山下は、はいっ!と元気にその質問に答えた。

「打ち合わせ、と言っても弥宵さん達が練った作戦を確認しただけですし」

ゆっくりと歩いてきた森次は山下の答えに言葉を足して、くい、と眼鏡を押し上げた。
その次には寒くはありませんか、と水霧を気遣う森次に、水霧は過保護過ぎだよ、と苦笑を返す。

「マキナにファクターが搭乗するまでに捕獲する、なんて森次さんとボクの二人がかりでやれば、弥宵さんが体調崩す間も無くパパッとお終いっス!」
「うんうん、頼もしいね。特務室うちのファクターさん達は」
「当然です」

その時、そろそろ時間です、と声を掛けてきた研究員にお礼を述べると水霧は車内へ、森次と山下はそれぞれのマキナの元へと別れた。


巨大な爆発音が響き渡ったのはそのすぐ後の事だった。


「なんでこのタイミングで邪魔入るかなァ」

技術開発部が開発したスコープで覗きながら山下は不満気な声を漏らした。その隣では森次が腕を組んで立っている。
二人がマキナの最終チェックを待っていた矢先の出来事であった。

「あれ、“ハグレマキナ”ですかねェ?」
「確証はないが、目的が我々とそう変わらんのならファクターは存在するんだろう」
「それってやっぱり早瀬浩一とラインバレル?」
「社長も彼らを特別視しているくらいだからな。何かあるんだろ」

ふむ、と息をついた森次は一度視線を対象から外すと、後方から聞こえたチェック終了を告げる声に体の向きを変えた。それに続いて傘を支える研究員も動く。

「スマートにやりたかったんだがこうなっては仕方が無い。二機とも確保だ‥‥‥出るぞ、山下」
「了ォ解」


「ヴァーダント、ハインド・カインド、共にファクターの搭乗が完了。出撃しました」
「分かったよ、有り難う」

ギ、ギ、ギ、と異常な動きを見せるマキナを映し出していたモニターに、新たなマキナ───ラインバレルが乱入したのを確認すると水霧はマイクの回線を入れた。

「二人とも、見えてるね。今、ラインバレルが現れたよ」
「はいっ‥‥‥‥でもアレ!可笑しいっスよ!!」
「うん。ファクターが乗っていないのにマキナが攻撃をしたのを確認した。‥‥‥アレは普通じゃない。出来るだけこちらも解析を急ぐから‥‥‥頼んだよ」

焦りがありありと現れた声の二人の返事を聞いて水霧は通信を切った。思い掛けない異常事態にごくりと喉を鳴らした研究員達に、向き直った水霧は手早く指示を飛ばす。

「第五班以降の者はラインバレルの解析を急げっ!医療班は最悪の事態を考慮して医療系統の備品の再手配を!」
「はいっ!!」
「第一班は街の警戒態勢を再確認かつ強化!住人の安全が第一だ!!第二、三班にはマキナ回収の準備と輸送トラックの一時退避を任せる!」
「了解しました!!」

水霧の声を張った喉はカラカラだった。
一気に掛け声やら足音やらで騒がしくなった作戦拠点地で、舌打ちを一つ打つ。

「嫌なカン程よく当たるんだから‥‥っ!!」

「ラインバレル、ファクターの搭乗を確認!」
「水霧さん!警察と連携して周辺住民の避難を開始しました!」
「十分後に医療備品がこちらに届きますっ!」
「すみません水霧さん!こちらに‥‥‥っ!」
「了解、すぐに行く!」

最後にちろりと見たモニターに映る曇天の闇に負けない鮮やかさを放つ二機の機体に、ぎゅ、と手を握り締める。

─────どうか、二人が無事に帰って来ますように。

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