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  Yes or No ?



「お疲れっしたー!!」

夕日が照らすテニスコートに大きな声が響く。フェンスのドアから出てくるレギュラー陣が、今日も疲れただの、腹減っただのといつもと変わらぬ言葉を交わしながら部室へと消えていく。下級生と共にボールやネットの片付けを行う中に、マネージャーであるれんもいた。全部の片付けが終わったのを確かめると、残っている部員たちに終わっていいよと声をかける。全員がコートを出たのを確認したれんはフェンスを閉め、鍵をかける。その鍵を職員室にいる竜崎先生へと届けた後、校内の更衣室で着替えを済ます。これがマネージャーであるれんの日課だ。着替えを済ませて下駄箱を抜けると、同級生の不二や菊丸、大石たちがいつも待っている。
今日も、いつものように素早く着替えて、小走りで外に出た。

「あれ?」

いつもよりメンバーが多く、目で確認したところ、レギュラー全員がいた。こういう日は大抵どこかに寄って帰ることが多い。大方、桃城辺りが提案したのだろう。そしてそれに乗った菊丸が全員をここに集合させたに違いない。そう思いながら、駆け寄ると、れんの想像していた通りの説明をされた。

「寄って行ってもいいっスよね?」

と桃城がれんに尋ねる。それに笑顔で頷くと、いぇーい!とはしゃぎながら越前の首に腕を回す。その行為に越前は離れろとばかりに抵抗するが、体格差のある2人はそのまま桃城の自転車を取りに行った。


今までも来たことがあるファストフード店に入り、各々注文をする。人が少ない2階で席をくっつけ合い、注文したジャンクフードにかぶりつく。テニスの話やら勉強の話やらクラスの話やらで和気あいあいとしている中、突然菊丸が声を上げた。

「あっそうだ!俺、面白いゲーム知ってるんだけど、みんなでしない?」

菊丸の声に話を止めて、ゲーム?と全員が興味を示す。

「どんなゲームなの?」

れんは、全員が思っているであろうことを菊丸に尋ねる。その発言に周りもうんうんと頷き、菊丸を見る。菊丸は人差し指を立てながら説明を始めた。

「一人の人が頭に何かを思い浮かべて、それをみんなで当てるゲームだよん!周りの人は質問しながら考えるんだけど、「はい」か「いいえ」でしか答えられない質問じゃないとダメなんだよね〜」

ルールが簡単でこの人数でもできそうだということで、菊丸の提案したゲームに乗ることにした。

「ほんじゃ〜おチビ!何か頭で想像して!」

目の前に座っていた越前を指さして、命令するかのように言う。越前は、いつものクールな表情から、ニッと口角を上げ、いいっスよと返事をする。少しの間考えてから、菊丸に質問する。

「それって、何でもいいんスよね?」

「うん、物でも人でも生き物でも自然でも、何でもオッケー!」

それを確認した越前は再び口角を上げる。

「決まったっス」

「んじゃ、質問していこー!」

質問は順番に時計まわりで回していくことにした。どんな質問をすれば良いのか分からず、菊丸がいろいろと具体例を挙げる。それに倣って、各々質問を考え始める。

「それは、人間ですか?」

まずは菊丸が質問する。

「いいえ」

ときっぱりと答える越前。その答えを聞いた周りのメンバーは、生き物か?物かも?と呟く。

「それは、物ですか?」

隣にいた不二が尋ねると、「いいえ」と返事が来た。
その次の大石が、

「それは、動物ですか?」

と聞くと、「はい」と答える越前。越前、動物・・・と頭の中で想像し始めるレギュラーたち。なんとなく答えが分かった者もいたようで、桃城なんかは表情に出ている。
次の順番はれんだ。彼女も自信はないようだが、なんとなくこれではないか、という予想が出ているらしい。

「答えが分かったら、当ててもいいからねん。間違ってもそのまま質問を続ければいいだけだから」

間違ったとしてもそこで終わるわけではないと分かり、少しホッとした表情になるれん。

「それは・・・家で飼っている猫、ですか?」

同じ答えが思い浮かんでいる数人が越前を見る。少しの間を空けてから越前が口を開く。

「はい」

と答えたのを聞くと、おー!と一気に盛り上がる。越前は、すぐに当てられてしまってつまらないという顔をしながらストローを吸う。

「お前、わっかりやすいなー!」

ハハハと桃城は笑いながら髪をクシャッとなでる。頭に乗せられた手を払いのけながら、口を尖らせて言う。

「じゃあ、次、桃先輩やってくださいよ」

その言葉に周りも賛成し、今度は桃城が考える番になった。難しいのを考えているようで、うんうんと頭を唸らせている。バーガーはほぼ全員食べ終わり、残ったポテトを食べながら、桃城が思いつくのを待った。

「あ!よし、これにきーめた」

桃城が閃いたようで、パッと顔を上げる。

「んじゃ、さっき言ったれんの隣は桃だから、その次のおチビからね」

越前から質問が始まった。越前の後は、河村、海堂、乾、手塚と続き、再び菊丸に戻るという順番だ。
「それは人間ですか?」「いいえ」
「それは生き物ですか?」「いいえ」
「それは物ですか?」「はい」
「それはみんな見たことがありますか?」「はい」
「それは毎日使いますか?」「はい」
こんな質問をしながら、2周回ったところで、ようやく学校の教室にあるものだというところまで絞れた。そこからは、「机ですか」「椅子ですか」「黒板ですか」と答えを聞くも、なかなか「はい」とは言われない。教室にあるものを思い浮かべては質問した。そして、不二が

「あ、それは黒板消しクリーナーですか?」

と聞いた。

「はい」

と答えると、全員があ〜と感嘆の声を上げた。

「いや〜これめっちゃ楽しいっスね!」

全員を悩ませるほどの問題を作れたことの嬉しさやら楽しさを感じた桃城は、そう言って笑う。

「確かに、人数関係なく盛り上がれるゲームで、楽しいよね」

河村もそれに賛同して、またその言葉に周りが頷く。
外はもう日が落ちていて、時計の針は7時を指していた。そろそろ帰らなければと誰かが言い出し、それぞれ席を立つ。店を出てから、同じ方向の者同士で分かれ、帰路をたどった。


そのゲームはレギュラー陣の間で流行り、学校の休み時間や部活の休憩時間、帰り道など暇さえあればやっていた。
ある日の部活後、いつものようにれんが着替えを済ませて外に出ると、いつものように不二、菊丸、大石の3人が待っていた。帰りながらするのは、あのゲーム。毎日しても、毎回お題が変わるので、飽きずに楽しんでいた。

「んじゃー大石!何か思い浮かべて!」

菊丸に言われ、大石が考え始める。すぐに決まり、それを当て始めた。
当てたら、別の人が考えるというのを繰り返しているうちに、分かれ道が来た。不二と方向が同じれんは菊丸と大石に手を振り、背を向け不二と歩き出す。

「面白いよね、あのゲーム」

そう不二に話しかける。夏とはいえ、少し暗くなってきた道は人通りが少なく、今はこの通りに2人しかいない。街灯が灯り、心なしか安心感がある。

「そうだね。・・・ねぇ、2人でやってみない?」

いつもは2人になった後は、部活のことや授業のこと、友達のことなどの他愛もない話をするのだが、今日の不二はゲームの気分らしい。その提案にれんも乗る。

「じゃあ、僕が考えてること当ててみて」

もう思いついていたらしく、不二はそう言いながら少し微笑んだ。

「それは、人間ですか?」

「はい」

「その人は、男性ですか?」

「いいえ」

「芸能人ですか?」

「いいえ」

「青学にいますか?」

「はい」

女性で、青学にいる人・・・と思って想像したれんが思い浮かんだのは、顧問の竜崎先生だった。答えだと思い、尋ねるも、「いいえ」の返事。うーんと頭を悩ませながら、次の質問をした。

「生徒ですか?」

「はい」

1年生から3年生までにいる人物か・・・と考える。自分が知っている人物でなければ当てることはできないので、誰だろうと頭に友人の顔を浮かべる。ふと、そのときにあることを思いついた。

「不二は、その人のことが好き・・・ですか?」

この質問をするべきかどうか一瞬躊躇ったれんだが、当の不二は迷うことなく答えた。

「はい」

す、好きな人!?
とびっくり仰天な事態にれんは大慌て。まさか、自分に好きな人のことを当てさせようとするとは。不二にも好きな人がいたんだなぁとか、もしかしてその人のことで何か相談したいのかもとか、いろいろな考えが頭の中を行き交った。とにかく、誰が好きなのか当てなきゃ・・・!と心の中で拳を握る。

「3年生ですか?」

「はい」

「不二と同じクラスですか?」

不二のクラスには可愛い女子がいて、他クラスでも有名だ。その子と去年同じクラスだったれんは、すれ違えば言葉を交わす仲。その子とくっつけてほしいということではないかと、れんは踏んでいた。しかし、不二の答えは、

「いいえ」

予想が外れて、少しがっかりなれんは次の質問を考える。もし相談するのであれば、自分と距離が近い人だろう、と予想し、

「私と同じクラスですか?」

と聞いた。すると不二は、相変わらず笑顔のまま、

「はい」

と答えた。
同じクラスに不二の好きな人がいると分かり、れんは両手で顔を覆いながら、きゃー!と興奮気味。部活のときにはそんな表情を見せないため、珍しいれんの姿を見て、クスッと笑う。そんなことはお構いなしにれんはその人物の特徴を絞っていく。
髪は長いか、部活は運動部か、元気なタイプか・・・人物像がだんだんと明確になり、れんはきっとこの子だという人物を決める。そして、それを不二に告げる。若干緊張しながら答えを待つも、不二の答えは。

「いいえ」

「えー!?違うの!?」

全部当てはまるのになぁ・・・と肩を落とすが、他にも思い浮かんだ女子が数人いたので、名前を挙げる。しかし、返ってくるのは「いいえ」ばかり。だんだんと不二の考えていることが分からなくなったれんは、こうなったら全員言ってしまえ!と番号順に名前を挙げていった。しかし、不二の答えは「いいえ」。
とうとう最後の一人になった。この子が不二の好きな人・・・!と期待を込めて名前を言った。どうだ、とばかりに不二を見つめるも、不二は表情を変えないまま、

「いいえ」

とだけ言った。
その答えに、ん?と固まるれん。聞き間違いかと思って、もう一回言って、と言っても返ってきたのは先ほど同じ「いいえ」。んんん?とれんは頭を抱えた。どういうことだ。不二の好きな人は青学の私のクラスの女子で、今全員名前を言ったはず・・・。大混乱に陥ったれんはもう一度不二に確認した。

「私のクラス、だよね?」

「うん」

「お、女の子だよね・・・?」

「うん」

だとすれば、おかしい。もう全員名前は言った。見落としている人物はいないはず。口元に手をもっていき、考え込んでいるれんの姿に、不二は再びクスッと笑みをこぼした。しかし、真剣に悩んでいる彼女自身はそれには気付かず、ゆっくり歩を進める。れんより身長が高い不二はいつも彼女の歩くスピードに合わせて歩いているが、今日は一段と歩幅を縮めて歩いている。というのも、れんが悩んでいるせいかいつも以上に歩幅が小さいからだ。それにも気付かず、れんは悩み続けた。そして、ふとあることに気付き、歩みを止める。

え?いやいやいや、まさか。そんなわけない。いや、でも、まだ言ってないのって・・・。

自問自答を繰り返し、まさか、と思って不二を見上げる。いつもより目を開いた不二と目が合う。

「答え、分かった?」

爽やかな表情と優しい声に、思わず照れてしまい、俯く。

「いや、その・・・これ言って違ってたら恥ずかしいし・・・でも、もういないし・・・」

ごにょごにょと何かを小さく呟くが、不二はきちんと聞き取っていたようで、

「うん、もう1人しかいないよね」

と柔らかな声で言う。その発言にれんは再び顔を上げて、不二を見る。

「そ、それって!」

もう答え言っているようなもんじゃん!という言葉は押し込み、心の中で叫んだ。

「ほら、答え。言ってみて」

相変わらず目を開いたまま、不二は言う。試合で本気を出した時に、彼はよく目を開く。そのときよりも幾分も優しい雰囲気を纏ってはいるが、本気だということが伝わってきて、れんの胸が高鳴る。

「その人は・・・わ、私、ですか?」

照れながらも、最後は目を見て言ったれん。ドキドキしながら答えを待っていると、不二が少し息を吸って

「はい」

と答えた。目は確かに開いているけど、表情はとてもにこやかだ。

「一生懸命な姿とか、明るい笑顔とか、素敵だなって思ったんだ。・・・今まで僕のことをそういう風に見たことはないと思うから、付き合ってとは今は言わないけど。でも、これからは僕のこと、意識してくれると嬉しいな」

真っすぐ自分の目を見ながら真剣に想いを伝える不二にれんは顔を赤く染めながら、小さく、しかし不二に聞こえるように頷きながら答えた。

「・・・はい」



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