だから今迄も、そしてこれからも、すべて夢の話だ。都合の良い、砂糖菓子のように甘くて幸せな夢の話。
終わらないメリーゴーランド。
食べても食べても減らないケーキ。
裁かれない秘めやかな罪と罰。
そんな類いの幸福。苦痛と抱き合わせの、閉じられた幸せな世界。けれどもテツヤには『分からない』から、そんなことどうでも良かった。あの日からテツヤはあらゆることに盲目になったのだ。母に、涼太に、真実に、未来に、盲目になったのだ。何も見えないけれど幸せだった。見えないから、幸せと信じるほかなかったというだけだ。だがそれでも良かった。母は愛しく、涼太は優しい。何の問題がある。いや、最初から問題などなかった。あるはずも、なかった。
ありもしない弟をでっち上げ、みんな夢見て、狂っていた。継接ぎだらけの壊れそうな世界。それを今や自分も必死に守ろうとしている。泥のように濁った瞳で、黄瀬家の弟であろうとしている。だってそれが『幸せ』だから。
「涼太ー、テツヤー、ごはん出来たわよ」
階下で母の声がする。隣で涼太が、はぁいと返す。
その横顔を見て、テツヤは思う。やっぱり似てないことなんてなかった。母とも涼太ともそっくりだった。
だって、二人の目も濁ってる。
了
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!
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