黄瀬と黒子は似てない兄弟5
2015/09/16 19:35

 少し昔の話をしよう。
 三人家族だった黄瀬家に、四人目の家族が増えるはずの日の、話だ。その日は雷を伴った大雨だった。暗雲立ち込める空を見て、涼太は子供心にもいやな気を感じ取ったのを覚えている。時折落ちる雷が、心臓が止まりそうなくらい怖かった。びくん、と小さな体が震えるたび、祖母が背中をさすってくれた。
 その日涼太は、母方の祖父母の家に預けられていたのだった。父は母を追い掛けて病院に行っていた。母が出先で産気づき、病院に運ばれたという報せを聞いた父は、涼太はここでおばあちゃんと待っていなさい、と言い残して、土砂降りの外へ飛び出して行った。
 それからどのくらいたったのだろう。懐かしい黒電話がジリリリンと鳴って、近くに居た祖父が受話器を取り上げた。ああ病院ね、と初め祖父は柔らかい顔をしたが、しばらく受話器を耳に当てているとその顔からは血の気が引いて、いつしか顔色は青ざめるのを通り越して、真っ白になっていた。祖母が訝しんで、あなた? と問いかける。ゴロゴロゴロ、と遠くの空が鳴ったのを聞いて、涼太は祖母について祖父の元に寄った。
 電話はいつの間にか切れていた。祖父は死人のような顔で、つぶやいた。

「婿さんが……事故で、」

 まだ幼い涼太には分からなかったが、父はその時車の事故で死んだのだった。雨でスリップして突っ込んで来た対向車と正面衝突したというのは、随分あとになってから知ったことだ。祖母はその場に泣き崩れ、祖父は唇を噛み締めて何かを堪えるようにしていた。涼太だけは、現状が理解出来ず、稲光した空を見ていた。
 悪いことというのは続くものだ。祖父母とともに母の病院に向かった涼太であったが、そこには項垂れる看護師と、泣き腫らした母がベッドに横たわっていた。流産だった。まだ父が死んだことも知らない母は、あの人になんて謝ればいいか分からない、とまたさめざめ泣いた。
 それだけでも壊れそうだった母が、事実を知らされて完全に壊れてしまったのは、仕方のないことだと思う。涼太はしみじみと、そう思うのだ。




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