10000打記念企画 | ナノ


「うわあ。海だあ!」
「流石に圧巻ですね」

舗装された対向車のない道路を大型の貸し切りバスが五台ほど連続で走ってゆく。観光地の沖縄ではさして珍しくない風景だ。
しかし中にいるの学生は、黒子装束を纏っていたり目隠ししていたりセーラー服の上から割烹着着ていたりするという奇妙さ。
その極めつけはこのバスの目的がハブの大量捕獲という点である。

「それにしても凄いね。飛行機も貸し切りだったし」
「まあ、かの事態の元になっているフラスコ計画では十万程度の人間が動いているそうですから…。理事会にしてみればこれくらいは何てこと無いのでしょう」

正直急なスケジュールをここまでサポートしてくれる理事会の手厚さには長者原も驚いているが、海を無邪気に眺めるなまえを見ていると、まあいいかという気になってくる。
今回の戦挙において校舎や設備の管理、破損の修復と言った事柄については日頃から管理を行っている美化委員会であるなまえが長者原に協力してくれている。
これはそんな彼女へのささやかなお礼、と言うわけだ。断じて、お礼だ。
端から見たら邪推されるかも知れないので彼のメンツを保つためにもう一度述べよう。お礼だ。


「不知火家って何者なんだろう」
「わたくしめ程度では到底計り知れません。あちらも知らせる必要は無いのでしょう」
「うーん。中間管理職は辛いねえ」
「全くです」

先行する一号車のバスの前列で繰り広げられるそんな会話。
それに近くの者は聞き耳を立てていたりする。
それもそのはず"あの"堅物で名前負けこの上ない融通の利かない副委員長が!
関係者とはいえ以前からなんかもお焦れったくなるような付き合いを繰り広げている彼女を同行させているのである。しかも、自ら勧誘して。
気にならない方がどうかしている、とばかりに黒子達は思っている。少なくとも高校生が夏休みに沖縄に来ているのに黒子装束でハブ捕りとか、そんなことが気にならなくなるくらいには。

「なんだお前たち。妙に静かだな。別に移動時間くらいはしゃいでもいいんだぞ」
「いえ!今ちょっと準備中でしてっ」

しかし相手は常識を覆す異常。うまく行くはずもなく。
突如くるりと振り向いた長者原に黒子達は慌てながらも自前のCDプレーヤーをセットする。
しばらくすると少し前に流行ったポップスが流れ始めた。
因みにこのバスに添乗員は存在していない。他言を防ぐためではあるが、ただ一人黒子集団の中に取り残された運転手がどのような心境であるかは想像に難くない。


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