マシュマロクライシスの続きです。
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「げ」
パシュン!とサイレンサーにこすれた控えめな音がしたかと思えば靴の爪先の風通しがよくなっていた。よく無事でいてくれたな、私の親指。
なんて事を考えつつ夜気がまとわりつく中を走る。逃げきれるか分からないけど。
小回りがきくのはこっちだ、と言うことで狭い路地を曲がりくねる。だんだんと足音が遠ざかるのが聞こえたが油断ならない。前回はそれで負傷した。
…と思ってたのが油断してた証拠らしい。
彼が上から降ってきて、私はいとも簡単にねじ伏せられてしまった。
「こんばんは智香さん」
「奇遇だね!」
ああ、もう、本当に。
なんて偶然なの。
ギリギリと手首に食い込む指に自嘲の笑みが次から次へと溢れる。
「知らない中でもありませんから、最期の言葉くらい聞いてあげましょう」
ジャギ、と音がして刀の切っ先が喉のあたりにひたりと触れた。
"ああ、私は終わるのか"
どこか冷静に自分じゃない誰かの出来事のようにそう思った。
でもまあ、不思議と抵抗しようとも思えなくて、そんな相手なら案外私の人生にしては上出来かもしれない。
「じゃあ、目の前の茶飲み友達に、ずっと言おうか悩んでたこと」
目を閉じた。
赤が溶け崩れて広がる黒。
深い深い、静寂。
浮かぶのは、夕暮れの中で団子を食べる貴方――――――――――――
「……………」
「…………………」
「………………………」
「……………………………やっぱやめた」
なんだか急に怖くなった。
言葉にしたら私と一緒に消えてしまいそうだったから。
だったらこの気持ちも言葉も、誰にも知られることなく全部持って行ってしまおう。
「気になるじゃないですか」
「三天の怪物さんにもあるんだね、分からない事って」
「言いたくないんですか」
「まあ、そうかな」
もし、私が忍びじゃなかったら?
もし、佐々木さんが警察じゃなかったら?
………なにも変わらなかっただろうな、私たちは。
ひゅう、と冷たい風が吹いて月明かりが逆光になっている。
佐々木さんの顔が泣きそうに見えるなんて、逆光ってやつは案外とんでもないポテンシャルを兼ね備えていたらしい。
「でしたら、今度会ったときにでも、聞かせてください」
「へ」
離れていく鈍色に私はそうとしか言えなくて。
次の日、私はめでたくクビになってエリートに職を紹介して貰うことになる。
if
(もし貴方と私が味方だったなら、問題は何も存在しません)
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忍者もフリーになると色々大変そうだなあ、と。