夢喰 | ナノ
48

ここは貧民街から少しばかり離れた喫茶店だ。
なぜここに私と万事屋さんがいるのか…と聞かれりゃ、金に釣られた万事屋さんが私を連れて貧民街を出たから、と言うより他ない。
それで紙切れ掴まされてりゃ世話ないよホント……。

「ていうかもう、また佐々木さんに出し抜かれた気がしてならないねェ…」

結局、話を聞き出す前に連れ出されたんだからさ。

「俺はなんで智香ちゃんが佐々木といたのかの方が気になるんだけど…」
「……あー…」

プライベートっちゃプライベートなんだけど、そう言っちゃああらぬ誤解を生みそうだ…。

「にしてもヒデー野郎だな。あんな危険な真似させといて、用が済んだら俺に連れ出せなんてよ。結構深く割れてるから無理すんなよ。跡とか残らねーかな」

そう言って万事屋さんは額の血の滲む布に手をやった。ごろつきにシャッターに頭をぶつけられたおりに割れてしまったのだ。

「大体、俺が助けなかったらもっとヒデーことされてたんじゃねーの?少年誌に載せらんないようなさあ」
「っ、いや…別に、気にしてないし…私、案外けがの治りもはやいし…。あ、助けてくれたのは感謝してます」
「じゃあここの代金…」
「貸しに決まってます」

油断も隙もありゃしないんだから。やっぱしこの人はこの人で食えないし、侮れない。釣れる気もしない。
額に添えられた手を見ながらきっぱり断ると、万事屋さんは目を丸くしていた。

「あー…なんつーかさ、智香ちゃん明るくなった?」
「は?」
「いや、前は真選組以外の男は全部敵、みたいな顔してたから」
「え。そんな顔、してましたかねェ…」
「してたしてた。肩のゴミ取ろうとしたら避けられて銀さんすげーショックだったから」
「………」

知らなかった…。
たいていニコニコしてればバレなかったのに。やっぱし、この人すごい。
無条件にはまだ男を信用できない。

でも、
確実に、
変われてる。

「…………」
「あれ?えーと…智香ちゃん?」

黙ったままの私にあたふたと顔色をうかがっている。この辺は副長に似てる気がする。


「万事屋さん。私、もうすぐ二十歳になるんですよ。」
「 え゛。」

声が裏がえった。
男がのさばる世界でただでさえ女だという理由で軽んじられるので、それらしい振る舞いを松平さんに教わった結果、結構年上に見られる。どっしりしてるとか余裕があるとか隊士によく言われるのだ。
…今思えば松平さんに教わったのが良くなかったんだろう。どうせなら女性らしい振る舞いで年上に見られたいもんだ。

「いくつだと思ってたのかはあえて聞かないけどねェ…。だから、二十歳になったらどっかお酒おいしい店教えてくださいよ。そんで、飲みに行きましょうよ。そんでチャラ!」

「のった」

にい、と万事屋さんは笑った。
つられて私も喉の奥で笑う。
そうだ、最近私は良く笑うようになったなあ、なんて遠くで思った。


「じゃあパフェもう一個追加で」
「厚かましい」

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