夢喰 | ナノ
37

「うぐああああ〜…」

私は思わずそんな意味不明な奇声を上げた。
上げずにいられないほどに、参っていたからだ。

「絶対…絶対こんな量終わらない…っ。副長めぇ…」

眼前には堆く積み上げられた書類の山―――もとい、始末書。

結果的に呉服屋の娘さんは鉄之助くんが見つけて保護された。大手柄だ。それは大変よろこばしい。

しかし私といや娘を追いかけてたどり着いた路地裏でとんでもない事件に巻き込まれ。
(連続婦女誘拐事件…聞いただけで虫ずが走る。)
娘を見失ったあげく、あの路地裏は大変電波が悪かったらしい。
連絡がつかずに応援に駆けつけた隊士は混乱。
おまけに応援の中に副長がいたという……ねェ、その。言い訳なんか通用しない。
さらに車から飛び降りてきて腰を抜かした、ぶつかったという苦情。
…巻き込まれたあたりは道に迷ったってことにしたから、余計に私のミスってことだ。
何枚あるんだか、これ。

「白い紙が一まーい、白い紙が二まーい…白いか…」
「なにしてんでィ、気持ち悪ィ」

軽く現実逃避していたら沖田くんが急に執務室に入ってきた。
なんだなんだ、珍しい。

「やっと仕事する気になってくれたとか?だったら嬉しいんだけどねェ」
「かわいい部下のおかげでもう終わりやした」

しれっとそういう沖田くんに殺意に近いものが芽生えたが、無駄だということも理解しているので怒るに怒れない。

「家出人追わなきゃいけないでしょーが」
「ドラマなんかに感化されて家出するようなガキなんざほっといても勝手に帰ってきまさァ」

確かにそうなんだろう。
でも、そう思って捜査が遅れれば遅れるほど…誘拐事件の発覚は遅くなる。
人身売買ということで、身の代金の要求もないし、手がかりは少ない。
そもそも本当に人身売買なら悠長にしている暇はないのだけど、いかんせん情報がない。
やはり先ほど送られてきた仕事が終わったら局長室にきてくれ、というメールを信じるほかないんだろうか。
佐々木さんは捜査が忙しいようで今日のお昼も無理のようだった。
ならこっちは違う方向からアプローチをかけてみるのも手だ。

「あ、沖田くんさあ。そのドラマ見てたよねェ」
「毎回録画してたぜ」
「貸してほしい」

変わりにお昼ご飯代が倍になったのだがそれはまあ…
最近構ってあげられなかったから納得するしか、ない。

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