夢喰 | ナノ
18

「今日はまたずいぶんと楽しそうですね」
「えっ」

私は間抜けな声を上げた。
ペタペタと顔を触ってみる。どこにも変化はないように思えた。
「そ、そーなの?」
「ええ。何か良いことでもあったんですか」

官庁あたりの定食屋で私と佐々木さんはお昼を食べていた。あの忌まわしいカレーうどん事件から毎日のように。
店は毎回一緒ではない。その日の気分らしく3〜4件をループする感じだ。

「エリートな彼氏ができそうですって言ったら?」
「それは良かったですね。将来安泰ですよ」

焼き魚と箸で格闘する。未だに慣れない。横を見ると佐々木さんは綺麗に骨だけが残っている。
こういう何気ないとこにも育ちの良さってのは出るらしい。

「そーいう佐々木さんは機嫌悪いんじゃないの?」
「そうですか?」

自分の眉間辺りを指さしてやれば彼はふぅ、とため息をついた。
ありゃ。本当に珍しいぞ。
本当は眉間にシワなんぞ寄っちゃいなかったんだけどねェ。何となくそんな気がしたからカマ掛けてみただけ。なのに。
当たり…だったのか。

「見廻組を、改名しろと五月蠅いんですよ。上が」
「え?なんて?」
「真遊撃隊」
こう書きます、と指でなぞってみせる。
「うっわー…。いかにも頭の堅いお偉方が考えたって感じ…」
「頭の堅いお偉方なりに考えたらしいですよ。ああ、こんな事を言っては国家機密漏洩法違反で逮捕されてしまいますね」
「ほんとだねェ」

思わずクスッと笑ってしまった。
佐々木さんは別にエリート至上主義って訳でもないみたい。
実力が伴ってなきゃ今みたいに幕府の官僚でも馬鹿にする。
あ、定食についてたお吸い物が美味しい。ていうか佐々木さんが教えてくれたお店はどれも美味しい。
山崎と食べるラーメンよりは多少値は張るけど。

気づけば、この時間は見廻組と関わる中で唯一といっていいほど"自分"でいられる時間だ。
嫌み言い合ったり腹を探りあったり、愚痴ったり…

佐々木さんは見廻組に私のことをバラさなかった。泳がされてるだけかもしんないけど。いや、絶対そーなんだろうけど。
実際彼は屯所内では話しかけてはこない。
なんか救われてる。隊士に媚び売ってるとこなんか、見られたく、ない。

「その内真選組も改名させられたりして」
「一緒に真遊撃隊を名乗ってるかもしれませんよ」
「させるか、ペテン師」
「エリートですよ、女狐」

気づけば食べ終わった後もこんな感じで話し込んでる。
時計を見りゃそろそろ時間がアレだ。
「じゃ、私これでっ」

手早く勘定を済ませて店を出ようとする。と。

「待ちなさい」

ぐ、と腕を捕まれた。
さっきまで眠たげだった目は、いくらか鋭さを帯びている。

「ちょ、急いでんですよ離しやがれ」

腕を力ずくで引っ張るがびくともしない。
目が、あった。
鋭い、目。

「人の話を聞きなさい」

そう言って佐々木さんはケータイを開いた。慣れた手つきでボタンを押す。

「送りますよ。元はといえば私が遅れましたから」
「いいって。立て続けに貸しを作るほど図々しくないんでねェ」

そう言い返してみても力は緩まない。入り口から車の止まる音がした。
それを確認すると佐々木さんは腕を引っ張って黒塗りの車の前に連れてきた。

「入りなさい」
「〜〜〜!」

そう言った佐々木さんの目はいつも通で
何かが押し寄せてくる気がして鼓動が速くなった。

そんな、昼下がり。



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元ネタである京都見廻組は実際に『新遊撃隊』に改名したり戻したりしてるので、ちょっと取り入れてみたり。
そのままはどうかと思われたので真選組と同じ真に変えましたが。

佐々木さんはサラッとブラックジョーク言う感じが好きです。
再現難しいんですけどね…!

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