-春乙女-01 

「もう、足と手の傷は綺麗に治りましたね」


椅子に腰掛けながら、女官達に手足を取られて仰々しく包帯を解かれる。

包帯の下から現れた肌は傷一つなく、その回復力にエレナ自身も目を見張った。



制御出来かけている巨大な小宇宙のせいなのだろうか。

それとも………。




「では、私達はこれで失礼致しますね」
「………」
「ペルセポネ様?」



包帯を抱えて顔を覗き込んで来た女官達を見つめる。



「もう、エレナとは呼んでくれないの?」
「!」


大切にしてくれているのは、痛いほどに分かる。

でも、女神としてでなく、エレナとして接して欲しいなど、我が儘でしかないのだろうか。



ガラスを扱うようにされても、嫌なのだ。




「そ、れは……っ」
「ごめんなさい、貴女達を困らせたいわけじゃないの。……忘れて」



女官達を置いて部屋を出て行こうとすると、「待って」と数人に引き止められた。



「……アテナ様……サーシャ様も、来た時は普通の少女だったの」
「……」

「でも、女神の意志が目覚めてから、どこか遠い存在になってしまったわ。エレナも、目覚めたら、そうなるんじゃないかと思ったら………その………寂しい、のよ」
「!」



みんな目を伏せて悲しげな顔をしていた。



(そんな、事……ないのに………)



目覚めたからといって、やはりサーシャはサーシャだ。


その身に降り懸かる責任や宿命は巨大だが、彼女がそれで変貌したわけではない。



私も、強くなりたい。


サーシャ、テンマ、アローン……聖闘士達全てを守る為に。

叶うなら、敵であっても"守りたい"。



だが、力を欲しても根本的な部分では"私"のままでありたい。


そう願うのも、罪だというのか。






「……変わらないわ、私もサーシャも。だって……貴女達も大切で、守りたいもの」
「エレナ……っ」


ギュッと女官達に抱きしめられ、何かが胸に込み上げて視界が滲んだ。



「……今までごめんなさい、エレナ」
「ううん…………あ、時々女官の仕事手伝っても良い?」
「勿論!危なくない程度にね」
「ええ」


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