-春乙女-02 

「よろしいですかな、エレナ様」
「セージ?」

涙ぐんでいた女官達が慌てて身なりを整えると、教皇は何かを察したのか部屋に入ろうとはせず扉越しに話しかけてくる。



「貴女様宛ての客人がおります故、教皇宮へお越し下さい」
「私……?今行くわ」

扉を開け、待っていたセージの後についていく。
歩幅を合わせてくれるのか、ゆったりとした歩調で教皇宮へ降りていく。



(客ってまさか、アガシャ…?そんなわけないか…)


瞼裏で花を抱いた少女が眩しい笑顔を向け、少し寂しさがこみ上げる。


垂れ幕を抜けると、長い白髪を高い位置で一つに括り異国の不思議な服を纏った老人が膝をついて頭を伏せていた。


「エレナ様、こちらへ」

老人の正面の玉座に促され、遠慮するも穏やかに制されて座らされてしまう。



「お初にお目にかかります、ペルセポネ様。祭壇星座(アルター)のハクレイと申します」




伏せていた顔を上げ、シワの多い顔で優しく微笑む。


「……ハクレイ、さん」
「エレナ様、この方は我が兄でございます」
「え?」


スッと教皇がマスクを外すと、その下の素顔はハクレイとうりふたつだった。


「そっくり……」
「ハハ、そうでしょう。双子なのですから」



普段は聖域から遠く離れたジャミールという場所でクロスの修理や、聖域を裏から支えており、黄金聖闘士シオンの師匠。


その実力はセージを上回り、その気になれば黄金聖闘士にも教皇にもなれた。


今日はハクレイの代わりにアトラという子がジャミールの留守を守っているらしい。




「エレナと申します。よろしく、ハクレイ」



(遠い所から挨拶の為に来てくれるなんて……)


やはりそんな高尚なモノなのだろうか……。

小さくため息をつくとセージは再びマスクを被り、不敵に笑った。




「せっかくです、我が兄と稽古しては如何でしょう?」



……確かに、遠くから来てくれているのだし、
そこまでの実力の持ち主ならば稽古して貰った方が良いだろう。



やると決めたのなら、やり通そう。


そう決めたエレナは立ち上がってハクレイに笑みを向けた。



「お願い、出来ますか?ハクレイ」
「ほう……ならばその御役目、喜んで買ってでましょうぞ」




コチラヘ、とハクレイに連れ出されて聖域へと降りていく小さな背中を眺めていたセージは、息をついた。



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