-君の隣- 「…はぁ…っはあ……」 普段着ている上等な洋服の上にみすぼらしいガウンを羽織って、街の教会を目指す。 引き取られてからというもの、地主の養女として何不自由なく暮らしていた。 泥などで汚れた体は清められて毎日違う綺麗な洋服を与えられ、アクセサリーで着飾られ、上流階級の教養を叩き込まれる。 それは飢えを知らず、日々の食べ物に困って昼ご飯を我慢する事もない。 働くことなく、柔らかくていい匂いのする大きな寝台に一人で眠ることも出来る。 始めの頃は喜んだりもしたが、でも、しばらくしてそれは全て虚しいモノなのだと気づいてしまった。 何より良いモノを。 他者よりも上へ。 誰よりも完璧を。 人の欲望は絶えることなく溢れ、手にすればする程多くを求めて腕を伸ばす。 人間の罪深さを自覚した途端、日々のきらびやかな生活は耐え難いモノへと変わり、罪悪感から逃げるように教会へ入った。 そこには、"彼"が、 教会に絵を習いに来ているアローンが居る。 結局彼から離れる事は出来なかった。 「アローンっ」 「エレナ」 筆を下ろして振り返った彼に笑みを向けると、彼も微笑み返してくれる。 [*前] | [次#] 戻る |