-君の隣- 

「アローン、お昼は食べた?」
「…あ……、いやまだ…」


「だろうと思った!パンにレタスとハム、スクランブルエッグ挟んだモノ作ってきたの!良かったら食べて?あ、ちゃんと手は洗ってね」



絵に熱中しすぎる癖は治らないらしく、よく昼ご飯を忘れてしまう。

わざと昼ご飯代を浮かせる為に食べない時もある。



元々細いのにこれ以上痩せてしまうと、絵を描きつづける体力もなくなってしまうのではと危惧して、こうして時々お昼をご馳走するようになった。




本当はもっと美味しいものをご馳走してあげたい。


でも、料理長が私の為に作った料理をこっそり渡してもアローンは絶対受け取らない。



"アローンの為に"手作りをしているからこそ、口をつけてくれるのだろう。

それもそれで嬉しい。




「うん、美味しい!」


ふにゃりと笑いながらパンを貪るアローンが可愛くてついつい口元が緩んでしまう。


街を出る事は叶わなくなってしまっても、こうして教会ではアローンに会えるしテンマ達も会いに来てくれる。



この穏やかなひと時を糧に生きてるようなもの。



「アローン、今は天使を描いてるの?」

「うん」


教会の壁には見事な天使が描かれている。



「今度は結構大きな絵だから、顔料が足りなくて……昨日もちょっと新しいの買ってきたんだ」

「へー………それなら、コレあげる」


「!………ダメ!!」

ダイヤのついたネックレスをアローンに手渡すも、すごい剣幕で突っ返されてしまう。



「それは、エレナに似合うと思って買ってくれたんでしょ。気持ちを踏みにじるような事しちゃダメだよ!!」

「でも、わたし」

「とにかくダメ!!」

「……はーい」




渋々再び付けようとするも、うまく金具がつかない。
見るからに苦戦しているのを見かねたのか、食べ終わったアローンが後ろに回ってくる。



「……じっとして」
「………うん」


ネックレスを手渡し、無駄に伸ばして邪魔な髪をどかしてうなじを露出させるとなんだか背後でアローンが困惑してるのが伺えた。



「何?」
「いや、な、なんでもない」


伸びてきた手が震えており、思わず笑ってしまった。


「つ、ついたよ」
「ありがとう。……あ、お礼にこの前覚えた踊り見せてあげる」



羽織っていたガウンをそっと脱ぎ捨て、教会のステンドグラスの光の下へと歩みだす。



音楽も衣装もないが、戯れ程度に習わされてる自分には最高の舞台だ。



心の中で奏でられている音に沿って、この前習った振り付けをつけて好き勝手に踊る。


いつも、好きにさせてくれれば良いのに、少しでも間違えれば厳しく叱られる。

だから、生きるのが窮屈で堪らない。




「…エレナ…」




踊り終わり、深く息を吐いてアローンを振り返るとパチパチと拍手をしてくれる。

彼の、淡い笑みが凄く好きだ。



「すごい、すごい!まるで天使みたいだった!」

「それは言い過ぎ。でも……ありがとう!」



戯れ程度に抱き着くも、すぐに引きはがされてしまう。
最近、近づいても制されてしまう。


(……避けられてるのかな……)



大人しくガウンを受けとると、くしゃりと頭を撫でられる。



「その………ッ綺麗な格好してるんだから、僕に抱き着いて汚れたら大変だよ」


ただでさえ、僕は絵の具塗れなんだから……。と付け足すのを聞き、「そんなの構わないわよ!」と正面から思いっきり抱き着くと見るからに狼狽している彼が面白くてついついからかいたくなってしまうからダメだ。


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