もうひとつの結末へ_01 

ー最終章ー
『もうひとつの結末へ』




アローンが居なくなった瞬間目を覚ましたエレナの目には、"全て"が映り込んでいた。

蒼い目は何処までも澄み切っており、体を起こしたエレナは苦笑して"完全"になった両目にそっと触れた。


「………レグルスは、本当に真っ直ぐ澄んだ目で世界を見ていたのね」


獅子座レグルスの目。

彼が死んだことによって、それがエレナに引き継がれたのだ。
母の胎の中で、変な形で分かれてしまった力の断片が、今やっと戻ってきた………そんな感じがする。


「……レグルス」

うっすらと体を包み込みながら留まっている温かい魂が、すぅっと何処に吸い込まれるかのように消えていく。

最後に、まるで囁くような風が耳を撫でて。



「ええ、分かってるわ」

ザッと立ち上がったエレナは、そのまま駆け出そうとしたが裾長い侍女の服が瓦礫に引っ掛かる。

クッと服を引いたエレナはだったが、突然表情を変えないままその黒い服の裾を掴むとビリィイイ!!とその場で長い裾を破り捨てた。


膝上辺りまで短くなってしまったドレスに、満足そうに笑って軽くホコリを払う。



「やっぱり、これくらいの方が動きやすそうね!」


ふふ、と悪戯っぽく笑うと長い階段を駆け降りてそのままアトリエを飛び出して下に続く階段を見下ろす。

下の方で激突している冥王とペガサスの小宇宙を感じ取り、エレナは自分の考えが"正しかった"のだと悟った。


今、殺しあっている筈なのに………彼の小宇宙は安らいでいるのだから。


アローンは、ずっと………『彼』に会いたかったのだ。


胸の上に手を置き、淡く微笑むと花輪のある右手を強く握り締める。


「テンマ、サーシャ……今度こそ、みんなで迎えに行きましょう。私たちが闇の中に置き去りにしてしまった『アローン』を」

それぞれ終わりへ続く長い階段を、自らの足で駆け出して行った。



















「………どうしてだテンマ……。どうして立ち上がってしまったんだ……」



片翼になっても小宇宙を燃やして立ち上がった血塗れのペガサスに、アローンは傷付いたような表情をしつつも驚きを隠せない。


「君、もう肉体も魂もボロボロのはずなのに…」
「響いてきたのさ…耶人やユズリハたちの命の限りの声が、闇の中に墜ちかけた俺を引っ張りあげるくらい強く……!」


テンマの声に応えるかのように聖闘士達は己の小宇宙を燃やしてテンマを見つめた。


「自分の進んできた道を信じろって……やり遂げろって。この道は、みんなも支えてきた道だって!!!」



「……ええ、そして彼等の意思はこれから遠い次代へと引き継がれていくの」

「!…あっ!!」
「……エレナ」

息を切らせて降りてきた女神を見るなり、「なんて格好をしてるんだ…」と半ば呆れたような言葉を漏らすアローン。


「また僕と対立しに来たのかい?」
「違うわ………今度こそ貴方を、迎えに来たのよ。アローン」
「……それはもう遅いといった筈だよ。僕は、君たちを送り出す方だ。そして真の救済を、この手で完成させる」
「アローン、俺たちは死を救済にしない。助け合って生きていく!」


テンマの瞳が、周りで燃えている小宇宙の光を映してまるで燃えているかのように朱色となって力強くアローンを見つめていた。

サーシャがふいに花輪を見つめ、その花輪にアテナの力を込め始めたのを見てエレナも花輪へとペルセポネの小宇宙を送る。

すると、サワサワと一つの蕾しか残っていなかったテンマの花輪に大量に蕾がついて花を咲かせていく。



「……それは、お前も知っていた生き方のはずだろう」

"アローン!!!"


一瞬、驚いたように見開かれたアローンの瞳が幼さを帯びた。


「懐かしい……、遠い昔の話だ」

表情を不敵な笑みに塗り替えたアローンたちの傍で、ロストキャンバスの最後の一枚が燃えていく。

四人で笑いあっている絵が、もう叶わない夢のように燃えカスとなって消え失せ、テンマの周りに充満していた聖闘士たちの小宇宙が渦を巻いて集まる。


……まるで、宇宙のように。


拳を構えたテンマへと、大剣を携えたアローンが向かっていく。




アローン…!

俺はお前を一人にしない。

帰るぞ、アローン!






"あの日へ!!"


テンマの体に大剣を突き立てられる事はなく、アローンのわき腹をテンマの腕が貫いていた。






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