You are not alone_01 

ー32ー
『You are not alone』





ガシャーーーンッ!!!



何処か遠くで、ガラスが割れるような激しい音がしたと思うと、エレナが見ていた景色はまるで映された虚像のように崩れていき一斉に塗り替わる。




「……ん…」


フワフワと頬に当たる気持ちのよい感触に触れながら目を開けると、暗転した世界は一面が花畑で覆われていた。

澄んだ空気は洗練され過ぎていて、偽物臭い。


そして、空は美しいガラスのドームのようになっているが、割れてしまったかのようにところどころに亀裂や穴ができておりその先は真っ黒な闇だった。


花畑以外何もない空間を眺めていると何故か、眠ってしまおうかという考えがおきて再び、視界を閉ざすと「エレナ」と呼ぶ声がした。



(誰……?もう、起きたくないの……)


起きるよりかも、眠っている方が幸せで心地がいいもの……。

それに苦しくも、悲しくもない……。
全部、夢だと済まされるのよ。


「そうやって、全部諦める気なの?エレナ」
「……!」

すぐそばから声が降ってきた事に驚いて顔を上げると、そこには上半身裸の少年………が、あぐらをかいて座って居た。

見たことがある、何処かで……。



「あの……どなたですか……?」
「……酷いなぁ。俺、ぜっったい何があってもエレナの事だけは忘れない自信あるのに!!ねえ、俺の事…本当に思い出せない……?」


そうやって少年が悲しそうに微笑んだ時、上の天井にヒビが入り頭に何かがひらめく。



「………れ、ぐるす……?」
「!やったッ!そうそう、レグルスだよ。ねえ、エレナこんな処早く出ようよ。
みんな……それにアイツも、本当はエレナの事も待ってる」
「みんな……?それにアイツ……って」



そういうと、「うーーん、どうしよう」と唸るレグルスと言う少年に、こちらもどうしたものかと首をひねった。



……此処はどこなんだろう。
あ、そう言えばアローンは……?

何処に行ってしまったのだろうか。


体を起こしてアローンを探していた為、レグルス君が寂しそうな顔でこちらを見ていることに気づかなかった。


「だぁッ!!もうめんどくせェな……!!いっその事一発殴ちまおうぜ」
「!」
「ダメに決まってるだろ!!エレナにそんなことしたら、俺許さないからな!」


むーっとしているレグルス君が見ている先、怒鳴り声がした方を振り返って私も見るとそこには青い髪を逆立てている青年が立っていて面倒くさそうにため息を吐いていた。



「お前、散々人に迷惑かけまくっといてそれはねェだろ!!こんの、じゃじゃ馬め!」
「……誰?」
「あ"!?マジでありえねェ……」


レグルス君の隣に並んだその人が「マニゴルドだ」と言うと、上の方のガラスにビシビシッと巨大な亀裂が走った。

それを見たマニゴルドさんは「おォー!」と呑気にそれを見上げている。


「マニゴルド…?」
「なんか、思い出したか?」
「私……多分、貴方に酷いことした……」
「?いや?そこまで嫌なことされた覚えはねェーな」


うーん?とレグルス君の頭に肘を乗せて考え込むマニゴルドさん。
肘掛けにされていることが不服らしく、レグルス君はむくれた顔をする。


「重くはないけど、やめろよ!」
「重くねェなら、いいだろ?それに、痛みもねェんだから」
「……(むー」

ぐりぐりっと不満そうなレグルス君の頭を撫でているマニゴルドさん。
きっと、二人は仲良しに違いない。



でも、なんで二人は此処に……?
本当に、此処はどこなのだろうか……?


そんなことを考えいると、「あ!!」とレグルス君が嬉しそうな声を上げて私の後ろの方を見つめた。




「あまり時間はないのだぞ、手短に済ませなくては」
「堅てぇこと言うなよ、別にいいじゃねぇの」
「確かに、あまり時間はないな。悠長な事は言ってられないぞ、カルディア」

「だから、と言って怯えさせてはいけないぞ。この方がどんな方か、忘れるな」


近付いてきた大勢の気配に驚いて再び後ろを振り返ると、そこには屈強な男性たちがぞろぞろとやって来ていたのだ。

「あ、シジフォスー!」なんてレグルス君が嬉しそうに手を振っているが、さすがにあんなにたくさん人が来たら驚く……筈なのだが、どこか懐かしい感じがした。



「エレナ様、我らの事も思い出せませんか……?」


レグルス君にそっくりな顔をした男性が、目の前で恭しく膝をついて優しく穏やかな顔で微笑む。

優しさが滲み出ている顔は、見ているだけで何処か心が落ち着いて来るような不思議な感覚かした。



彼から視線をずらして、後ろにいる男の人たちを眺めてみると何故かその名前が頭に思い浮かんだ。


「あす、みた……カルディア……デジェル…シジフォス」

アルバフィカ…エルシド……アルデバラン…



名前を呼ぶ度に空のドームにはヒビが走って、パラパラと細かい残骸が花びらとなって落ちてきたが、それは彼等の体をすり抜けていった。

うっすらとその体をすり抜けて見える景色。




「……みんな、"死んでしまった"……?」


無意識にそう溢した瞬間、とうとう天井の一部が崩れた。


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