遠い日 

※まだ幸せだった時の話



白、一色に染まる街に尚も雪が降り積もり続ける。

貧民街にある孤児院にも冬の知らせはやって来ていた。




「雪だぁ!!」
「今年もいっぱいつもると良いね!!」


きゃあきゃあと喜びながら窓にかじりついている子達の後ろからヒョコッと外を覗いたテンマは、ニッと悪戯を思い付いたように笑う。




「サーシャ!エレナ!アローン!」


バンッと扉を蹴破る勢いで三人のいる部屋へやって来ると、暖炉の前で絵を描いているアローンとその手元を覗き込んでいたサーシャとエレナもビックリして振り返る。



「外にでてみようぜ!」
「ぇええ!?外雪降ってるんだよ?」
「いいじゃねぇか!ちょっとくらい!」


な!と笑うテンマに一番最初にサーシャが「面白そう!」と食いついて立ち上がった。


「兄さんもエレナも行こう!」
「うん、楽しそうね!」
「……でも、」


ぐいぐいとサーシャに腕を引かれ、渋々アローンもついて行く。


出るときに外套を羽織るも、厚手のモノでない為たいして寒さを凌げない。

しかし、テンマ達は元気よく外に飛び出すと白銀の世界に喜びの声を上げた。



「行くぜ!くらえ!」
「きゃっ!何するのよテンマ!!!えいっ」
「わっ、冷たい!」
「あ、エレナごめんね!もう、テンマの馬鹿!!」
「って、俺のせいかよ!!」



言い合いながら雪を当て始める三人を、戸口に立つアローンはぶるぶる震えながら見つめる。



「コラ!三人とも、風邪ひいちゃうよ!?」


忠告も聞こえないほどに熱中して遊びほうけている三人に、アローンがため息を漏らした時、



「おらっ!」


テンマの渾身の一撃がサーシャを通り過ぎ、バフッとアローンの顔面にヒットする。


これにはさすがにテンマ達も顔色を変えてアローンに駆け寄る。


「わ、わりいアローン!」
「……」
「アローン兄さんに何するのよテンマ!」

「大丈夫!?アローン!」


サーシャが怒ってテンマに雪をぶつけている中、エレナはアローンの髪についた雪を払う。

黙っていたアローンだが、フラリとよろけるとそのまま足元の雪をわし掴む。



「!!わっぷ」


サーシャと言い合いをしていたテンマの顔に向けて白い塊を投げつけ、普段笑みを絶やさないアローンが久々にムスッとした表情をしていた。



「お返しだよ!」
「へっ、やったなこの野郎!」



キャーキャー言いながら再び雪を当て合い始めると、いつの間にか四人とも笑顔になって夢中で遊んだ。


夕食を作っていたシスターが「こら、年上がやるとみんなマネしてしまうでしょう!!」と止めに来るまでそれは続いた。



















「…アローン?」


戻ってすぐお風呂に入れられて夕食を食べたのち、毛布を頭からかぶって暖炉のある部屋へ行くと先約がいた。


「サーシャ、寝ちゃったんだ」
「うん。さすがに遊び疲れたんだね」


アローンは、膝の上で頭を預けてスヤスヤと眠っているサーシャの湿った髪を優しい手つきで撫でた。


「そっち行っていい?」
「うん、おいで」


お許しが出た為、すぐに暖炉の前で座っているアローンの隣に陣取り、サーシャのようにアローンに身を寄せて肩に頭を預ける。


「寒い?」
「ううん、平気。あったかい」



「そっか」と笑ったアローンに安心すると、何故か眠気に誘われ、そのまま意識を手放す。
いつの間にかアローンの瞼も閉じ、エレナの頭に頬を当ててスヤァと眠りについた。



「おーい、三人とも…まだ眠」

はっと己の口を塞いだテンマは、「しょうがねぇな…」と笑うとエレナの反対側に座り、同じようにアローンによりかかって目を閉じた。




この時はまだ、この幸せが続くと信じて疑わなかった。


遠い、日々

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