独占欲 ※冥王が単身で聖域に来襲した時 「……アローン……」 久々に聞いた心地好い声。 はっきりと彼女の声が耳に届いた時、まるで魂が歓喜するように震えるのを感じた。 彼女の魂も血肉も、全て愛していたかのように胸が熱くなり、堪らなくなって振り返ると同時に目を見開いた。 ゆるく波打って広がる金髪、透き通るような白い肌、仄かに赤みを帯びた頬、強い生気を秘めた瑞々しい碧色の瞳…… 二年ぶりに見た彼女は別れた時よりも艶やかで、まさに女神が転生したと言われても納得してしまう程に美しい乙女へと華咲いていたのだ。 アテナ……サーシャも見違える程美しくなったが、彼女の可憐さには及ばない。 あれが、冥王ハーデスが地上から浚って花嫁にしたという春の女神。 ハーデスが愛しさに狂う程に求めた温もり…… 思わず生唾を呑んだ後、彼女の名前を呼ぶと泣きそうな顔になって涙を滲ませた。 そんな顔も、愛しく感じる。 しかし、彼女の目は逸らされて射手座の聖闘士の名前を呼んで彼に駆け寄った。 エレナ、僕を見て…… 彼を射った手を、近付いて来た彼女に伸ばす。 頬に触れると柔らかくて、温かい。 スッと彼女の内側にも触れた時、ふと気づく。 (まだ、エレナはペルセポネの意識に目覚めてない……?) 二年経ってとっくに目覚めているモノだと思ったが、内側に触れたのに彼女はまるで無反応。 「……そうか、まだ君は完全に覚醒したわけではないんだね」 「……?」 まだまだ蕾のエレナを僕の手で目覚めさせられる。 "ペルセポネ"ならば冥王であるボクのモノ。 ……エレナを、僕のモノに出来る。 「……エレナ。いや、我が妻ペルセポネよ」 「!」 躊躇うことなく、パンドラがしたように彼女に口づけ、微かに開いたエレナの唇を舌でこじ開けて僕の血をその喉に流し込んだ。 ぐるぐると温かくて優しかった彼女の中に、僕が混ざっていく。 拒否反応が出るかと思いきや、エレナは呆然としていて口の端から飲み切らなかった血がこぼれた。 ぐいっとそれを指で拭って、彼女に紅をさすように柔らかい唇をなぞりながら塗り付ける。 「エレナ」 愛らしい彼女に笑いかける。 「………ハー……デス」 「そう。僕が、ハーデスだ。ハーデスとして、君を迎えに来たんだよエレナ」 嘘……… "好きよ、アローン" そう紡いだ同じ唇で、今度は抱きしめた僕を拒絶する。 ハーデスである僕の為に、生まれた命。 あの幼い日々も、この為だったのだろう。 ハーデスに取り込まれぬように、わざと闇の力に魂を馴染ませた僕にとって、間違いなく彼女は光だった。 ……彼女だけだ。 きっと、彼女だけが僕を理解してくれる。 黒く染まったこの腕にも抱かれてくれる。 だから、僕は救済を完成させる。 エレナを、僕だけのモノにするためにも。 [*前] | [次#] 戻る |