今は昔の物語
『いばらの森』の眠り姫
千年夢見てねむる姫
流れる髪は エメラルド
恥じらう頬はバラ水晶
『いばらの森』のねむり姫
目覚めぬ哀れなとりこ姫
緋色の髪の魔王が紡ぐ
毒の想いに呪われて
『いばらの森』のトゲの奥
ずっとずっと夢みてる
世界が消える夢をみる
いつか落ちる黒い月
いつか崩れる白い月
とどめる祈りも夢に棲む
魔物に喰われ枯れ果てて
真珠の涙も砕け散る
『いばらの森』のねむり姫
トゲに包まれねむる姫
悪夢が現となる日まで
勇者が悪夢をとめるまで
ぱたん、と優しい音が辺りに響く。
静かに本を閉じたのは、アクアマリン色の長く美しい髪を靡かせ、美しい青を基調としたドレスを着た美しい少女だった。
テラスであろう場所にいる彼女には、空に輝く白い月が優しい光を浴びていた。
少女は一人悲しげに顔を俯かせた。
「……とても可哀想」
「何がだ?」
突然、少女の後ろに青年の姿が現れた。
少女は驚かず、じっと本を見つめながら言葉を続けた。
「永遠に悪夢を見続けるんでしょう?」
「そうだな。この童話だとそうなっている。祈ることさえ叶わぬ場所で眠らされているのだろうな」
青年はゆっくりと少女に近づいた。コツコツと優しい青年の足音を、目を閉じて聞く。
「けれど、姫様は幸せになりますわ」
「どうしてそう思う?」
少女は小さく微笑んだ。とても自信に満ち溢れた顔をしている。
「だって勇者様の手によって悪夢は終わるんですもの」
「そうだな。だが、来れない場合もあるかもしれんぞ?」
少女は口の端を上げ、青年の方に振り向く。
その顔は自信に満ち溢れ、意地悪な顔をしていた。
「もしそうなれば、私が代わりに姫様をお助けいたしますわ」
「お前は本当に勇ましいな。誰に似たんだか」
青年は困ったように笑い少女に近づき頭を撫でた。
「ふふ、それはもちろんお兄様です」
「それもそうだな」
二人は幸せそうに微笑んでいた。
未だに空には美しく輝く白い月が辺りを照らしている。
彼女らの笑顔は、光に照らされて絵画のように美しくなっていた。
そしてその数日後、少女は姿を消した。
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