01-1 眠れぬ哀れな王子様


プラチナブロンドの髪が風に乗って揺れる。そのキラキラ輝く美しい髪の持ち主は、まるで少年のような服装を着た少女だった。
すやすやと寝息をたてるその少女に、微かな声が聞こえた。

…ぃ……きろ……

ーーー誰かが呼んでる。折角いい気持ちで寝てるのに……

……早く……きろ、お…

ーーー起こそうとするのは……誰?

しょうがなく、少女は重たい瞼を開ける。真っ先に飛び出たのは清んだ青空と綺麗な太陽だった。

「ま、眩しい……」

まだ寝起きな為か太陽が眩しく、思わず手で影を作る。しかし目が覚めてくると共に光にも慣れてきた。

「とりあえず……ここは何処だろう?」

起き上がり、辺りを見渡すと草が絨毯のように敷き詰められていた野原だった。
人は誰も居らず、自然の楽園の様に美しい景色だ。
しかし、コーラルにここの景色の記憶はない。初めて来たようだ。一体どうやってここまで来たのだろうか?

「痛っ」

コーラルは一生懸命思い出そうとすると、胸のあたりがズクンと痛み、思わず顔を歪める。
痛む胸を抑えながらコーラルはもう一度辺りを見回す。

「綺麗だな……」

意図せず零れた言葉は、景色に関する素直な感想だった。
暫く楽園のような景色を見つめていると、何処からともなく男の声が聞こえた。

ーーーおい、なに呑気に眺めてるんだ
「え?」

頭に直接語りかけるように聞こえる。一応キョロキョロと辺りを見渡すが、声の主が見つからない。周りに人が居ないのを確認したので当たり前だ。

ーーーここだここ、お前のスピリアの中だ「スピリア………?」

男から発せられた単語に首を傾げる。コーラルにはその意味が理解出来なかった。
スピリア?聞いたことがない言葉だ。

ーーースピリアが分からんのか?……そうか、やはり………

その後男は小さい声で何かを言っていたが、コーラルにはよく聞き取れなかった。聞き返そうと思ったが、自分の中の何かが引き止めたので、そのまま黙っていることにした。
そもそも、今のコーラルは、何が何だかわからない。

「結局あなたは誰でどこに居るの?」

不思議と恐怖心はわかなかった。むしろ好奇心の方が強かった。

ーーースピリアだ。感情や意識をつかさどっているところの中にいる。俺はそれまで指輪の中にいた
「指輪?」

ふと右手を見ると、中指に美しい装飾の施された指輪がはめられていた。

ーーーそれだ。それはソーマで、俺はスピリアだけそこにいたんだ。

ソーマ?また知らない単語だ。この男は一体何者なのだろうか?

「貴方は一体何者なの?ソーマやらスピリアやら知らない単語ばかり……」
ーーー俺はジェデート、結晶人と呼ばれる種族だ
「結晶人?」
ーーーそうだ。またその事については今度話そう
「……じゃあ、僕って誰?どうして此処にいるのか分からないんだ」
ーーー……お前は過去の記憶がない状態だな。だから俺がお前に色々教えてやる
「……ありがとうジェデート」
ーーージェードでいい
「分かった、ジェード」

“ジェード”と呼ぶと微笑んだ様に感じた。
実際は顔が見えないので分からないが。

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